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コラム

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ニッポンの観光資源 – 新・観光立国論 -

2015年の話になるが、テレビ東京の番組「カンブリア宮殿」で、「小西美術工藝社」という日本の国宝・重要文化財の修復を手掛ける会社が取り上げられていた。その社長がイギリス人ということで最初は何気なく目を引いた程度だったのだが、観るうちにグイグイ引き込まれていった。
このイギリス人はデービッド・アトキンソン氏(以下アトキンソン氏)で、元々はゴールドマン・サックスでアナリストをしていた。それ故に、ファクトベースの分析が鋭く、海外に対する日本人の思い込みを振り払ってくれる。
アトキンソン氏の著書「新・観光立国論」では、日本人が海外にPRする筆頭の「日本流おもてなし」をボッコボコに打ちのめしている。いや、もはやボッコボコというレベルではない。バックドロップである。バックドロップを100回である。日本人にとって「日本流おもてなし」は素晴らしいが、外国人が観光の目的にするものではないし、外国人にとっては、それほど嬉しくないこともあるということがよくわかる。
では外国人観光客にとって何が大事かと言えば、「気候・自然・文化・食事」の四大要素だ。日本の四季、北海道の雪から沖縄の海、動植物が豊かな山々、歴史的文化遺産、そして日本食、どれをとっても観光する主目的になるものばかりで、この観光の四大要素全てが揃っている国はフランス・スペインと日本ぐらいだとか。しかし現在、外国人観光客数は、フランスの年間8,000万人に対して日本は年間2,000万人という現実があるので、ちゃんと資源を磨いてPRしましょうね、という話が書かれている。
私は昔から旅行が大好きで、これまで日本全国どの地域を訪れても、最高の思い出になってきた。今まで気づかなかったのだが、その背景には、日本は訪れるタイミングや地域に応じて「季節×気候×文化×食事」の組み合わせがあまりに多くあったおかげだったのかも知れない。ただし、この日本旅行の楽しみ方は、言語や情報取得などを考えると、日本で生まれ育った日本人にしかできないだろう。これは実にもったいないと感じる。
外国人観光客に向けた観光資源を活かす取り組みの成功事例として、北海道のニセコがある。ニセコは冬場のスキー体験に加えナイトライフや滞在型コンドミニアムなど、訪日観光客ニーズへの対応に力を入れてきたおかげで魅力を高めているものの、他の季節にはこれといった引きがなかった。そんな折、ニセコに移住したオーストラリア人のロス・フィンドレー氏が、ニセコ中央部を流れる清流・尻別川に目をつけ、ラフティングの普及に乗り出したところ、スキー集客数の落ち込みを上回る呼び込みに成功したと言う。
そして、この活動によって喜んだのは観光客だけではない。この活動により生まれた事業者の増加に伴い、若者の雇用が創出された。地方における「若者にとって魅力的な仕事の欠如」は日本全体が抱える大きな課題だが、この事例は地域の資源を活かした理想的な解決策の一つと言える。
アトキンソン氏に話を戻す。小西美術工藝社は国宝・重要文化財の修繕を行っており、またアトキンソン氏自身も日本文化に造詣が深いことから、文化資源についても多くの提言が載っている。世界的に見れば、かの文化大革命のように時の権力者次第で文化財が破壊されてしまうことは珍しくないが、有難いことに日本では多くの文化財が残されている。特に経済効果の高い欧米の観光客は、文化・歴史に関心が強いので、この点における対策は非常に有効だと言える。
文化財を活かす取り組みにはハードルが多い。ガイド不足問題や、国の文化財修理予算の少なさ(2014年度81.5億円、1棟あたり174万円)、文化的街並みに対する意識の低さ、金儲けに対する精神的障壁など、どれも一朝一夕で解決しづらい多くの課題を抱えている。
さらに文化財の修理という観点では、職人の高齢化問題もある。そこでアトキンソン氏は、財務の健全化と組織の若返りのために、小西美術工藝社において人事改革を行った。非正規雇用の職人を正社員にし、新入社員を採用する一方で、モラルの低い高給取りのベテラン職人の給料を下げ、権限を若い職人に渡した。アトキンソン氏は「職人」という言葉に特別な感情を持たない。あくまでもファクトベースで判断し、組織は若返りに成功した(平均年齢46歳→37歳)。
アトキンソン氏の本を読んでいると、観光立国を軸に検討を進めることで、日本が抱える課題が解決する糸口がたくさん見えてくる。最も深刻な課題である人口減少によるGDP減少についても、「短期移民(滞在型訪日観光客)」をフランスの水準まで上げていくことが有効で、幸運なことに日本にはその素質が備わっている。
改革には反発が必ず生じるから、推進するためには強靭なリーダーシップが必要になる。2020年の東京オリンピックを、日本の観光立国に向けた重要なターニングポイントにできるかどうかは、アトキンソン氏やロス・フィンドレー氏のようなグローバル感覚を持ったリーダーが活躍できるようにしなければならない。日本が持つ重要な資源である自然や文化は国や地方自治体が管理している場合が多い。従って、関係各位には率先してグローバルリーダーたちに耳を向けることを期待したい。そして、日本人にとっても日本中が今以上に魅力的な観光地になり、訪れる人も、各地域に住む人も、より心豊かになる日を心待ちにしている。

小野寺将人
湘南在住。不動産情報ウェブサイト運営会社、お出かけ情報ウェブサイト運営会社にて営業・企画職を経た後、現在は総合ポータルサイト運営会社にて企画職に従事。

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