「陸王」のロケ地となったこはぜ屋(イサミコーポレーション)
[記事提供=旬刊旅行新聞]
池井戸潤さんの小説「陸王」が大ヒットした埼玉県行田市。最盛期の1938(昭和13)年には、和装小物である足袋の8割を生産する一大産地であった。ピーク時には200社以上もの中・小規模の足袋工場があったという。しかし、戦後の82(昭和57)年ごろを境に出荷金額、事業所数ともに大きく減少し、また一部は海外移転なども進み、現在ではわずか5社が細々と生産を続けている。
町なかには、陸王の「こはぜ屋」のモデルとなったイサミコーポレーションの工場と蔵など、現在でも80棟以上の足袋蔵が残り、往時の繁栄の姿をとどめている。2017年4月には、これら足袋蔵群などが「和装文化の足元を支え続ける足袋蔵のまち行田」として日本遺産に認定された。本紙でも、認定直後の5月、行田の日本遺産物語について紹介した。
日本遺産活用について、行田市がとりわけ重視したものの一つが、観光まちづくり事業を担う人材の育成である。どんな活用計画を描いても、これらを実際に担う民間プレイヤーと、彼らが構想し実現する事業がなければ、まちづくりは進まないからである。
その一つが、市民主体の「行田みらい塾」である。多様な分野の外部講師を招くとともに、塾生が主体となった事業創造のアイデアや手法などが熱心に検討された。そして、さる3月10日、塾生たちが練りあげた事業プランの成果発表会が開かれた。
その内容を少し紹介したい。その一つは行田の着地型観光や体験型土産品開発、コミュニティースポット開発などを手掛ける「行田観光クリエイト(仮称)」の設立である。各分野の行田マイスター(ガイド)を育て、複数のタイプのストーリー性の強いまち歩きコースのプログラムを開発する「TABI市」。そして、これらの事業を担う「KURA座=市民株式会社」が、地域資源を磨いて多様な事業を創造するという企画である。
2つ目のグループは、映画「のぼうの城」で脚光を浴びた忍城を舞台とする「忍城たびフェス」を提案した。近隣の熊谷で今年開催されるラグビーワールドカップに来る外国人選手や観光客などを招き、外国人に人気のお城で「運動会」を開催するという企画である。城周りには地元産飲食ブースやラグビーボールの玉入れ、綱引きなどの運動会、極め付きは3層櫓のお城で泊まる「日本遺産ホテル」などの事業が提案された。
市は今年、市制施行70周年を迎えることから、これらの企画も含め、市民提案型の事業プランに600万円の支援金を用意。埼玉地名の由来となった「さきたま古墳群」などの活用もこれからの課題である。
すべて民間主体の事業ではあるが、これらを支援する行政各課のシームレスな支援体制づくりも不可欠である。市民が提案し実施する観光まちづくりは、まさに始まったばかりだが、今後の成果に期待したい。
(東洋大学大学院国際観光学部 客員教授 丁野 朗)
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