インタビュー

【中央児童相談所 鈴木浩之 #5】児童相談所で働くことに憧れがあった

鈴木浩之5

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少年院の教官を2年間務めた

加藤:児童相談所で働く前はどのような仕事をされてきましたか?

鈴木氏:新卒で法務省に入り、少年院の教官を2年間やりました。矯正教育という分野なんですが、そこで色んな子どもたちと出会って児童に関心を持ちました。当時、虐待はあまり問題にされていなかったですけど、今考えれば虐待を受けたことが、非行という行動に表れていたのだと思います。

 少年院の教官も自分の中では大きな経験でしたが、その頃は重症心身障害児の療育に興味がありました。また、国の職員だと全国転勤もあるし、妻が千葉県の教員をやっていたので、どちらかが辞めるとなった時に私かなと思っていました。

 丁度、25、6歳の時に神奈川県の福祉職の試験を見つけたので、それを受験して県に入りました。そこで4年間ケアワーカーという介護の仕事をして、その後に児童養護施設で5、6年仕事しました。その後は、35歳くらいからずっと児童相談所で働いています。

児童相談所で働くことに憧れがあった

加藤:希望を出して児童相談所に異動したのでしょうか?

鈴木氏:そうですね。初めは重症心身障害児の療養をしたいために県に入ってきたんですけど、非行少年と関わる経験もあったので、ある時期から児童相談所が良いと思ったんですね。

 実は児童相談所で働くことに憧れみたいなのもあって、相談員が花形でかっこよく見えたんです。仕事内容ももともと専門性が必要な分野にいたので、家族の相談にも対応できると思っていました。

加藤:児童相談所はすごく大変なイメージがありますが、当時は花形だったのでしょうか?

鈴木氏:まだ、児童虐待が世の中で注目されていませんでしたが、福祉の仕事の中で児童相談所は人気がありました。専門性の高い人が集まって、神奈川県でも福祉職全体の3割くらいの方しか行けないと言われていました。今では逆に児童相談所の職員が増えているので、こっちに来る人が多いですけどね。

児童相談所を人気のある職場にしたい

加藤:すごく負荷のかかる大変な仕事なので、成り手を探すのは大変ですよね。

鈴木氏:私は児童相談所をもう少し人気がある職場にしたいと思っています。ただ、間違いなく厳しい職場だと思います。ストレスフルな場面も多いので、特に若手にとってはこれがずっと続くと思うと、耐えられない状況になってしまうのです。

加藤:今は民間企業も人手が足りてないので、若手の転職先もありますからね。

鈴木氏:だから、厳しい環境にもっと意味づけをしないといけないと思うんです。例えば、怒鳴られた先に、実は家族と一緒の世界が見えたりするんですね。怒鳴られていることも1つのプロセスで、「今この段階にいるんだよ」って俯瞰して見ることができれば、怒鳴られても頑張れるかもしれないじゃないですか。

加藤:終わりが見えないことが一番辛いことですよね。

24時間いつ怒鳴られるのか分からない

加藤:若手の方が一番疲弊してしまうのは、どういう時でしょうか。

鈴木氏:失礼な言い方になりますが、虐待をしてしまう保護者の方の中には、今まで誰かを怒鳴ったり、脅したりして問題を解決してきた方もいるんです。そこに若造が現れたら、彼らに対しても同じ行動をとるわけですね。

 怒鳴られることがずっと続くかと思うと、頭に残って寝られなくなる。私も経験がありますが、怒鳴られる夢を見たりもします。現実でも24時間いつ電話がかかってくるのか分からない。怒鳴られるかもしれないと緊張し続けて、段々と自分が疲れていることすらも分からなくなってくるんです。そうすると、気持ちが不安定になって過覚醒の状態になったり、早朝覚醒になったりもしました。

若い職員と一緒に学びたい

加藤:鈴木さんが一番ストレスを感じたのはどういう時でしたか?

鈴木氏:親御さんとの関係の中でずっと追い詰められた時ですね。保護した子どもを、「返せ!返せ!返せ!」とずっと言われ続ける。でも、安全が確保できていなかったら、「返せません」と言わざるを得ない。そうすると、親御さんはもっと大きな声になってくるわけです。

 24時間関係なくそういった事態が起きるので、休みに自分の子どもと一緒にいても、やっぱりそのことが頭から離れません。私の不安とか、イライラとか焦燥感が家族に伝わってしまい、決して良い気持ちはしなかったと思います。

加藤:今、現場で苦労されている同僚の方や若手の方へ伝えたいことはありますか?

鈴木氏:若い人たちが学べる環境もなく、見通しもないまま現場にいるとしたら、不安の中で仕事が続けられなくなる。そうならないように、一緒に学んでいきたいと思います。

 実は、うまくいっていないと思っている実践の中にも、うまくいっていることが必ずあります。それを一緒に探し合うことが大事じゃないでしょうか。自分は何も役に立ってないと思うこともありますが、決してそんなことはありません。家族とすったもんだしながらやっている中には、彼らにとって役に立っていることが必ずあります。

 本当に大変な仕事だと思いますが、魅力をもって取り組めている人が増えていくと良いなと思います。そして、若手が児童虐待対応に向き合えるようにする責任を、先輩社員は抱えているのだと感じています。

編集後記

多くの場合、代替不可能なものには必ず何かしらの価値が付随する。児童相談所という組織もそうであるし、鈴木さんという個も代替不可能な存在なのだろうと思う。

 今回のインタビューで感じたことは2つある。一つは児童相談所のありがたみと、もう一つは、専門性の価値である。前者については本当に頭が下がる。行政を象徴する福祉領域の仕事を、より多くの人に知って欲しいと思う。

 後者の専門性については、鈴木さんの活動を通して、改めてその重要性を認めざるを得ない。最近、自治体職員の各仕事に必要な専門性やスキルセットを検証すべきでは、と感じることがある。例えば、広報誌を作る仕事には専門技能が不可欠ではないかと思う。異動後すぐに、カメラなどの機材を使いこなして、全国広報コンクールに入選するような広報担当者と同じ仕事をするなんて、普通に考えたら無茶ではないだろうか。

 また、企画職は民間でも意外とその専門性を認められないが、企画の質によって成果が大きく変動することから、実際には深い専門性が求められる。民間企業の営業職も一見誰でも出来そうだが、成果を出す人とそうでない人の差は果てしなく大きい。

 窓口業務もその対応によって、住民の笑顔を生む人もいる。あるいは、書類のフォーマットを改善し、仕組みから改革を起こす人も存在する。よくよく世の中の仕事を見渡すと、専門性が求められない仕事を探す方が難しいような気さえしてくる。

 鈴木さんが受賞した地方公務員アワードの推薦文には「スキルを身につけずに面談するのは丸裸で戦場にいくようなものだ」という、鈴木さん本人の発言が記載されている。

 次の春を迎える頃に、丸裸で戦場に送り出されている職員が、様々な部署で溢れていないことを願う。そして、職員一人ひとりが持っている力や個性を、役所や企業はより体系的に可視化したほうが良いのではないだろうか。

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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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