【山本 伸一(やまもと しんいち)経歴】
1979年生まれ。埼玉県東松山市出身。太田市役所農業政策課地産地消推進係主任。
2001年大学在学中に東オレゴン大学に留学し、海外文化を体験。2003年に地元東松山市役所に入庁。環境政策課で環境を切り口に様々な事業を経験。ホタルの里づくり事業では地元住民と協働で地道に数年かけて作り上げることを経験。2007年に韓国系ベンチャー企業Dholicに参画するために東松山市役所を退職。Dholicでは月商1500万になるまでの過程で会計、労務管理を中心に全業務を経験。
2009年群馬県太田市役所に入庁。商業観光課、産業観光課、工業振興課と同一部署で11年過ごす中で女性起業塾の立ち上げと起業家教育としてのプログラミング教室、こども起業塾の立ち上げに従事。女性起業塾では仲間づくりをコンセプトとして「おおたなでしこ未来塾」と題して実施し、卒業生の中から一般社団法人化のメンバーを集めて一般社団法人なでしこ未来塾の立ち上げを支援。
「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2021受賞」
「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード 2021」で2社から協賛企業賞を贈られたのが群馬県太田市の山本伸一氏だ。
山本氏は、地方自治体の職員でありながら、地域に閉じない女性起業塾を立ち上げた。さらに特筆すべきは、一般社団法人化によって自走できる仕組みを作った点だ。その取り組みの背景と現状、そして山本氏の仕事術についても伺った。
「地方公務員アワード 2021」を受賞
今村(インタビュアー):まずは「地方公務員アワード 2021」の受賞、おめでとうございます。私自身、このアワードの立ち上げの時から審査員として関わらせていただいたので、山本さんのような方が受賞されるのを大変嬉しく思っています。
山本氏:ありがとうございます。このアワード自体は2,3年前に知ったのですが、前回受賞された群馬県の宮下智さんの受賞でより認識しました。
今村:ご自身が受賞されてどう思われましたか。
山本氏:まずそもそも私を推薦してくださる方がいるのが嬉しかったです。こうして外部で評価をいただけると、やってきた活動が間違っていなかったと実感できます。また一緒に活動する仲間に「自分たちは受賞されるような事業に携わっているんだ」と感じてもらえたのも良かったです。
女性に特化した起業塾を立ち上げる
今村:現在、山本さんは農業政策課に所属されていて、その前が市民税課、そしてその前が今回の受賞理由となった女性起業塾に関係する部署ですね。
山本氏:はい。その部署は商業観光課と工業振興課ですが、合計11年いました。最初の5年間は金融業務をしていて、その金融業務が工業振興課と合わさって、2014年以降に女性起業塾の取り組みが始まりました。
今村:その女性起業塾が立ち上がった経緯を教えてください。
山本氏:当時、女性活躍推進法ができる時期だったのですが、市長からのトップダウンで女性が活躍するための施策の検討が始まりました。その検討の中で、女性がスモールビジネスを立ち上げ、自力で年間108万円は稼げる起業塾の実現を目指し始めたんです。
今村:では市長から降りてくる段階では起業塾ありきの話ではなかったのですね。
山本氏:そうですね。まず市長が方向性を示して、それを課長がキャッチして、あとは我々現場が考えて女性起業塾のアイディアが生まれました。
女性のフリーランスの方に会いに行ったり、民間の会社と協力して調査を進めたりして、女性起業塾の形を決めていきました。
起業塾のコンセプトは「仲間づくり」
今村:それまで太田市には、起業促進の取り組みがあったのでしょうか。
山本氏:商工会議所が中小企業庁の補助金を受けて行う、単発の創業スクールはありました。ただこのやり方では、起業してから大事になる仲間づくりができなかったんですね。
ですので、私たちは仲間づくりをコンセプトに据えて、仲間意識が生まれやすいよう取り組み自体に冠をつけて〇期生と呼べる形にしました。
ただ自治体は単年度予算ですから、「次年度の責任が負えるのか」と言われもします。それでもやるんだっていう意気込みで、なでしこ未来塾1期生、2期生、3期生…と続けていきました。いつまで続くかわからないけども、コンセプトに従った枠組みを作りたかったんです。
今村:そのコンセプトメイクがすごいですよね。起業塾には色んなコンセプトが思いつくなかで、なぜ仲間づくりを特に意識したのでしょうか。
山本氏:ただ学ぶだけなら本やインターネットで学習はできますよね。それ以上にお金をかける目的があるとすれば、それはネットワークの構築だと思うんです。起業の苦しさは、同じく起業している人にしかわからないですし、そういう仲間の存在は大きいと思いました。
市の取り組みでも、市内に限定しない
今村:受講生の募集は、最初からうまくいったのでしょうか。
山本氏:初回の1期生は、それなりに応募がありました。ただやっぱり周りから「なんで女性限定なの?」とか、逆に「なんで市内だけに限定しないの?」とかは言われましたね。
今村:太田市の取り組みでも、対象を市内に限定しなかったのですね。
山本氏:はい。太田市の取り組みなのでそうしたくなる気持ちもわかりますが、でもビジネスって市内だけで完結しませんよね。市外にも仲間ができたら、よりビジネスがしやすいじゃないですか。当初は募集の苦労は少なかったですが、周りの理解を得るための苦労はあったと思います。
今村:2期生以降の募集はいかがでしたか。
山本氏:1期生は20人募集をかけて20人来たんですけども、2期生は8人しか集まりませんでした。太田市は企業城下町で受け身な地域性があるので、こういう取り組みに人を集めるのは今でも苦労しています。
3期生が12人、4期生のときは広報の一面に載った効果で20人、5期生で13人、6期生で14人です。
今村:でも、だんだんと安定してきた感じがしますね。
山本氏:そうですね、やっぱり継続の力は大きいと思います。3期生ぐらいから、口コミも広がり始めて、卒業生の活躍も見えてきたので、「なでしこ未来塾」の名前自体も伝わるようになってきました。
今村:起業塾のプログラムの最後は、事業計画書を作ってプレゼンする流れですか。
山本氏:そうです。実は受講した人が全員卒業する前提ではやっていなくて、20人いたら12,13人が卒業したら良いぐらいの気持ちでいます。その前提で作られたプログラムですから、それなりにタフな内容だと思います。
コンセプトの「仲間づくり」がうまくいかない
今村:あらためて、プログラムの流れを簡単に教えてください。
山本氏:4ヶ月程のプログラムで、グループワークと座学を中心に進んでいきます。株式会社スリールの堀江敦子さんをメイン講師に据えて、1年に4回のプログラムを実施しています。
今村:コンセプトの「仲間づくり」は、どのように実現させていきましたか。
山本氏:正直に言うと、最初はあまりうまくいかなかったんです。Facebook上にコミュニティを作って繋がるようにはしてみたものの、そこではあくまで行政が関わっているから繋がっている感じがありました。
今村:では最初のうちは、ある程度手を入れ続けないと機能しなかったのですね。
山本氏:そうですね。卒業生の中から取りまとめる方が自然に現れないので、どうすれば自発的にネットワークが育まれるのかが課題でした。そこで考え出した方法が、一般社団法人化だったんです。
今村:次回、その一般社団法人化によってどう変わったのか、詳しく伺います。
(取材=今村寛 編集=小野寺)
▼「地方公務員オンラインサロン」のお申し込みはコチラから
https://camp-fire.jp/projects/view/111482
・時間、場所、費用にとらわれず、月に2回活躍する地方公務員や首長、著名人のお話を聞くことができます
・地方公務員が大手メディアに寄稿することが可能となります
▼「HOLGファンクラブ」のお申し込みはコチラから
https://camp-fire.jp/projects/view/111465
・月額500円から、地方公務員や地方自治体を支援することが可能です
※本インタビューは全3話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。