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コラム

「よい」行政計画をつくるためのワークショップ入門-細川甚孝

【細川甚孝(ほそかわ しげのり)経歴】
合同会社政策支援 代表社員。1971年 秋田県仙北市生まれ。1999年以降、農林水産省系列のシンクタンクを皮切りに、様々なコンサルティング/シンクタンクでリサーチャー及びコンサルタントとして、地域活性化、行政評価、総合計画などの策定支援の業務に従事。2012年独立。現在では、自治体での公共経営に関する研修講師、様々な民間企業での社内コンサルタントとしても活動。早稲田大学パブリックサービス研究所招聘研究員(兼任)。
行政経営フォーラム会員。

はじめに~ワークショップはよりよい行政計画づくりのツールになっているか?

 どこの総合計画・創生戦略・各種部門別行政計画をみても、「市民参加・協働」という言葉を見ない計画はありません。私が自治体職員向けの研修講師を行う際に、「市民参加・協働」のためにどんなワークショップを開催すべきなのかという悩みを聞くことが多いです。

 実際、「市民参加・協働」のワークショップが自治体で多く行われるようになっていますが、その一方で形式化、アリバイ化が進んでいるように思います。ワークショップでの結果を「市民参加・協働」に生かすのではなく、ワークショップを実施したことが「市民参加・協働」を行ったことになっているのではいかということです。ワークショップが「やった結果ではなく、やることに意義がある」という風潮の中では、参加した市民の満足度が低くなり、「市民参加・協働」の目的を果たせないケースがあります。この問題を回避するために、ワークショップではどのような参加者を集めて、どのような情報を引き出し、どのように議論していくか、そして、いかに参加者に満足して帰ってもらうかが重要になります。

1 ワークショップでよくある2つのピットフォール(落とし穴)

 上手くいかないワークショップには2つの具体的な要因が考えられます。

 一つは、ワークショップででた意見をどう機能させるかがが明確になっていないことです。例えば、5~10名程度で一つのグループとし、ファシリテーター(司会)を配置し、付箋などをつかって議論を進めるワークショップを行ったとします。議論は参加者間でばらつきなく進められ、小さい声でも十分議論に参加できました。結果として、意見をグループ化でき、社会の縮図としての小グループごとの意見は見えてきました。では、この意見はヒアリングのようなものなのか、仮にこの結果を許容するとして、行政計画を作り上げる上でどこの部分に反映させることができるのかという問にぶつかります。意見を最終的にどう反映させるかが不明確な場合、参加した市民の満足度も下がってしまいます。

 もう一つの上手くいかない要因は、ワークショップの中でなにが起こっているのかを参加者が把握できないことです。ワークショップでは、多種多様な意見を付箋に書いてもらう形で進めるケースが多いですが、中には字が小さく読みづらい付箋も多々あります。こうした意見は、意見をグループ化するときに他の参加者から認識されづらく、少数意見であればあるほど、似た要素で意見のグループ化をする中で置き去りにされるケースが生じます。結果として、意見の多様性が見えなくなるという状況が起こってきます。多数決で意見が集約されるなかで、参加者がフラストレーションを感じてしまうことがあるのです。

 これらの2つの落とし穴を放置すると、ただワークショップを実施しただけ、もしくは、単にきれいな絵が並んでいるだけで、参加者は不満足で帰る、ということになりかねません。

2 政策サイクルあってこそのワークショップ

 このようなピットフォールは、ワークショップがなぜ必要だったかという検討が十分に行われず、手段が目的化するために起こるケースが多々あります。

 現在、ワークショップは多く自治体で行われるようになっており、その手法も様々です。親和図法※1 に始まり、PCM※2TOC※3ワールドカフェ※4 など幅広い手法が使用され、新しい手法も年々増えています。このワークショップの手法を政策サイクルとうまく組み合わせることが重要となります。

 政策サイクルとは、政策(施策・事務事業)の構築に際して企画調査から、評価までのサイクルを指します。一般に「現状の把握」→「施策事業設定」→「事業実施」→「成果及び評価」→「改善」の流れを指します。当然、それぞれのステップを成功させるためのどんな情報が必要かという見極めが必要になります。

一般的な政策サイクル

 例えば、ワークショップでは実施しやすい、取組みやすいという点から親和図法が使われるケースが多いです。政策サイクルの「現状の把握」のステップでは、ブレーンストーミング、親和図式のような発散型のスタイルは、参加者の本音・リアルを対話から把握するために有効な手法となります。しかし、政策サイクルの「施策・事業設定」の際には、具体的な事業のあり方、事業成果などを議論するという意味で、TOC及びPCMの手法が適している場合も多くあります。

 政策サイクルのどのような場面で、どのワークショップ手法を組み合わせるかという検討ステップをおろそかにすると、計画をつくるための情報が手に入らず、結果としてワークショップをやることが手段ではなく目的となってしまいます。繰り返しになりますが、政策(施策及び事業)を策定する際に同時にワークショップの実施次期・手法について慎重に議論を進めて置くことがワークショップ成功の鍵となります。

3 ワークショップのスムーズな運営のコツ

 目的が明確で、政策サイクルに位置付けられているワークショップでも、当日の運営がスムーズでなければ参加者の満足は得られません。ワークショップは、自由な議論の場ではありますが、実際には誰かの意見に引っ張られたり、議論が停滞することが多くあります。そのためにファシリテーター(司会役)をおいていますが、付箋と模造紙とペンといったアイテムを一工夫することも、スムーズな運営や議論のための大きな助けとなります。私がワークショップで意識して行っているポイントを4つご紹介します。

(1)模造紙は、壁に貼る!
 模造紙のセットは一般にテーブルに直に置くことが多いです。円形なテーブルなどを使用しない限り、記入した字は参加の人から見て逆になってしまいます。経験的には30分程度で議論は停滞することが多いです。全員が議論に参加しやすいように、付箋紙に意見を書いてもらい、壁に貼った模造紙にその付箋紙を貼っていくことをお勧めします。

(2)模造紙は、複数使い面積を大きく!
 通常、模造紙(788×1091mmの四六判)を1枚だけを使うことが多いですが、付箋をはっても重なってしまって見えなかったり、入りきれないなど面積がじゅうぶんでないことがあります。3人以上参加者がある場合は、模造紙をタテに使って、複数枚使用し合体させ、大きな横一枚を使った方が、活発な議論がしやすくなります。

(3)付箋はできる限り横長で大きいものを!
 参加者の方々が自由に書け、貼り出した時にちゃんと目視できるものが必要となります。そのためには、付箋は太いマジックで大きくかける横長のサイズのものをお勧めしています。一番残念な例は、正方形の比較的小さいものにボールペンで稠密に書かれることでしょうか。書かれた方の気持ちは伝わるのですが、なかなか読みづらい、つまり、伝わらないという状況になってしまいます。

(4)マジックで意見の集約を見える化!
 模造紙の上で意見のグループ化や関係性の明確化のために、マジックを用いて付箋と付箋とを丸で囲んだり、つなぐ矢印をつけるようにします。とくに矢印は原因と結果のつながりなのか、事例を示しているのか、抽象化しているのかなど、「見える化」をする必要性があります。そうしない限り、その付箋の意味がわからず、ストレスを参加者に与えてしまいます。

4 まとめ

 ワークショップは、「市民参加・協働」の手段として今日、多く用いられています。その一方で、手段が目的化している事例もみられます。そうならないためにも参加者を集めて、どんな情報を引き出して、どのように議論してもらい、総合計画などの行政計画策定のどのステップに利活用するのかを明確にしておくことが前提条件となります。

 そして、ワークショップに参加する市民が司会に依存せず、なんとなく、でもしっかりとした議論ができたと満足して帰っていただくことも重要です。

 ワークショップが、行政の計画づくりの有効なツールとなるためにも以上の点を意識することが重要であると考えています。

▼合同会社 政策支援HP
http://seisakushien.tumblr.com/

 


 

※1 親和図法とは、情報や意見などを共通点でグループ化(親和)し、「見える化」することで、問題解決につなげていく手法のこと

※2 Project cycle managementの略。計画立案、実施、モニタリング、評価のための事業管理手法のことを指す。

※3 Theory of Constraintsの略。制約条件(constraints)に注目した経営マネジメント手法。

※4 テーマを小グループで話し合い、付箋などで書き出す。ある一定時間が経過したらグループのメンバーを一人残してグループを再編成し、残ったメンバーがどんな意見がでたのかを新しいメンバーにつたえる。

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