インタビュー

【中央児童相談所 鈴木浩之 #2】サインズ・オブ・セーフティで子どもの安全を作る

鈴木浩之2

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家族が自分事として考えなければ何も改善しない

加藤:児童虐待の対応にあたって、サインズ・オブ・セーフティという手法を導入されました。サインズ・オブ・セーフティについて教えていただけますか?

鈴木氏:端的にいえば、本来、悩むべき家族が“悩める”ように支援することです。子どもへの虐待をなくして、安全な生活をどう作るかを考えてもらうための方法論がそこに示されています。

 保護対応を求められるようになって家族と対峙する機会が増えたため、家族と対立が生まれることも増えました。従来、私たちは虐待を起こさせないために保護者を指導や治療するといった立場から、強い権限で指導していく歴史を辿りました。今もまだそういう傾向はあると思います。

 だけど、本当に子どもの安全を作ることができるのは、家族しかいないと思っているんです。我々がどんな指導や治療をしたところで、家族が本気になって自分事として子どものことを考えなければ、状況は何も改善していかないと思ったんです。

 もちろん、家族に誓約させたり、指導することも必要なことはあるかもしれません。一方で、家族が主体者となるためには、何をすべきかを考えなければならない。今でも我々は常に悩んでいますが、本来、我々以上に家族が悩む状態が必要だと思うんです。

 家族が悩む機会を我々が奪うことは、家族をエンパワーするどころか逆にディスパワーしてしまうことにもなります。そんな悩みを抱えている時にサインズ・オブ・セーフティに出会いました。

家族が持っている力を生かす

加藤:サインズでは家族に対して、どういうアプローチをしていくんですか?

鈴木氏:従来、虐待対応は専門職が家族に対して課題や原因を分析して伝えるんです。家族の心配なこと、つまり課題ばかりを追求していました。サインズ・オブ・セーフティでは『家族ができていること』、つまり今、家族が持っている力を可視化します。家族と一緒にホワイトボードなどを使って、『心配なこと』『家族ができていること』『これからすべきこと』と3つの項目を書き出します。

 サインズ・オブ・セーフティを和訳したら『安全のサイン』ですよね。家族が持っている安全を作る力を、子どもの安全な環境を作るために導入するという考え方があるんです。そうすると、家族は自分たちがやるべきことが整理できるのと同時に、面接者である児童相談所の職員が自分たちへの理解を深めて、安全づくりに役立とうとしていることが伝わります。

 サインズ・オブ・セーフティでは家族との会話で虐待という言葉を使いません。虐待という言葉って重いですよね。虐待は英語で『権力の濫用(abuse)』という意味ですが、日本語の虐待には人を痛めつけることに楽しみを覚えているかのようなイメージがあります。だけれども、実際はそうではない。多くの虐待は養育不安の延長の中で起きているんです

 虐待をしてしまう保護者は、子育てで行き詰まって不安を抱えた時に、暴力を使って子どもをコントロールしようとしてしまう。でも段々、子どもが叩かれても言うことを聞かなくなってくるんです。そうなると、もっと強く叩くというサイクルになって、抜け出せなくなってしまうんです。そういう時に我々は、このままだと子どもの未来にどんな危険があるのかを共有します。

 まず、家族が今までやってきた努力を尊重し、大切にすることから対話が始まります。そうすることで、家族と対話し、家族の力を引き出す。一時保護をした後に家族と速やかに信頼関係を構築して、子どもが早く家に帰りたい、子どもに早く帰って来てほしいという希望を実現しにいくんです。

 サインズ・オブ・セーフティでは、子どもを帰すに足る安全基準が明確になっています。従来は、何を基準に調査をして、何を基準に安全だと言えるのかが曖昧な部分がありました。そうすると、時間がどんどん経ってしまって、みんな傷ついちゃうんです。それは、子どもも家族もです。

再虐待率の低下と一時保護の期間の短縮が期待できる

加藤:実際にサインズを導入した時に、成果は出ましたか?

鈴木氏:一時保護する期間が短くなりますし、再虐待率が下がります。日本では明確に示している研究は少ないですが、海外では統計もあります。

 以前に鎌倉三浦地域児童相談所という30人ぐらいの組織全体で、サインズ・オブ・セーフティを戦略的に取り組みました。大体4年くらいの統計を取り、一時保護の期間が平均1か月から半分くらいになりました。中には1日で子どもを帰したケースもあります。

 期間ではなく安全が確保されているかどうかが重要なので、保護者側も「システムを構築したら1日でも帰してもらえる」と必死に安全を作っていただけるんです。

 鎌倉三浦地域児童相談所では再虐待率までは取れていないんですが、サインズ・オブ・セーフティを広めるためにはエビデンスをちゃんと出していきたいと思っています。ただ、一つ難しいのが、数値が変わった原因の全てがサインズ・オブ・セーフティによるものとは言えません。

 もともと、サインズ・オブ・セーフティの概念に近い仕事をしていた職員もいますし、課長であった私がリーダーシップ取って、一時保護の期間を減らす方針を取っていました。ですので、次のステージでは、もっと精度の高い統計情報が必要だと思っています。

安全を仕組み化する

加藤:実務の中で、安全の基準はどのように守られるのでしょうか。

鈴木氏:いくつか定義があって、虐待が起きた時と同じ環境下になっていないことが求められます。例えば、新しいネットワークを作るというのもその一つなんです。家族だけではなく安全を守る親族や友人・知人がそれを防ぐように仕組み化しておく。

 安全の仕組みというのは、保護者が変化するとか、怒りのコントロールができるようになることを期待するわけではありません。もちろん、それは重要なことですが、それに頼り切ると、子どもにリスクが生じます。

 仮にアルコール中毒のお父さんがお酒を飲んで帰ってきたとしても、安全のシステムが稼働すれば子どもは虐待に巻き込まれない、そういう環境を作ります。

オーダーメイドで子どもの安全を作る

加藤:そのケースの場合、具体的にどのようなシステムを作るのでしょうか。

鈴木氏:例えば、携帯電話を買ってもらって安全を守れる人を登録し、危険がせまった時に発信する同意を得ておくようにする。他人に助けを求めるのは気が引けるので事前に電話できる相手を確保します。

 そして、誰かが駆けつけてくれるまでに、逃げられる場所を確保する。それは家の中でもいいし、近所の家に入れてもらうことでもいい。そういう仕組みがあれば虐待を回避できますよね。

 子どもではなく、お父さん側ができることもあります。お酒を飲むことになってしまい、酔っぱらってしまったら危ないと思った時に、自分で危険を避けるように対処方法もあるんです。これらを全て家族の状況に合わせてオーダーメイドで作っていきます。

 他にも色んな人が定期的に家庭訪問をして安全を確認することもあります。子どもがちゃんとご飯を食べられているか、食べられていない時にはどうするかとか、そういう仕組みが作られていきます。

加藤:突発的に生まれるものはシステム化が難しくなりそうですね。

鈴木氏:いつ何が起きるかわからないという時には、子どもが自分で危険を発信できる必要があります。それが難しければ、誰かに家に入ってもらって、子どもと保護者と一対一にならないようなかたちになります。

 保護者も自分が虐待してしまったことを、家族や他人に言うのは嫌じゃないですか。だから、我々が「子どもに接する時には誰か同席させて下さい」と伝えるのはとても大変なことなんです。ただ、子どもの安全のために「そうでないと返せません」と真剣に伝えます。そうすることで、家族も真剣に安全のシステムづくりを考えてくれます。

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