役所のネガティブなイメージはどこから来るのか
学生時代からの友人のように、気心の知れた人間と話をすると、悲しいかな地方公務員に対して、いまだに『お役所仕事』などの、ネガティブなイメージを持っている人が実に多い。辛辣なところでいうと、「取材に値する人ってそんなにいるの?」なんて言われることもある。もちろん、ここは明確に「ある」と答えておく。
そこで、「むしろ、何でそんなにイメージが悪いの?」と逆質問をすると、「窓口での経験や対応に不満を持っている」という話が本当に多くあった。窓口は何かしらの義務を果たす際の、住民と自治体の大きな接点だ。義務という性質上、住民が好んで訪れることはそこまで多くないだろう。しかし、住民にとって必ずしも望んで行きたくない場所だからこそ、窓口の対応についてはもう少し考えてもいいと思う。
しかし、ここで断っておきたいことがある。窓口対応をしてくれる方の印象は、私は悪くないと感じている。確かに、銀行などの窓口に比べると、元気や笑顔などの雰囲気作りに劣る部分があると感じることもあるが、物腰も十分に柔らかい。時には、過剰に気を遣ってもらえていると思うことすらある。
もしかしたら、クレーマーのような人に怯えるあまり、そうなってしまっているのかも知れない。(私がクレーマーに見えていたら申し訳ないのだが)
改善すべきは『書類』ではないか
では、どの部分で改善できるのだろうか、これは間違いなく『書類』だと思う。まず、一目見てもどこに何を書いて良いのかわからないものが多い。
細かく挙げていくと、項目に対する説明が不足している点、自分が書かなければならないのか、役所の使用欄なのかわからない点、押印も自分なのか役所なのかわからない。そして、どの欄が必須項目で、どの欄が必須でないのかなど、きりがない。
私は会社設立の際の提出書類で「印」と書いてあるところに印鑑を押したところ、「ここは、役所が印を押すところだ」と言われたことがあるし、同じく会社設立のところで、先ほどとは別の「印」という欄に会社印を押したところ、「ここは個人印である」と言われたこともあった。これは、言われるまでわからないことだ。
仮に役所が印鑑を押すべき場所なのであれば、「印(役所使用欄)」と記載するだとか、役所の使用欄全体をわかりやすく網掛けだとかにしてもらえば済むことなのだと思う。
クレカの申し込みフォームは作り込まれている
ちなみに、クレジットカードの申し込み書類や、オンライン申込フォームを見たことがない人は殆どいないだろう。私はこれらでストレスに感じることはまずない。項目はそれなりに多いし、難しい用語もある。さらには、人の年収という、センシティブな情報まで聞き出そうとしてくるにもかかわらずだ。いずれにせよ、クレジットカードの申し込みフォームは記載する側の心理を読みながら、どういうフォームを作るべきか突き詰めて考えられていると思う。
なぜ、そこまでするかというと、もし我々が「クレジットカードの申し込み手続きが面倒くさい」と感じた際には、申し込みを止めることができる。当たり前の話だが、申し込みフォームの作り方で申し込み率は大きく変わるのだ。企業からしてみれば、当然これは売上に直結する大事な要素だ。一方、役所への手続きの場合はそれが義務として課せられているため、住民はどうにかして書類を出すように努める。
もし、クレジットカードや金融商品を申し込むために、書類作成を代理で行う行政書士のような人物がいなければならないのだとしたら、そんなサービスは決して流行らないだろう。もちろん、行政書士が悪というわけではない。しかし、出来る限り彼らが不要になる努力をして欲しいと切に願う。
電子政府先進国であるエストニアでは、税理士や行政書士の仕事は電子化とともに激減しているそうである。つまり、出来るはずなのだ。
書類を改善することは みんなが幸せになることだと思う
書類がわかりやすくなれば、記入者である住民が自己解決できる確率が上がる。そうすると、窓口で質問を受けることが減り、対応業務に割く時間も抑えることできる。そして、書類のフォーマットは一度作れば、その時点から効果が持続的に続く。だとしたら早めに手をつけるべきではないか。
民間企業では受付や窓口は企業の顔だと言われるほど、気をつけているポイントだ。お店に入った時に、笑顔で迎えてもらうだけでも人は意外と幸せになれるものだったりするからだ。
逆に言えば、自治体も窓口対応、特に『書類』を改善するだけで、手続きが簡単になって住民は喜ぶ。自治体にとっては住民に対してプラスの印象を与えることができ、かつ、対応にかける人的コストも削減できる。さらにいうと、人的コストの削減によって、もう一度、住民からの満足度を生むこともできる。
つまり、それだけで皆が幸せになれる気がするのである。
株式会社ホルグ代表取締役社長。株式会社ネクスト(東証一部:2120 ※現「株式会社LIFULL」)に2007年4月に新卒入社し、営業グループマネージャー、WEBプロモーションにおけるグループマネージャーなどを経て、2012年5月に同社インドネシア子会社『PT.LIFULL MEDIA INDONESIA』の最高執行責任者(COO)/取締役として出向。子会社の立ち上げを行い、以降4年半ジャカルタに駐在。2016年9月に同社退社後に、株式会社ホルグを設立。
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