(記事提供=総務省消防庁 広報誌『消防の動き』 )
1 はじめに
平成28年に発生した熊本地震では、地震発生直後から多数の119番通報があり指令業務が混乱し対応に苦慮しました。非番員を含め最大18席(18名)で対応しましたが、特に前震時は、指令管制長と通信指令員、通信指令員同士のコンセンサスがとれず統一性を欠く対応となりました。
今回、その経験と反省を基に「大規模災害時119番対応コールトリアージプロトコル(以下、「コールトリアージ」という。)を熊本市メディカルコントロール協議会の協力を得て作成しましたのでご紹介します。
2 119番受付状況等
119番通報のピークは、前震と本震それぞれ発生から3時間程度であり、この3時間をどう対応するかがポイントと捉えました。
通報内容としては、災害、救急に関する通報は全体の約4割で、他はライフライン・病院・避難所等の問い合わせ、家族の安否確認などの通報でした。
救急に関する通報については、地震による外因性の通報が最も多く、次いで急病の通報でした。救急車の不足から、救急に関する通報を断らざるを得ない状況(以下、「不応需」という。)で、実際に救急車を出場させたのは、通報の1割程度でした。
3 コールトリアージの概要
(1) 場所の特定
通常の119番通報では、救急車が必要な場所を特定させるため詳細な場所を優先的に聴取していますが、コールトリアージでは、大まかな場所(管内か管轄外か)にとどめ、症状の聴取を優先することにしています。
(2)外因性について
今回の通報で多数を占めた外因性のみ[緑]低緊急群を設定しました。低緊急群としては、歩行可能又は四肢の単発外傷です。ただし、開放性骨折や活動性の出血がある場合は[黄]準緊急として対応することにしました。
(3)内因性について
内因性については、意識・呼吸・循環のうち、一つでも異常が聴取できたら「赤」緊急群と判断し直ちに救急車を出場させます。また、意識・呼吸・循環に異常がなくても、胸痛・半身の麻痺・痙攣等のキーワードが聴取できれば「黄」準緊急群として対応することにしています。
内因性の「緑」低緊急群の設定については、様々な議論がなされましたが、最終的に電話での判断は困難との結論に至りました。ただ、記載はありませんが地震による精神症状(パニック・不安など)明らかな軽症事案と判断した場合は不応需とすることにしています。
(4)不応需について
今回の地震で、特に苦慮したのが不応需と判断した場合の対応です。通報者が納得されず、切断できないことが多く見られました。ここで重要なことは、如何に通報者に理解をしていただくかだと考えます。
理解を得るためのポイントを以下に示します。
ⅰ 災害規模と消防が現在取り組んでいることを伝える。
ⅱ 応急手当の口頭指導、医療機関の紹介等を伝え自助共助を促す。
ⅲ 急変した際は再通報するよう伝える。
なお、統一を図るためプロトコルの下段に文例を記載しました。
■ コールトリアージ
※参考文献
・スタート法トリアージ
・「緊急度判定支援システム CTAS2008日本語版/JTASプロトタイプ」
監修:日本臨床救急医学会・日本救急看護学会・日本救急医学会
・「緊急度判定プロトコルVer.1 119番通報」
監修:総務省消防庁
4 不応需に対する対応強化
「本当に出場させなくてよかったのだろうか?」地震後、通信指令員の誰もが自問自答しました。
課題の一つとして、現行の指令システムでは、不応需にした事案の詳細な記録は残りません。
今回、その対応策として、簡単な記録紙を作成しその取扱いも統一しました。時間経過及び災害の発生状況等を考慮し、消防側から不応需とした通報者に対し連絡し現況を確認することとしました。
5 取組み
今回の地震では、初動対応、業務継続についても課題が残りました。
初動対応強化のため、個人の行動指標(アクションカード)を作成し、指令員一人ひとりが迅速、的確に行動できるようにしました。研修・訓練を重ね、スキルアップに努めているところです。
また、業務継続については、システムがダウンした場合を想定した研修・訓練も反復継続しなければならないと考えています。
6 おわりに
今回のコールトリアージは、熊本地震で課題となった一部をマニュアル化したものをご紹介させていただきました。
首都直下、南海トラフ等の巨大地震の発生が叫ばれる中、それぞれの地域で想定される災害に対し、その地域に即した災害対応マニュアルの策定の一助になれば幸いです。