インタビュー

【渋谷区 永田龍太郎氏:第8話】批判のファックスをかき分けて進んだ 区役所職員に感動

永田龍太郎9

渋谷区役所の職員 皆を尊敬している

加藤:ちなみに、渋谷区役所で今お仕事されていて、尊敬する公務員の方はいますか?

永田氏:やっぱり、条例を通すため熱意をもってヘイトにも負けずに取り組まれた、この渋谷区役所の職員の皆さんですね。本当に尊敬しています。

 渋谷区役所の中にオープンな当事者がおらず、全くの手探りの中で条例を形にしていくには、関わった職員の皆さんの並々ならぬ熱意なしには実現しなかったのです。

4000通を超える批判的なファックス 鳴り止まない電話

永田氏:そして、議会に条例案を上程したところ、数えられただけでも4000通を超えるファックスが来たそうです。電話も鳴り止まず、業務は麻痺状態に陥ったそうです。

ファックスの山をかき分けて進んだ 区役所職員の信念に感動

加藤:4000通のファックスはすごいですね。こういう時って、賛成の人は声に出して言わないですよね。だから、本当はその陰で喜んでいる人はいっぱいいたのではないでしょうか。

永田氏:もちろんお褒めのお声もありましたが、判で押したような文面の批判ファックスがジャンジャン来るという状況だったそうです。

 まさに嵐のような状況にもめげず、当時の担当の方が、「なにくそ!」とファックスの山をかき分けて進まれた。その熱意や信念には本当に頭が下がります。

 引き継ぎの際にそういったお話を聞いたのですが、一当事者としては震えるくらいの感動を覚えました。こういうことをお話する場所がないのでなかなか言えないのですが、公務員の倫理の高さとか、仕事に対する意識はすごいです。

 言い方は悪いですけど、区役所に勤めるフツーのおじさん達が、今まで意識をしたことも会ったこともなかったようなLGBTの人権のために、条例検討会議の皆さんと一緒にヘイトの嵐に立ち向かい、実現にこぎつけたんです。まさにスーパーアライです。

 自治体にはケースワーカーさんや相談員さんなど、すごく熱い思いを持って使命感を持って取り組んでいらっしゃる方々がいます。ですから、必要なLGBTの知識を適切に提供して、それぞれの自治体のトップが理解を持って方向性を軽く示してあげるだけで、しっかりと推進していただけるのではないか、と思っています。

顔の見える地域コミュニティと関わり合いが持てる

加藤:最後の質問です。民間から自治体に入ってきてお仕事される中で、率直にお感じになる醍醐味を教えていただけますか?

永田氏:そうですね。地方自治体と言っても、基礎自治体レベルなのか、県レベルなのかでも、結構違うと思います。

 基礎自治体でさまざまな施策を進める中で、地域コミュニティと顔の見える関わり合いが持て、施策の結果がダイレクトに感じられるのは醍醐味だと思います。逆に、顔が見える地域のコミュニティを見た上で政策を立案することもできる。

自治体職員には ダイナミックな仕事をしていることに気付いてほしい

永田氏:お恥ずかしながら、自治体の行政とは、こんなにも区民のみなさんを見ながら組み立てられているものなんだというのは、区役所で働いて今更ながらに気付いたことです。そのダイナミクスのすごさに、行政で働くみなさまにも是非気付いていただきたいです。

 私は、全く関わりの無い業界からポッと出で課長に入るという、風変わりなルートだから特に強く感じているのかもしれません。皆さんが思っている以上に役所はダイナミックですし、それができていることに誇りを持っていただけるのではないかと思います。

役所の外へ飛び出すことで 社会課題の解決の糸口が掴める

永田氏:やはり今の時代、どの部署もとんでもない事務量を抱えていることもあり、どうしても行政の中で閉じがちになるとは思うのですが、行政外の民間の取り組みとかネットワークに飛び込んでみることもいいと思います。

 CSRや社会課題への取り組み方法に悩んでいる企業やNPOは沢山いらっしゃいます。行政の経験がアドバイスになるだけでなく、逆に自分の自治体が抱える社会課題解決のための示唆が得られるかもしれない。そうやって得た視点は、自分の仕事にも必ずや活かすことが出来ると思います。

 今、自治体職員の方でも社会課題の解決のNPOなどに参加して活躍されている方も沢山いらっしゃいます。そういった人たちの記事もご参考になるのではないかと思います。

加藤:長時間ありがとうございました。インタビューは以上です。

永田氏:こちらこそ、ありがとうございました。

LGBTパレードに参加する 長谷部区長<左>と永田氏

LGBTパレードに参加する 長谷部区長<左>と永田氏

編集後記

 永田氏は品性と知性を併せ持つ方だった。その特質の中に、ご自身が存在する場においては、常に出来うる限りのことを目指そうという強い意志と情熱を見た。どのような環境にあっても成果を出す典型的なタイプの方なのだと思う。

 一方、私自身はお話をさせていただいた後に申し訳ない気持ちにもなった。というのも、私自身が冗談として「ゲイ」などの言葉を使うことは、子どもの頃から最近までも少なくはなかったからだ。恥ずかしながら、そういった表現はこれから避けるべきと強く感じた。

 永田氏を紹介して下さったのは、LGBT活動家である杉山文野氏である。先日、日南市役所の「市職員意識改革研修」で「LGBT」について登壇しお話をされていた。

 以前、杉山氏から、「LGBTは親も味方になってくれない可能性のある、稀有な差別だ」という旨の話を聞いてハッとしたことがあった。確かに人種差別などでは通常そういったことにはなり得ない。

 その時から少しでも何か自分にできないかと感じていたが、今は、永田氏からいただいたLGBTの支援を示すバッジを、私が普段使うバッグに付けさせていただいている。今日は神奈川から埼玉まで電車で4時間かけて往復した。恐らく、500人くらいの人とすれ違っただろう。仮に7%の人がLGBT当事者なのであれば、約35人の方と遭遇しているはずである。35人の方のうち1人くらいそのバッジに気付き、そして、何か感じるものがあったらと思う。

 もちろん、私一人の力でとてつもなく大きな変化を起こせるとは決して思わない。この問題に限らず、世の中というものはそんなものだ。ただし、「一燈照隅 万燈照国」という言葉があるように、それぞれの人が少しずつ行動することで、世の中が少しずつ良くなっていくと私は信じている。一つの隅を照らすだけの小さな灯火でも、その灯火が十、百、千、万となれば、国中をも明るく照らすことが可能なのだ。

 個人としての支援をするにあたり、アライであることを表明するには不安もあるかもしれない。恥ずかしいと思う人もいるだろうし、偽善と言われることもあるかもしれない。しかし、それを理由に踏み出さず、自分を守ることは本当に正しいことなのだろうか。

 えてして、そういう批判的な目は、何も行動に移さない人間から向けられがちである。そのようなものによって、自分たちの行動は制御されるべきなのだろうかと感じるのだ。

 では、自治体組織としてはどういう支援ができるのだろうか。「LGBTの方が常にドキドキする場所は、『病院』と『役所』」であるという。この言葉は、いずれもが公共として最たる施設であるが故に、実に重い。

 だからと言って、LGBTの対応に関して、必ずしも役所が何か新しい組織を作る必要はないと永田氏は言う。既に役所が行なっている「生活保護・DVの相談窓口」などの対応に、多様な性を想定して向き合うことが重要だというのだ。それは担当者のレベルで、少しの勇気があれば変えられることかもしれない。

 本インタービューが自治体の方々や、その他の読者の方々にとって、何か少しでも考えていただくきっかけ、もしくは、何らかのアクションへと繋がるきっかけになるのだとしたら幸いである。

<記=加藤年紀>

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※本インタビューは全8話です。

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