「あっ!」の瞬間まで想い続ける
加藤:福薗さんは自分でやりたいことを実現できていると思うんですけど、そうなるために意識してきたことはありますか。
福薗氏:なんでしょう…こう、想い続けるということかも知れません。現状に違和感があったとき、その違和感を見逃さないとか、どこかにもっといい方法があるんじゃないかとか、どこかに光はあるはずだろうっていうことを想い続ける。
あとは発信すること。もやもやしている状態でも良いから、人と話すことで自分の中で整理ができたりしますし、話しながら「あ、そっか」って思うことがいっぱいあるんですよね。そうやって発信していれば誰かがキャッチして情報をくれたりもします。
そうやって発信を繰り返していたら「あっ!今だ!」っていう瞬間があるんですね。だから焦らないで、「今は動くときじゃないか」と自分に言い聞かせながら、コツコツやり続ける。それで「あっ!」っていう瞬間にガッと動くみたいな感じです。
公務員という立場で社会に対して何ができるのか
加藤:ちなみに、福薗さんは公務員という枠にはあまり囚われていないように見えます。
福薗氏:学生の頃に環境政策を勉強していたので、それを生かす仕事として公務員になりたいと思っていた時期はありました。ただ、実際にはやりたいことを追っていたらたまたま行政の一員だったという感じなんです。公務員だからこそというのはあんまりなくて、いまの公務員という立場で社会に対して何ができるのか向き合うことが重要ですよね。うちの館長がよく言うことでなるほどなと思うのが、「公共施設でしかできない役割」というのはあると思います。
自然を学んだり体験したりできる施設は多く存在しますが、実際に足を運ぶ人は、どうしても「そこに興味がある人」に限られてしまいがちです。でもこどもの城は無料だし、パッと見がレジャー施設的なので、全然そういうことに対する意識がない人もふらっと来るんですよね。
これまで届けられなかった人にも学びを届けられるチャンスがあるのがすごく大きいですよね。だから行政は、もっと開かれた場にしていくためにどうしたらいいかという視点を、常に持っておかなきゃいけないんだと思います。
嘱託員だからこそ進めやすい
加藤:福薗さんは嘱託員ですけども、そのせいで仕事が進めづらいとか、逆に進めやすいということはありますか。
福薗氏:私の場合は、嘱託員だからこそ進めやすいことの方が多いと思います。制度上は週休三日なので、できることの可能性が広いですね。諫早市外からのオーダーに応えてプログラムの講師に出向いたり、自分自身が研修に参加したり、フィールドの調査や、集めていた自然物の整理、標本の作製、プログラムの準備や教材の開発なども休みの日に行っています。
特に動物の解剖は、まとまった時間がないとできないので、連休に「えいや!」とやっています。生き物の標本づくりは、「生命」の不思議、神秘、美しさに触れるとても学びが多い作業なので、こどもの城の一角を使って行い、衛生面に気を付けながら、興味のある利用者には見学してもらっています。中には、手伝ってくれる人もいます。
こうやって見ると、休みと仕事の区別があまり無いんですけど、勤務中は目の前の利用者としっかり向き合う時間、休みの日は勤務中にはできない作業をする時間、という感じですね。そして休みの日に得たものがまた現場に還元できるので、いいバランスだと思います。
こどもの城の現場は館内かも知れませんが、私にとっての現場は自然の中なんです。だから自然の中を歩き回って、いろんな発見をして、充電する時間が必要。それをもとにいろんなことを伝えていくので、その時間が確保できないと多分私は死んでしまうんですよ(笑)
まだまだやりたいことはたくさんあって、体験や学びを「届きにくい人に届ける」ためのより良い仕組みづくりや、自然を「伝える」だけでなく、自然を「守りながら活かす」という視点での地域づくりなど、少しずつでも辿り着けたらいいなぁと。そして、足元の小さな生命たちにも、みんなが優しいまなざしを向けてくれる社会にしていきたいなぁ、と。
「虫はイヤ」とかじゃなくて、どんな生命も、ちゃんと生態系の一員として存在しているので、「排除」ではなく、「共存」すること。全てがつながりあっていて、自分もその輪にちゃんと入っている、ということ。そんなことを、「頭」で理解するのではなく、自然に触れて、ちゃんと「体」と「感覚」で感じてもらえるように、様々な仕掛けを考えていきたいですね。
環境問題は、みんなのまなざしが「人」だけに集中しているから起こっていると思っています。私があれこれ「本物の自然」にこだわって教材を作っているのも、「人も自然の一部」であることを「思い出してもらう」ためなんですね。身の回りは「生命」であふれていて、「わくわく」と「不思議」の宝庫なので、その視点を届け、みんなの扉を開き続けていきたいと思います。
一嘱託員としてどこまでできるかはわかりませんが、「公務員」であると同時に、一人の「市民」でもあるので、その両方からチャレンジを続けていきたいと思っています。
編集後記
改めてインタビューを振り返ると、「ワクワクしている人のところに人は集まる」という言葉に強く共感した。福薗さんが葛藤する中で勝ち取った知見だからこそ、価値を内包し、心に響いたのだと思う。
HOLG.jpは比較的実務に近い部分で、改善のネタになりうるものを取り上げている。しかし、究極的には実務のノウハウよりも、地方公務員がワクワクしながら仕事に向き合える環境整備のほうが重要ではないかと思っている。
よくベンチャー企業が大きくなり、やがてKPI管理に走りだすと、クリエイティビティが失われるといわれる。そこではワクワク感がなくなり、モチベーションも失われていくからだ。
ここで私が言いたいのは、KPIを設定することが悪だと言うことではない。もしKPIを置くのであれば、必要なことは納得感のあるKPIにすること。もしくは、実現したら心躍るようなワクワクするKPIにしなければならないと考えている。
納得感のないKPIができあがる背景には、ゴールとKPIの接続に問題があるか、ゴールそのものに問題があるかどちらだ。こういった、誤った管理手法が積み重なり、日本では官民問わず職員からモチベーションを奪っているのではないかと思う。アメリカのギャラップ社の調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかいない。なんと、調査した139カ国中、132位だ。
高い成果を上げるためには、公務員のモチベーションはもっと重要視されるべきだろう。ここでは紹介しきれないが、職員のモチベーションに課題を感じているのであれば、「ザッポスの奇跡」という、同社のノウハウがまとめられた一冊を手に取ってみてほしい。きっと、福薗さんのような周囲をワクワクさせる人材を増やすきっかけになるのではないかと思う。
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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 ハードには頼らない。自然を通じて生きる力を身につける施設
第2話 「ほとんど鬱状態」からのスタート。人と自然を繋げたい