【岩林誠(いわばやしまこと) 経歴】
四街道市役所シティセールス推進課長。J-PHONE/ボーダフォン宣伝部、I&S BBDO(広告代理店)、はるやま商事マーケティング部等でのマネジメントを経て、四街道市初めての民間出身管理職として現職。
(記事提供=シティプロモーション超入門 )
シティプロモーション、シティセールスの定義やその実行主体である行政組織内の当該部門の事務分掌の話題にもう少しだけこだわりたいと思います。シティプロモーションの定義や事務分掌は、単に言語的な定義の問題ではなく、現実的に自治体運営全体に関わる問題だからです。
村山徹氏も「シティプロモーション政策は、都市ブランドやシティセールスなどの類語も混在するため、行政における位置づけがあまり明確になっていない」と指摘しています(*1)。また、同じ論文のなかでシティプロモーションに関する海外での研究も紹介しています。
(Graham Hankinson "Rethinking the Place Branding Construct" p20)
村上氏によると、「都市政策」を発端として、そのイメージや評判を向上させる「プレイスプロモーション」と、コトラーなどによって体系化されたマーケティングから発展した「プレイスマーケティング」、それから観光振興を目的としたツーリズムを起源とした「デスティネーションブランディング」などが融合し、現在は「プレイスブランディング」として収束していると述べています。
そして、これら系譜を概観すると、大切な点が見えてきます。「地域」を対象としたマーケティングやブランディングは、「ブランディング」側に収束されてきているということです。つまり、「場所や空間」のブランディングは、自由市場でのビジネスを前提とした「マーケティング」とは一線を画したひとつのカテゴリーとして成立、成熟してきているということだと思います。
マーケティングはその名の通り、マーケットをingする活動、つまり商品やサービスの売上や利益を最大化する原理にほかなりません。一方、場所や空間をプロモートするということは、その地域に遊びや観光に来てもらい(交流人口の増加)、住んでもらい(定住人口の増加)、そこで働いてもらい(就労人口の増加)、結果的にその地域を好きになってもらい、いい評判を広めてもらうということです。そこには市場創造(マーケティング=利益の最大化)では括りきれない、人々の非営利的な意志、行動や必ずしも合理的ではない判断が大きく含まれているということだろうと思います。
また、どこかのタイミングで語ろうと思いますが、カテゴリーの大小で表記すると、
プロモーション < マーケティング < ブランディング
ということになろうかと思います。
以上のように、シティプロモーションとはどうも最終的には「ブランディング」に集約されていくらしいという仮説を念頭に置きながら、翻って、前述した事務分掌を見返し、その方向性のあり方を大別してみます。
- 方向性(1)シティプロモーションとは、積極的なコミュニケーション活動
- 方向性(2)シティプロモーションとは、積極的なコミュニケーション活動+街のセリングポイント開発
いい換えると、方向性(1)は広報、宣伝(PRとマーケティングコミュニケーション)中心の考え方、方向性(2)は広報、宣伝に加えて、サービス開発、観光地開発、商品開発などのセリングポイント開発(街の売りづくり)が上乗せされる考え方ということです。
前回の記事で見た事務分掌と照らし合わせてみると、
- 報道機関への情報提供及び連絡調整に関すること
- ホームページ等の運営に関すること
- コールセンターに関すること
などという項目は、広報広聴(コミュニケーション)の範疇であり、ほぼ方向性(1)の範疇だといえますが、方向性(2)とは、上述に
- シティセールスに係る企画及び総合調整に関すること
- 重要イベント等に係る総合調整及び情報発信の統括に関すること
- 国際観光都市戦略に係る総合調整に関すること
- イメージ向上に係る各課の連携及び調整並びに情報発信に関すること
などの項目が加わったことを意味しています。
さて、ここが大きな分かれ道です!
単刀直入にいいますが、上で示した方向性(2)の選択は非常にチャレンジングです。民間企業でいうならば、方向性(1)は広報部と宣伝部を合体させたようなもの、あるいはそれにカスタマーセンターを合体させたようなものです。それでもコミュニケーション業務に集中しているといえるでしょう。
それに対して方向性(2)の場合は、広報部、宣伝部とともに製品開発部やサービス開発部をさらに合体させたような感じです。
マーケティングでいうところの4P(Product、Price、Place、Promotion)に照らすと、方向性(1)は最後のPromotionにほぼ集中した業務ですが、方向性(2)を選んだ場合には、4Pすべてに関係してくると覚悟しなければなりません。
もちろん、シティプロモーション部門が関わる開発業務は、ある程度限定的かもしれません。そうだとしても、産業、観光、子育て、教育、高齢者福祉、企業誘致等々の領域で「街の新たな売り」を開発することはそう簡単なことではないでしょう。
方向性(2)の道を選ぶべきではないとはいいません。もちろん、可能ならばチャレンジすべきです。ただし、前述の事務分掌を見てもわかるように、シティプロモーションが、広報、宣伝、デジタルコミュニケーション等の管理業務に加えて、イベント、観光、都市のブランドイメージ等、多岐にわたる事業に関わりながら、かつ総合調整する(つまりは庁内外の関係部門との調整を行いながら事業推進する)というのは、それ相応のリソース(人材、マンパワー、予算)が必要です。また、何よりも庁内と首長の理解が必要です。
そこで、特に自治体のシティプロモーション部門の方々は改めて自らの事務分掌を確認してみることをお勧めします。
もし、方向性(1)の範疇の事務分掌であれば、現在のコミュニケーション技術を幅広く習得し、今よりさらに高度な広報活動、広聴活動、効果的な宣伝活動を目指せばいいのではないでしょうか。
方向性(2)に近いということであれば、コミュニケーション活動の高度化はもとより、総合戦略などを確認しながら、どんな「街の売り」を開発すべきか、その優先順位や開発可能な領域を見定め、フォーカスを決めることが大切だと思います。また、「売り」の開発に必要な他部門との連携強化を図る必要があります。
しかしながら、闇雲に「街の魅力づくりなら、あれもこれもシティプロモーション」とされて、事業推進に混乱を招くようであれば、これも改めて事務分掌を見直す勇気も必要なのではないでしょうか。
<参考文献>
(*1)村上徹「地方公共団体のシティプロモーションと広域連携」(http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/lt/rb/650/650PDF/murayama.pdf)
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