インタビュー

【平戸市 黒瀬 啓介氏 #6】批判ばかりでなく、行動を

黒瀬啓介6

いつの間にか入庁時の想いがトーンダウン

加藤:民間で働いた経験で感じたことはありますか。

黒瀬氏:民間企業での経験で、私自身の生き方を考えさせられました。人生観というか。トラストバンクには、自分のやりたいことや夢を実現するために転職して来る人がたくさんいました。なので、「自分のやりたいことって何だろう」、「自分の夢ってなんだろう」って、人生そのものを考えさせられました。

 そもそも、公務員は転職を考えないと思うんです。市役所に入った瞬間に、勝手に60歳までの人生設計をして思考が停止。入庁時にあったやりたい事や地域への想いがいつの間にかトーンダウンして、定年まで時間が過ぎていくのを待っているような気がするんです。なので、もっともっと変わらないといけないなって、公務員も。僕らが地域の未来にキラキラしていないとダメですよね(笑)。住民に対しても失礼ですし、ため息ばかりの職場では良い仕事はできないんです。きれいごとかもしれませんが、前向きに夢を持って公務員は働くべきだと思います。

企業と地域のハブになれる存在がこれから活躍する

加藤:公務員が民間企業へ転職するのは難しいと言われることもありますが、どのような分野で活躍が期待できますか。

黒瀬氏:最近、少しずつ民間企業が地方に関心を持ち始めていますよね。その中で、地方と企業を繋ぐハブとしては機能すると思います。「その地域はこの人に聞けばわかる」といったユーティリティープレイヤーのような存在は貴重です。だから、公務員は外にもっと出た方がいいですよね。

公務員になると決めていた

加藤:そもそも黒瀬さんはなぜ自治体職員になったんでしょうか。

黒瀬氏:社会的なすりこみです(笑)。私の家は貧乏だったんです。なので、もう中学生の頃から安定している公務員になると勝手に決めていたんですよね。恥ずかしながら、志を持って入庁したわけではないんです。

 平戸市に入庁したのは、このまちが好きだったからです。小学校の時に今の佐世保市から引っ越してきて、子供会や青年会とか、いろんな集まりがあって地域に可愛がってもらって育ててもらったんです。高校を卒業して公務員の専門学校に通って、平戸市といくつかの自治体を受けたところ平戸市に合格。実家にも近いこともあり入りました。

自分のまちのためにやることが日本を変える

加藤:地方自治体で働く醍醐味を教えていただけますか。

黒瀬氏:地方は「税」を身近に感じることができることですね。東京にいると民間のサービスが多くて、どれが「税」で成り立つ行政サービスなのか非常に分かりづらいですよね。

 でも地方なら「税」をすぐ身近に感じることができるわけです。地方だからこそ、住民との距離感もとても近いし、一緒になってまちを創るとこができる。これはとても大きな醍醐味だと思います。

 また、地方は公務員というだけで市民が信頼してくれます。信頼があればまちを良くするために、いろいろやれることがある。しかも、自治体は成功事例を一斉に広げるすごい力があります。自分のまちのためにやることが日本を変えることにつながる。なかなかこういう職業はないですよね。

批判ばかりでなく、行動を

黒瀬氏:自治体職員が「うちは、財源がないんで…」と言うのをよく耳にしますが、「財源がないから良いまちづくりができない」、「寄附金が集まったら良いまちになる」というのは本当かなって、いつも思っているんです。

 地方に行けば行くほど、地方自治体はまちや市民に対する役割が大きいわけです。だからこそ誇りを持って、「とことん真剣に公務員をやろうぜ!」って思います。自分で考えることをせずに批判ばかりして、行動を起こさないことは絶対に止めてほしいですね。
(編集=橋本綾乃)

後記

 ふるさと納税がもたらしている結果について、私は正直快く思っていない。その理由は黒瀬氏がお話しされたように、「お得で釣った人は、また別のお得に釣られる」という言葉に集約されている。

 総務省のホームページでは、ふるさと納税の意義は3つあると説明されている。「納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる」「生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる」「自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進む」というものだ。

 それぞれの意義自体は理解できる。しかし、お礼の品が誘因として強く機能するなか、この制度本来の意図から乖離している部分もあるのではないか。さらに、お礼の品がなくなった時に、前述したふるさと納税に期待される意義を持続できず、一過性の効果で終わるのではという不安が残る。

 2016年度、全国のふるさと納税受入額合計は約2844億円、2017年度は3000億円を越えると予想される。お礼の品として自治体が寄附額の2~3割を負担するほか、ふるさと納税を担当する職員の人件費、ふるさと納税サイトへの手数料、送料など諸々のトータルコストはどのくらいの金額になるのだろうか。

 当然、日本全体で見ると、本来自由に使うことのできる税金が失われることになる。この費用があれば、前述した意義を別の方法で持続的に達成する方法はなかったのだろうか、と感じざるを得ない。加えて、厳しい財政状況で選択と集中という思考が求められるなか、3つの意義以上に重要な使途もあるのではないだろうか。

 埼玉県所沢市や京都府長岡京市などが既にお礼の品を廃止し、使途を明確にしたうえで寄附を受けつける運用へと変わった。この動きに追随する自治体が増えることを願うが、現実には「周りがやっているから、やめられない」という自治体も存在するだろう。だとすると、総務省には再度本質論に立ち返り、お礼の品の競争に陥ることのない制度設計を再考してもらうことも重要だと感じている。
(文=加藤年紀)

※本インタビューは全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

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