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岩林誠6

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自治体PR動画は死んだのか?

【岩林誠(いわばやしまこと) 経歴】
四街道市役所シティセールス推進課長。J-PHONE/ボーダフォン宣伝部、I&S BBDO(広告代理店)、はるやま商事マーケティング部等でのマネジメントを経て、四街道市初めての民間出身管理職として現職。

(記事提供=シティプロモーション超入門

 私の肌感覚を信じるならば、地方自治体のゆるキャラブームが一段落を迎え、PR動画ブームもそのあとを追っているような気がします。私が勤務する四街道市も2018年度に3作品を制作しましたが、その後の予算が取れていないのが現実です(四街道市の場合は財政状況が全体的に厳しいというのが大きな理由ではあるが)。

 「PR動画」ということばを新聞雑誌記事検索すると、2014年に初めて3桁の記事件数となり、その後、2015年-197件、2016年-428件、2017年-957件、2018年-1044件と、この数年間でうなぎ上りとなっているという事実はあります(図1参照)。

「PR動画」記事件数推移

図1

 しかしながら、民放テレビ局でも飽きたのか、最近はニュース番組でも地方自治体のPR動画をあまり取り上げなくなった気がします。

 このことは、自治体側での動きが沈静化してきていることと、世の中にはいくらでも面白く刺激的な動画が次々と投稿されるので、特に今さら自治体PR動画を取り上げる必要がないということのように思えます。

 ただし、あまり紹介されなくなったからといって、動画という表現形態そのものに問題があるわけではありません。要は自治体のPR動画の多くは、作品としてあまり上手くない、あるいはきちんと観られていないということだと思います。私が観る限りの自治体PR動画に関する論点は以下です。

  1. 制作目的の明確化
  2. ターゲット設定
  3. キーメッセージの明確化
  4. 「借りてきた興味」に陥らないこと
  5. リーチ、エンゲージする設計
  6. KPI設定とトラッキング

制作目的

 当然ながら、まず「何のために動画を作るのか」をはっきりさせる必要があります。「認知向上」でもいいでしょう。ただし、街の名前だけ伝えることは意味があるでしょうか。自分の名前を他人に知ってもらうことを考えればわかりますが、単に「名前」だけ覚えてもらうだけでは十分とはいえないでしょう。表現面(シニフィアン)と内容(シニフィエ)はセットです。記号=言語とはそのように出来ています。「○○市は、○○な街」であることをきちんと表現し、観てくれる人に認識してもらうことが正攻法です。このことは3のメッセージの明確化に関係してきます。

ターゲット

 ふたつめは、ターゲット設定です。もちろん行政が作るものなので、特に絞り込めない場合もあるかもしれませんが、コミュニケーションの対象がはっきりと絞り込まれているならば、それを意識したクリエイティブアイデアやキャスティングが必要です。ただし、20代女性がターゲットだとしても、20代女性をキャスティングすればいいということではありません。ターゲットとは、その対象とすべき人たちに届きやすく、共感を呼ぶかどうかがポイントです。私がかつて勤務していた外資系広告代理店の研修では「ターゲットとなる人々を広告に登場させるな」とまでいわれていました。

キーメッセージ

 三つめのキーメッセージは一番大切です。動画に限らず宣伝や広報とは結局は「意図されたメッセージ」です。誰に向かって何を伝えたいのかをきちんと設定せずにクリエイティブを考案したり、制作を進めてしまうのは限られた原資の無駄遣いにつながりかねません。メッセージとは言語や視覚的な表現などで構成されますが、とりあえず一度短いフレーズとして言語化してみることをお薦めします(「○○市は、○○にすぐれた○○な街です」など)。

「借りてきた興味」

 英語では”Borrowed Interest”と呼んでいます。残念ながら、自治体のPR動画にはこの傾向が強い作品が多い気がします。つまり、本来の伝えたいメッセージを伝えることよりも、ビジュアル的なインパクトや演出の仕掛けなどで目を引く手法のことです。話題になる、視聴回数が稼げるという意味では、魅惑的な手法ではありますが、映像そのものは観たけれど、どこの何の告知だったか覚えていないという本末転倒の事態を招きかねません。テレビコマーシャルでも、映像は覚えているけれど、どこの会社の何の商品広告だったか思い出せないという作品がたくさんあるはずです。派手なアクションや興味を引く映像の仕掛けなどで、目を引くことや結果的に視聴数を稼ぐことはできますが、伝えたいことが映像表現に埋もれてしまうことさえ起こりかねません。

 このような表現手法はマスコミ受けもしやすいため、一見上手くいったように見えてしまうところもかえってクセモノです。注意が必要です。

リーチ、エンゲージメント

 自治体のPR動画でよく指摘される問題として「視聴回数不足」があります。作ったはいいけれど、結局観られていない。ターゲットに到達(リーチ)していない。もちろん視聴回数をKPIにするかどうかという論議はあるかもしれませんが、やはり観られていないというのは、基本的な問題点です。YouTubeの各自治体チャンネルを覗いてみると、万単位の視聴数に至っていない動画が多く見受けられます。基本的にフォロワー(登録者)が少ない自治体のチャンネルでは、普通に動画を掲載するだけでは、ほぼ視聴されません。このような場合には、動画広告の購入予算を確保しておくことをお勧めします。

 また、SNSの場合には、リーチに加えて、いいね、シェア、コメントなどのエンゲージメント(つながり)数が基本的な指標になります。各プラットフォームの管理ページなどでトラッキングしていくことが大切です。

KPI設定とトラッキング

 前述した「借りてきた興味」にも関係しますが、PR動画の場合、何をKPIとするのかが最も大切です。単純に「合計視聴回数」だけをKPIにしてしまうと、視聴回数が稼げる動画を作ろうという論理になってくると思われます。そうすると、目を引く刺激的で面白い動画がいい…ということになりがちです。視聴回数はもとより、動画の内容が理解できるか、いい印象をもつ表現かどうか、観た後に何らかのアクションを起こしたかどうか(Call To Action)など、目的とするパーセプションやアクションに関する適切なKPI設定とそのトラッキング方法を準備することが必要です。

 誤解を恐れずに申し上げるならば、やはり地方自治体のPR動画施策は、素人の域を出ていないものが数多く見られます。適正なコンテンツ、適切な配信、適切な効果測定の三拍子が揃ってこそ効果が高く、説明責任を果たせる施策となるはずです。最も望ましいのは、行政組織内部に適切に発注できるディレクターがいることですが、それが難しい場合でも、適切なブリーフィング(仕様書の作成)と進行管理ができれば、あとは外部のプロの力を引き出すことが十分に可能です。

 行政内部でアイデアを作り、キャスティングし、撮影や編集を行うことをすべて否定するわけではありませんが、それを微笑ましく眺めて、よく出来たねといっている時代はとっくに終わっていると思います。

まとめ

  • 一時期流行していた地方自治体のPR動画は一段落しつつある
  • ただし、PR動画そのものの有効性が否定されたわけではない
  • 改めて確認すべき論点は、制作目的、ターゲット、キーメッセージ、「借りてきた興味」に陥らないこと、リーチやエンゲージメント、KPIと効果測定
  • 適切なブリーフィングでPR動画は有効な施策ともなりうる

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