コラム

牛乳やトマトジュースで乾杯? かつて話題を集めた「乾杯条例」は、どこへ行く? - 長嶺超輝

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【長嶺超輝(ながみね・まさき)氏 経歴】
ライター・出版コンサルタント。
1975年、長崎県平戸市生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫して上京。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、『47都道府県 これマジ!?条例集』(同)、『東京ガールズ選挙(エレクション)』(ユーキャン・自由国民社)など、著書13冊。最新刊に、京都市内で実際に起きた悲痛な事件をテーマにした社会派絵本『さいごの散歩道』(雷鳥社)。

京都市で「清酒の普及の促進に関する条例」(いわゆる「日本酒で乾杯条例」)が施行されて、6年が経過しました。

市内では、清酒の出荷量がずっと緩やかな減少傾向にありましたが、この条例の制定後、30年ぶりに出荷量が上向いたというのです。その事実がニュースとなり、全国各地で類似の条例が広まっていきました。一時期は「乾杯条例ブーム」ともいえる急速な普及の勢い、そして多様化がみられたのも事実です。

従来の特産品普及条例とは異なる、新鮮な切り口

これまでも、地方自治体が「食」に関する独自の条例を制定した例はありました。

たとえば、いずれも青森県ですが、鶴田町の「朝ごはん条例」は、子どもたちの食育を目的としたものです。
また、板柳町の「りんごの生産における安全性の確保と生産者情報の管理によるりんごの普及促進を図る条例」では、通称「りんご丸かじり条例」ともいわれるとおり、りんご栽培に使われる農薬や肥料などに関する安全ガイドラインなどを策定することで、消費者が安心してりんごを口にできる裏付けを採っています。そのような安全性の担保により、「りんごの普及促進を図る」狙いがあります。

その一方、いわゆる「乾杯条例」は、やや趣が異なります。清酒という京都市の特産品の普及促進のため、「清酒による乾杯の習慣」という具体的な行動を定めているところが特徴です。短い条例ですので、全文を掲載します。

京都市 清酒の普及の促進に関する条例

第1条 (目的)
この条例は,本市の伝統産業である清酒(以下「清酒」という。)による乾杯の習慣を広めることにより,清酒の普及を通した日本文化への理解の促進に寄与することを目的とする。
第2条 (本市の役割)
本市は,清酒の普及の促進に必要な措置を講じるよう努めるものとする。
第3条(事業者の役割)
清酒の生産を業として行う者は,清酒の普及を促進するために主体的にとり組むとともに,本市及び他の事業者と相互に協力するよう努めるものとする。
第4条(市民の協力)
市民は,本市及び事業者が行う清酒の普及の促進に関する取組に協力するよう努めるものとする。

「乾杯条例」は、市民に乾杯を義務づけていない

この乾杯条例に対しては「個人の趣味嗜好への侵害だ」「酒が飲めない人への配慮が足りない」など、誤解に基づく批判が後を絶ちませんでした。

もちろん、乾杯条例は市民に「清酒での乾杯」を法的に義務づけているわけではありません。条文をよく読むと、清酒での乾杯は努力義務ですらないこともわかります。

第4条は、あくまで、京都市や酒造業者による普及促進の取り組みに関して、「協力」するよう市民に努力を促しているにすぎないのです。

このような地域の特産品について「普及の促進」を市民に努めさせる類の条例は、まったく珍しくなく、むしろ、ありふれています(りんご丸かじり条例も同類です)。

しかし、「乾杯」という具体的なアクションを定めたことが目新しく、また、実際に普及促進に繋がったという実績が注目されたのでしょう。まるで「ゴールドラッシュ」に飛びつくがごとく、全国の自治体がわれ先にと「乾杯条例」をコピーしていったのです。

意外な方向でバリエーションが広がった

乾杯条例の広まりは、日本酒だけにとどまりませんでした。それでも「焼酎で乾杯」「ワインで乾杯」程度のバリエーションは、想定の範囲内だったかもしれません。

その一方、各自治体で特産品を広めようとする熱意は、思わぬ波及効果を生みました。梅が特産の和歌山県田辺市で「梅酒乾杯条例」が定められているほか、北海道中標津町で「牛乳消費拡大応援条例」(牛乳で乾杯条例)、愛知県東海市で「トマトで健康づくり条例」(トマトジュース乾杯条例)といった、ノンアルコール飲料にまで広がっているのです。

このほか、乾杯の「容器」に着目した条例も出てきています。ご当地特産の陶器の普及を推し進めるため、常滑焼で乾杯条例(愛知県常滑市)、笠間焼で乾杯条例(茨城県笠間市)がそれぞれ制定されています。

さらには、乾杯条例と同じ趣旨で、食べ物に関する一定のアクションを推奨した条例も現われました。その代表的なものに、和歌山県みなべ町の「紀州南高梅使用のおにぎり及び梅干しの普及に関する条例」(梅干しおにぎり条例)があります。

第4条では「町民は、『梅干しでおにぎり』及び梅干し等の梅製品の普及促進に協力し、町民自らの健康の増進に努めるものとする」と定められており、おにぎりの具には梅干しを推奨している内容が話題になりました。

とはいえ、こうした食に関する一定のアクションを推奨する条例の制定には、疑問の声もあります。実際、新潟県阿賀町や宮崎県都城市では、乾杯条例案が、「個人の嗜好の問題に踏み込むものとして懸念がある」などの理由から否決された経緯もあります。

また、京都市の「乾杯条例」の制定から6年以上が経過し、かつてのような意外性やニュース性、話題性は薄れ、特産品の消費拡大効果も次第に限定的なものとなっています。

乾杯条例は、いわば民間ビジネスでいうところの「ヒット商品」の一種でした。ヒット商品に類似する商品を他社が開発して追随する動きは、どのような業界でもありうるところです。その中には柳の下のドジョウを狙う「小ヒット」も、数回ほどは達成できるのでしょう。

ただし、しばらく時間が経過すれば、どのようなヒット商品もインパクトが薄れ、人々には飽きられて陳腐化するものです。
各自治体は、どんなに小さいことでもいいので、「全国初の試みを打ち出す」という気概を持って取り組んでいただきたいと願います。そのチャレンジが将来の日本全体を輝かせるはずです。

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