【岩林誠(いわばやしまこと) 経歴】
四街道市役所シティセールス推進課長。J-PHONE/ボーダフォン宣伝部、I&S BBDO(広告代理店)、はるやま商事マーケティング部等でのマネジメントを経て、四街道市初めての民間出身管理職として現職。
(記事提供=シティプロモーション超入門)
地域のブランディング(正確には、場所のブランディング)には、行政区域にとらわれない視点も必要であることを前回書いてみました。
そもそも、シティプロモーション、シティセールス、地域ブランドなどの考え方は、民間企業のマーケティング活動やブランディング活動などを行政や地域づくりなどの公共的な領域に応用したものです。その視点や原理は大枠では活用できるのですが、細部ではかなり異なります。このことについて少し述べてみたいと思います。
まず、以前にも述べたように、前提として、ブランディング>プロモーションとして話を進めます。つまり、ブランディング活動のひとつとして、コミュニケーション活動や街の魅力づくりなどのプロモーションが含まれているという前提です。ですので、企業のブランディングと場所のブランディングを比較する形で以下説明したいと思います。
民間企業が「ブランディング」といった場合、結局は儲けを最大化することが目的です。利益の最大化です。もちろん、社会や従業員に対して企業存続させなければなりませんし、様々な社会的責任も負います。
また、ブランディング(ブランドの刷り込み)の主体はあくまで企業そのものであり、刷り込みたい相手は消費者です。
そのためのフォーカスは、企業や商品の認知促進や理解促進、企業や商品を体験してもらうことであり、できれば企業や商品に愛着を感じてもらい、そのことを他の消費者にも推奨してほしいわけです。
ブランドを反映するシンボル(集約点)は、商品、店舗、社員であったり、ロゴやブランドステートメントです。このあたりにきちんとブランドの思想や適切な表現を集約していくのが適切な方法です。
その結果は、総合的にはブランド価値(金額換算)として評価できますが、その他、認知率、必要度、満足度、ロイヤルティ(愛着度)、推奨度などの指標として測ることができます。
ですので、企業自らがブランディングを主導するということもあって、商業的なブランディングは、ある意味シンプルです。
一方、場所のブランディングは、ちょっと複雑です。
まず、場所のブランディングを推進するのは、民間企業のように一者ではなく、行政、市民、ステークホルダーと多様です。
その結果、ブランディングの目的も多様になり、産業振興、観光振興による経済活性化であったり、移住定住促進による税収の拡大、また、企業誘致による産業の活性化を目指す場合もあります。また、市民を主体とした場合は、その場所に住むことで得られる生活の幸福の追及であったり、その地への愛着の強化、住民への愛着を増幅することでもあるわけです。
民間企業のブランディングは、企業や商品を知ってもらうことが先に立ちますので、広報や広告活動がリードする場合が多いですが、場所のブランディングでは、やはりその場所で体感してもらうことやなんらかの出来事を体験してもらうことが重要です。街に来てもらうこと、歩いてもらうこと、見聞きしてもらうこと、買い物をしてもらうこと、イベントに参加してもらうことなど、文字などの情報というよりも実際の体験によって、場所や空間の認識が強まります。その結果として、場所に関する認知や理解が高まるということでしょう。
ですので、場所のブランディングにとってのシンボルは、景観、商業施設、街を代表するランドマーク、特徴ある建造物、地域産品などが力を持つでしょう。もちろん、情報としての歴史やその地を象徴するキャラクターや市章等ロゴなどもシンボルとして機能します。また、すでにその場所に住む市民にとっては、自宅や周辺地域、住民などが場所のブランディングにとって、大きな影響を及ぼします。世間ではいくらいい街といわれていても、居住環境や周囲の住民次第では、残念ながらそう感じられれないこともあるかもしれません。
場所のブランディングでは、評価指標は民間企業のように金額換算できず、やはり満足度が総合的な指標となるでしょう。ブレイクダウンするならば、認知度、理解度、定住意向度、他者への推奨度なども有効な判断指標となるでしょう。
場所のブランディングに関する評価方法は、いくつかありますが、このことについては、また別に機会に述べてみたいと思います。
いずれにしても、シティプロモーションの導入は、地方自治体にとって意義ある契機であると思います。行政活動と商業活動とはもちろん同等ではありませんが、歳入があり、歳出があり、その収支を健全に維持しなければならない「経営」がある。また、サービスを提供する側(企業、地方自治体)、提供される側(消費者、市民)があり、商品と街と形は違えども「ブランディング」という営みがある。そういう意味では、マーケティングという商業的な原理やその一部であるセールスプロモーション、宣伝というような視点の導入は意義深いものといえるでしょう。
しかしながら、民間企業のブランディングと場所に関するブランディングは、上述したように完全に一致するものではありません。「地域ブランド」が地元経済活性化の商品化を指しているならば、それはそれで否定するものではありませんが、広義の「場所のブランディング」とは、その場所への愛着に関係することであり、ずっとその地に住みたいと思う気持ちであり、最終的にはその場所に住むことに幸福を感じ続けることでしょう。
民間企業から、マーケティングやブランディングを学びつつも、きちんと「違い」も認識しながら、場所のブランディング(プレイスブランディング)戦略、シティプロモーション戦略を立案することが必要です。
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