1か月の調査で行ったこと
加藤:1か月間の調査というのは、何を調べたんですか?
東市長:過去の市議会議員選挙や市長選、府知事選挙の得票数とかを調べて、どういう票が存在しているのかを全部計算しました。それと、人間関係というか、現職の市長を中心とした人間関係、例えば国会議員、府議会議員、市議会議員の方々とどういうつながりがあるのかを紙に整理して落とし込みました。簡単に言うと、無党派層の数が多いかどうかを調べて、これは新人の自分でも少しはチャンスがあるのではと思いました。
加藤:なるほど。普段インドにいた人が、急に地元議員の人間関係を調べ出したりしたら警戒されたりしないんですか?
東市長:信頼できる人を通じて、ひっそり聞き取ったりしました。後から振り返ればラッキーで、なんでそんなことになりえたんやろと思うんですが、友人の親戚に地元事情に詳しい方がいたことが大きかったです。
その方と食事をして口説き落として、最初に3時間くらいかけて、なんで市長になりたいかを説明しました。話を3時間もしたのですが、その日は1回も笑ってくれなかったんですけどね(笑)。こいつは馬鹿かという感じで。でも次の日もお昼ご飯に誘い、何とかこう、お願いしますって(笑)。
加藤:選挙に出て何かを変えたい人は、そういう実態を把握する必要があるわけですね。
東市長:絶対に必要ですね。でも、選挙に挑戦する人に伝えたいことで一番大事だと思っているのは、自分が選挙活動の大半を部屋の中で過ごしたことですね。
過去10年分の議会議事録を暗記
東市長:どういうことかっていうと、めっちゃ資料を読み込んで覚えたんですよ。過去の議会の議事録も10年分くらい、どの議員が何年にこんな発言しているのかを政策別で全部覚える。計画書も読み込んで、どの計画とどの計画がリンクしているかも覚える(笑)。
これがないと、誰も信頼してくれないですし、そもそも、何も知らない中で自らの意見だけ主張することは空疎だと思っています。何が課題になっているのか分からないのに、まちを良くすることはできないじゃないですか。
そうした勉強の結果、「たとえば隣の市だったらこうなっているんです」とか、分析や意見を淡々と喋っていくと、行政やまちのことに詳しい方々も、最初は鼻で笑っていたのが、だんだんちゃんと聞いてくれるようになってくるんです。水面下でそれをひたすらやりました。
加藤:情報は市のホームページから取ってきたのでしょうか。
東市長:そうです。他にも議事録とか公的なものは図書館に行ったりすれば全て手に入れられます。
加藤:なるほど。事前に勉強してから、先ほどの方とお会いされたんですか?
東市長:並走してやっています。粗々の分析は事前にやっていましたけど、深いところまでは理解できていませんでした。その方にも「よく勉強しているけど、まだまだや」みたいなことも言われながら、ひたすら勉強を重ねました。
友達の会社のインターン生に手伝ってもらう
加藤:10年分の議事録を見る時間は、どのくらいかかりましたか?
東市長:むちゃくちゃ時間かかりますね。一人でやったらとてもじゃないですけど無理でした。
ただ僕、あまり社会人期間が長くないのでお金がなかったんですよ。人手は要る。でも、お給料を出す余裕はない。そして、変に選挙を知っている人だと、自分の手法を押し付けてきて、イレギュラーな今回の選挙では通用しない可能性がある。つまり、選挙のことを知らないけどすごく頭が良い、ボランティアとして協力してくれる人が必要。でも、そんな都合のいい人いるわけないじゃないですか(笑)。
でも、これもありがたいことにおったんです(笑)。僕が大学院時代にインターンしていたベンチャー企業で、仲の良い友達が人事をやっていたので、「内定者の中で、暇で優秀な人を貸してほしい」と頼み、実際に募集要項を作って有望な学生に撒いてもらったんですね。
何人か候補者に会ったんですけど、一人良い学生がいて、その子がジョインしてくれました。熱い想いを共有して、本当に手弁当で協力してもらって(笑)。その子が、議事録とかを政策ごとにまとめてくれたのを、僕がパーッて見ていくって感じで、勉強に集中した期間は、2か月ぐらいでした。
朝起きて夜寝るまで資料を読み込む
加藤:1日に何時間くらい資料を見るんですか?
東市長:最初の頃は朝起きて夜寝るまで資料を読んでいました。母親が、「あんた選挙出るんやろ?」「ずっと家で何してんの?」とかって言うんです(笑)。確かに理解不能ですよね。もはや母からはおかしくなったと思われて(笑)。
ちゃんと一日中外に出たのは、最後の選挙期間ぐらいですね。ただ、市民を対象としたビラはめっちゃ撒きました。一言一句、魂込めて僕自身が書いたものを、いろいろな方の協力を得て全戸配布してもらいました。そして、少しずつ反応というか手応えもありました。
27歳、京大卒で、外務省出身の人間が市長選に出るというのは珍しくて、市民にとってはなかばゴシップみたいなものじゃないですか。
加藤:確かに(笑)。
東市長:知名度だけはビラで徐々に上がって、「若いけどあいつの話聞くと、むっちゃまともなこと言うらしいぞ」と、機運が高まったところで、最後一週間に一気に露出しました。
他のまちの事例から政策を考える
加藤:自分の市の議事録を読んだだけで政策は作れたんですか?
東市長:いや、政策自体はそこからでは作れないです。やはり、他市でモデルケースとなる市を調べる。箕面とか生駒とか同じベットタウンの市長さんたちの記事、政策集、マニフェストを読み込んで、四條畷でできるか考える。
加藤:すごく正攻法で、シンクタンクの経験が生きていそうです。
東市長:そうなんですよね。野村総研時代に馬鹿みたいに資料を読んでいた経験が本当に生きました。当時、入社して3か月くらいなのに、現地大手企業の社長さんとかの前で、さもその分野の専門家のように喋らなければいけなかった。埋もれるぐらい資料を読んで、しかもそれが全部英語やったんで、本当にきつかったんですよ。
加藤:出馬を決めて7か月後に選挙。すごいスケジュールですね。
※本インタビューは全8話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。