(記事提供=総務省消防庁 広報誌『消防の動き』 )
1 はじめに
西宮市は、兵庫県の南東部に位置し、南は大阪湾、北は六甲山地と接しており、人口は487,207人(平成30年 4月1日現在)、面積100.18km²の中核市で、大都市圏に好アクセスできる利便性と自然に囲まれた良好な住環境、多くの大学・短期大学を有する教育環境から文教住宅都市として発展し『関西で住みたいまち』に挙げられています。管内には、高校野球のメッカである阪神甲子園球場、開門神事福男選びで有名な西宮神社があり、スポーツ芸術文化が色づく魅力ある街を形成しています。
西宮市消防局は1本部4署4分署、職員定数は522名で、指令課は日勤者3名、交替制勤務者23名(うち、各係4名が救急救命士有資格者)が勤務しており、「口頭指導に係る救急研修」を日々実施し、通信指令員の口頭指導能力向上に力を入れて取組んでいます。
2 訓練導入の経緯
JRC蘇生ガイドライン2015では、「口頭指導を実施する通信指令員の能力を最適化することは傷病者の転帰改善に重要な意味を持つ。」と記されています。
しかし、口頭指導を実施する通信指令員は、自分たちが実施した口頭指導による市民の動きを検証する方法がありませんでした。
こうした口頭指導の諸課題に対応するため、指令課と救急課が連携し、消防局で行う救急講習会の場を活用し、講習受講者に口頭指導訓練を実施する「口頭指導シミュレーション訓練」を導入しました。
3 訓練方法
①救急救命士資格を有する指令課員が、救急講習会に出向き、講習会受講前の受講者に対し、119番通報要領や通信指令員の行う口頭指導について簡単な説明を実施します。
②その後、受講者1名に通報想定を付与し、実際に119番通報を行い、通報訓練を実施してもらいます。
③通信指令室内で、119番の訓練通報を受信した通信指令員は、通報内容に応じて、口頭指導を実施します。
④通報訓練実施中、講習会場の指令課員は、市民が口頭指導でどう動いたのかを観察し、記録します。
⑤訓練終了後、口頭指導を受けた市民の方にアンケートの記入を依頼し、わかりにくかった言葉などの意見・感想等を収集し、口頭指導を実施した通信指令員に結果のフィードバックを行い、より良い口頭指導方法について検討します。
4 導入効果
(1) 口頭指導手順の分析・検証
口頭指導で市民がどう動くのか、指令課員が直接確認することで、現状の口頭指導手順の課題や改善事項等について分析・検証することができ、口頭指導手順の効果的な改善につながっています。
実際に改善につなげた一例が、指令台への「ポケット型メトロノームの導入」です。この訓練をとおして、 胸骨圧迫のテンポを口頭で正確に伝えることの難しさを改めて実感しました。そこで、ポケット型メトロノームを各指令台に配置し、胸骨圧迫指導時にはヘッドセットマイクの近くでそれを鳴らし、「このテンポで押してください」と伝えることで、より正確に胸骨圧迫のテンポが伝わるようになりました。
(2) 口頭指導能力の向上
救急講習会受講前の受講者に対して行うこの訓練は、心肺蘇生法のイメージができていない一般市民に対して訓練を実施することができ、さらにその結果のフィードバックを受けることで、通信指令員の実戦的な口頭指導能力向上につながっています。
(3) 市民広報
119番通報時、通信指令員から口頭指導を受けることができることを知っている市民は非常に少ないのが現状です。この訓練をとおして、119番通報さえすれば、応急手当について通信指令員から口頭指導を受けることができると、市民の方に知ってもらうことで、119番通報や応急手当を行うことに対する市民の心理的不安の軽減にもつながります。
5 おわりに
この訓練をとおして、指令課員の口頭指導に対する意識やモチベーションは大きく向上しました。実際に、この訓練導入後、心肺停止事案に対する指令課員の口頭指導実施率は向上しています。また、通報内容から死戦期呼吸状態を見抜き、口頭指導を実施したことで、救急隊到着前に心拍再開し、救命に至った奏功事例も報告されています。
引き続き、この訓練に取組んでいくことで、指令課員の口頭指導能力の向上を図ると同時に、市民広報を行うことで、市民の心理的不安を軽減し、応急手当の実施率向上にもつながればと考えています。今後も、これまでの訓練で得られた様々な諸課題を踏まえ、今以上に効果的で、市民に伝わる口頭指導を実施するため、西宮市消防局指令課員一丸となって取組んでいきます。
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