インタビュー

【中央児童相談所 鈴木浩之 #1】20年で100倍となった児童虐待対応件数

鈴木浩之1

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鈴木 浩之(すずき ひろゆき) 経歴
神奈川県中央児童相談所虐待対策支援課課長。臨床心理士。社会福祉士。GNCPTC(Gundersen National Child Protection Training Center)司法面接講師。主要著書(共著)論文:『ファミリーグループ・カンファレンス入門』共編著(2011)、『子ども虐待に伴う不本意な一時保護を経験した保護者の『折り合い』のプロセスと構造』(『社会福祉学57(2)』2016)、『子ども虐待に伴う不本意な一時保護を経験した保護者への『つなげる』支援のプロセスと構造』、『子ども虐待対応におけるサインズ・オブ・セーフティ・アプローチ実践ガイド(2017)』

 -虐待による不幸な事件が起きると、児童相談所は厳しく責任を追及され、それがニュースとなる。しかし、現場に向き合う大多数の職員は、常日頃から困難で骨の折れる職務に真摯に向き合っている。
 本インタビューでは、『地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2018』を受賞し、福祉業界に約35年身を投じた中央児童相談所(神奈川県)の鈴木浩之氏に、ご自身の経験や虐待対応の歴史的背景、新しい対応手法の実践結果、やりたいことを庁内で広める方法などを伺った。

虐待対応を支援する課

加藤(インタビューアー):現在のお仕事と役割を教えていただけますか。

鈴木氏:私は今、中央児童相談所(神奈川)の虐待対策支援課というところで働いています。全国の児童相談所の中でも珍しい課で、神奈川県特有のものだと思います。

 現場で直接的に虐待対応をするのではなく、主に神奈川県所管の5つの児童相談所のさまざまな専門機能でバックアップするという役割を持っています。

 例えば、子どもや虐待をしてしまった親に対して医学的なセカンドオピニオンをとったり、子どものけがについて法医学者に説明を依頼したり、親の精神医学的なアセスメントをおこなえる体制を支援します。

 それから、新しい手法を企画・実践していて、今、警察と検察と三機関協同面接という試みをおこなっています。事件化してしまったケースで虐待を受けた子どもが、なるべく面接調査に負担を感じないように回数を減らすため、三機関が協同で面接をおこなうのです。その他にも、職員研修、児童虐待の現場の調査研究、里親業務の統括など広範囲の仕事があります。

中央児童相談所では100名体制で児童虐待に対応

加藤:虐待対策支援課は何名体制ですか?

鈴木氏:常勤が私を除いて6名、非常勤で弁護士1名と医師が1名です。6名のうちの1人は警察から出向して来てもらっています。

加藤:神奈川県の中央児童相談所には、他にどういった部署がありますか?

鈴木氏:子ども支援課という、虐待や非行などの通報があった場合にお宅へ伺う課があります。これが世間から見た一般的な児童相談所のイメージだと思います。また、子ども相談課という、自分の意志で来所される方のご相談や、児童心理学を専攻した職員が心理学的なアセスメント、ケアをしている課もあります。

 他には子どもを保護する養護課もあります。現在、約30人を保護して、その後、家に戻れるように調整をしたり、場合によっては里親や施設に行ってもらうまでの間、子どもの行動を観察したり、安心して過ごせるように支援する課です。中央児童相談所には全部で100人近くの職員がいて、全国的に見てもかなり規模の大きい組織です。

虐待対応は一時保護に重きを置くようになってきた

加藤:なぜ神奈川県では虐待対策支援課を作ったのでしょうか。

鈴木氏:虐待対応は時代とともにやるべきことがすごく増えています。従来の体制の中ではなかなか対応しきれない隙間を埋めるような、あらゆることをやらないといけないんです。

 以前は相談と名前がついている通り、相談を中心としていましたが、今は一時保護をすることに重きを置かれるようになりました。直近では臨検捜索というものも対応できるように準備をしています。子どもが危険な状態におかれている場合に、令状を取って立ち入るんですが、これをやる児童相談所は全国にもほとんどありません。神奈川県でも今まで事例はありませんが、当課は現場担当者向けに実践的な研修をおこなっていて、家に立ち入るためカギを破壊する機材も備えています。

虐待の枠組みが広がったために件数が増大した

加藤:虐待対応の変化はいつ頃、どう変わってきたのでしょうか。

鈴木氏:統計などでは1993年頃から出て来ることが多いんですけど、児童相談所に通告するケースが100倍近くになりました。

虐待相談対応件数(出典 厚生労働省 児童虐待相談の対応件数及び虐待による死亡事例数の推移)

虐待相談対応件数(出典 厚生労働省 児童虐待相談の対応件数及び虐待による死亡事例数の推移)

 それは1990年に子どもの権利条約が批准され、2000年に児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)ができたため、今までは子どもの人権侵害とされていなかったことが、問題だと言われるようになりました。つまり、虐待の捉え方が広がってきていることが大きな要因です。

 昨今では、子どもが夫婦間暴力を見ることが心理的虐待とされ、通告件数の半分ぐらいを占めています。また、以前よりも保護者に対して毅然と対応し、積極的に一時保護をすることを求められています。

 ただ、児童相談所は犯罪を罰する機関ではなく、あくまで子どもや家族が虐待のない世界で幸せに暮らすことを支援する機関です。警察や検察と連携をしつつも、自分たちは児童相談所としての役割を見失わないようにしなければいけないと思っています。

変化する虐待対応

加藤:現在の厚生労働省の「子ども虐待対応の手引き」にも保護を“躊躇”することのリスクが記載されています。

鈴木氏:はい。ただ、現場にいると『躊躇のない保護』というのはなかなか難しいんです。保護されることは、子どもにも親にも大きなダメージがあります。

 それでも、保護をしないと子どもの命が守れないということもあるので、やらなければいけない時もある。最近では子どもや親の意志に反してでも、強制的に保護するような介入が増え、なおかつ警察や司法とも連携していくことの必要性が強調されています。

加藤:警察との連携は、重篤なケースを児童相談所から通報するのでしょうか。

鈴木氏:その逆もあって、警察から児童相談所へ夫婦間暴力などについての通告をしてくることも多くあります。

 今まさに、児童相談所が関わった事案を警察に全件共有すべき、というテーマが浮上しています。私は全件共有にしてしまうと、子どもや親御さんが児童相談所へ相談しづらくなる面もあると思っています。もちろん、警察との連携は必要ですが、相談機関としての機能を維持することも必要なことだと思いますので、そこはジレンマがあります。大きな過渡期ですね。

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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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