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コラム

地方自治体職員とともに歩みたい、ある民間人の独り言 Vol.3-古田智子

【古田智子氏 経歴】
慶應義塾大学文学部卒。株式会社LGブレイクスルー代表取締役。地方自治体との官民連携事業にコンサルタントとして25年携わる。地方自治体職員の人材育成も手がけ、指導した職員数は20,000人を超える。和光市市庁舎にぎわいプラン専門検討委員会副委員長。著書に「地方自治体に営業に行こう!」(実業之日本社)がある。

目標設定は本当に必要? 〜「犬も歩けば棒に当たる」的21世紀型キャリアデザイン理論〜

 平成31年度が始まりました。人事異動で全国のたくさんの職員の方が新しい事務事業に携わりスタートを切られたことでしょう。
 その全ての方がご自身の得意な分野に配属されたとは限らず、自分にとって想定外の職場へ異動された方も多いのではないでしょうか。
 筆者は毎回転職に等しい人事異動を繰り返す職員の方々を見るにつけ、本当に大変なことだと痛切に感じています。特に昨年度まで一所懸命身につけた知識やスキルが役に立たずゼロリセットされてしまうことは、民間企業の視点からすると理不尽にさえ感じることも。それも公務員のさだめと飄々と受け流し前に進んでいる方も多いと思いますが、一方で落ち込んだり凹んだりする方がいるのも無理からぬこと。

 今回は、そんな方々のためのコラムです。

 日本人は目標設定が大好き。
 自分の将来の職業ややりたいことを目指して目標を立て、達成に向けてコツコツ諦めないで努力する。そんな人が社会で賞賛され、人はそうあるべきだという空気感が社会にも職場にも満ち満ちています。地方自治体の職場でも半年後、1年後、3年後の仕事の目標を段階的に掲げて達成指標を設け、定期的に達成状況を検証するという目標管理制度を導入しているところが少なからず存在します。例えば人事課が主催するキャリアデザイン研修でもワークで将来の仕事目標の設定に取り組んだりしたことはありませんか。
 ところが、せっかく立てた目標も今までの努力も人事異動とともに目の前から消え失せます。代わりに新しい職場、新しい仕事で覚えなければならない知識や事務がどっと押し寄せてくる。それがまさに今の時期ではないでしょうか。

 でも、大丈夫。
 目標なんか立てなくても、いやむしろ目標を掲げないのがこれからの時代における仕事への向き合い方だということを、今回は皆さんにぜひお伝えしたいと思います。

 ここでアメリカで行われた興味深い調査結果をご紹介しましょう。
 社会的成功を収めた数百人のビジネスパーソンに対して「今のキャリアは自ら目指して達成したものか」という問いに対する結果、大多数の人が「自分の現在のキャリアは予期せぬ偶然によってもたらされたものだ」と回答したのです。その割合たるや、実に80%にも上りました。
 この調査を行ったのは、米スタンフォード大学教育学・心理学教授、ジョン・D・クランボルツ教授。彼がこうした調査結果などから提唱しているキャリア理論があります。
 その名も『計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)』。
 「個人のキャリア形成は予期しない出来事や偶然の出会いによって決定される」というのがこの理論の中核。「犬も歩けば(いい意味で)棒に当たる」というわけです。

 偶然や予想外の出来事を積極的に受け入れ、主体性と努力によって最大限に活用すること、さらには予期しない出来事をただ待つだけではなく、自ら作り出せるように積極的に行動したり、周囲の出来事にアンテナを張り巡らせたりすることで、偶然を意図的・計画的に自らの成長の機会へと変えていくことができるというのが同理論の中心となる考え方。10年ほど前から21世紀型のキャリア理論として民間企業の間では主流となりつつあります。
 この理論では、変化の激しい時代においてはあらかじめ目標を立ててキャリアを計画したり、それに固執することは非現実的であること、そして自分の意思決定に捉われ一つの仕事や職業にこだわることは、とりもなおさずそれ以外の自分の可能性を捨ててしまうことに他ならないとされています。

 人事異動で少し凹んでいる方へ再びメッセージです。この理論でいうところの偶発、すなわち「予期せぬ所属への今回の人事異動」が、皆さんにとって自らの可能性を広げてくれるポジティブで期待に満ちた転機として改めて捉え直す機会とはならないでしょうか。
 もし、「少しがっかりしていたけれど、これからいいことがたくさんあるかも」と思っていただけた方がいらっしゃれば、この転機をより良いキャリアとしていくためのヒントとして、クランボルツ教授が理論の中で挙げている次の5つの行動指針と前提となる考え方をぜひご覧ください。

  • 好奇心(絶えず新しい物事との出会いを楽しみ模索し続けること)
  • 持続性(失敗に屈せず断続的にでも続けること)
  • 楽観性(何が起こってもなんとかなるさと前向きに捉えること)
  • 柔軟性(こだわりを捨てて行動をいつでも変えられること)
  • 冒険心(結果が予測できなくてもリスクを怖がらず行動すること)

 特筆すべきはこれら5つの行動指針の前提。「物事への向き合い方は自分の可能性を狭めるので決して決めつけてはいけない。優柔不断(オープン・マインド)であるべき」とされています。
 私たちは幼い頃から、大人達からや学校教育で「自分で考えて決めるべき=決められない優柔不断な人はダメな人」と刷り込まれてきました。もしこれをお読みになっている皆さんの中で優柔不断な自分に劣等感を感じてきた方がいらっしゃるとしたら。もうその必要はありません。優柔不断はアドバンテージ。これからの変化の激しい時代を生き抜くために、誰にでも誇れる得難い個性となることでしょう。

 さて、人事異動が多く一見キャリア形成が難しいように思える地方自治体組織。
 少し見方を変えて、この『計画された偶発性理論』を前提に地方自治体職員のキャリア形成を捉え直してみるとどうでしょう。自らが計画しなくても、「人事異動」という形で数年に一度は偶発的な予期しない仕事へのキャリアチェンジがあり、自らの可能性を一層広げる機会が訪れる。これは極めて恵まれたキャリア形成環境と言えるのではないでしょうか。

 4月19日、経団連中西宏明会長の「正直言って、経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っているんです」という発言がメディアを駆け巡り、民間企業の間に激震が走りました。もちろんこれは都市部の民間企業の話ではありますが、どんな地域に住もうとも、誰もが働くことや生きること、幸せとは何かという答えを求めてさらに惑い始めるでしょう。

 そうした時代にあって、一組織にいながら地域の人々の幸せに貢献する多種多様な仕事を人事異動で経験し、様々な地域課題に寄り添っていく皆さんのキャリアや経験の中からは、地域住民が求める生き方の答えの幾つかがきっと見出せるはずです。
 どのような形かはわかりませんが、皆さんが仕事で培った「他者の幸せに貢献する働き方・生き方」の経験と暗黙知がいつの日か地域住民と共有され、感謝し感謝される日が来ることを願っています。

 令和元年の連休明け。人事異動で少し凹んだ方も、そうでない方も。
 優柔不断上等!の気持ちで、ぜひ晴れ晴れとした新時代のスタートを切ってください。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

※参考文献
・日本の人事部 https://jinjibu.jp/keyword/detl/415/
・慶應義塾大学SFC研究所 キャリア・リソース・ラボラトリー ニュースレター(2008年2月1日)

古田智子フェイスブック:
https://www.facebook.com/tomoko.furuta.5

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