[記事提供=旬刊旅行新聞]
1月初旬、東京湾の横須賀・富津間に築かれた「第二海堡」(海上に人工的に造成した要塞)から、東京湾要塞の全貌を俯瞰するヘリコプターによるツアーを経験した。
観光庁「地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業」の支援を得て、横須賀市で軍港や猿島クルーズを手掛ける、㈱トライアングルの社会実験の一環である。
東京湾要塞とは、首都東京の入口である東京湾周辺の防衛を目的として、海上に設置された人工要塞のことである。横須賀など三浦半島と対岸の富津など房総半島に設置された、合計32の砲台と海堡で構成され、これらを総称して東京湾要塞と呼んだ。
要塞は1880(明治13)年に横須賀観音崎砲台から建設が始まった。東京湾で最も幅が狭い富津岬と観音崎間の東京湾湾口部が防衛線とされ、日清戦争までの間、横須賀軍港周辺の8カ所、観音崎・走水地区に15カ所、富津岬の1カ所、第一海堡の計25カ所の砲台が完成した。
ただ、1923(大正12)年に発生した関東大震災では、東京湾に浮かぶ3つの海堡のうち、第二・第三海堡は大きな被害を受け、とくに横須賀側の第三海堡は修復困難と判断され、そのまま除籍となった。
その東京湾要塞のうち、猿島と千代ヶ崎砲台跡は、2015年に「東京湾要塞跡」の名称で国の史跡に指定された。明治以降の軍事関連施設では初の指定である。猿島は既に観光資源として活用され、千代ヶ崎砲台跡も昨年以降、横須賀市が実施する近代化産業遺産を訪ねる「めぐるプロジェクト」の一環で開放され、浦賀の赤煉瓦ドックとともに、大変な人気となっている。
今回の社会実験の舞台となった第二海堡は、安全上の理由などから、長く立ち入りが禁止されていたが、19年以来、㈱トライアングルが事務局を担う東京湾海堡ツーリズム機構が核となり活用が始まった。昨年実績で年間40回以上の各種民間業者による上陸ツアーが行われてきた。しかし、洋上からだけだと東京湾要塞の全貌が見えず、要塞全体を俯瞰したいという思いから今回の企画につながった。
第二海堡には、砲台跡や砲台をつなぐレンガ造りの地下施設、昭和期に増設された中央砲塔観測台など多くの遺構がある。テレビ番組「ブラタモリ」にも取り上げられたことから近年、人気急上昇中である。
今回の社会実験は、横須賀の三笠ターミナルから第二海堡までをクルーズした。第二海堡から3つの飛行コースでヘリコプターによる上空遊覧を楽しむというツアーである。現在、国土交通省の管轄下にあるが、その許可条件とともに、気象条件などによって年間催行回数が決められる。その状況によってコスト条件なども大きく変わるが、近代化遺産活用に向けた、今後の活用に期待が膨らむところである。
(日本観光振興協会総合研究所顧問 丁野 朗)
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