企画を進める心得
加藤:寺本さんがこれまで取り組まれてきたことを伺ってきましたが、これだけの企画を役所の中で通されてきた心得のようなものはありますか。
寺本氏:一つは、ちゃんとした課題の設定が大事だと思います。「現状の課題はこれで、この課題さえ直せば必ずうまくいきます」と、書き上げるのがすごく大事。
加藤:具体的にはどういうことでしょうか。
寺本氏:例えば牛肉の場合、ヒレ肉とサーロインは需要があるから売れますが、モモ肉とバラ肉は余るという状況があるとしますよね。その余ったものを、「ハンバーグとして売り出せば利益が出せるしブランディングもされますよ」っていう未来を描けば、そこに投資の話が舞い込むかも知れない。
補助金の話で言えば、全く可能性がないものに対しては出るわけもないし、逆に全部うまくいくことには「これ本当に整理してやっているのかな」と思われてしまいます。
加藤:なるほど。寺本さんはやる前から諦めることがなさそうですね。
寺本氏:基本的には、迷ったらやるんですよ。迷うってことは、やりたいっていう気持ちがあるっていうことですから。それはやってみた上で、発生した事態に向き合って処理していくだけだと思っています。
やる前はいろいろ不安で悪いことが10個想定されるかもしれない。でも、実際にやってみたら悪いことは1個か2個しか起きないじゃないですか。それに対して解決すればいいだけの話なんですよね。
加藤:やってみれば出てくる課題が明確化されて絞られるから、そこに注力すれば良いと。
寺本氏:そうですね、まず迷わずにやってみて、あとは軌道修正ができれば良いと思っています。
「6:4」の法則
加藤:寺本さんは役所内外で多くの関係者を動かしています。コミュニケーションの部分で気をつけていることはありますか。
寺本氏:よくこれを言うんですけど、交渉する上では「6:4の法則」があるんですよ。6は相手に取らせてあげて、譲れない4だけは自分が取ると。常に2負け続けることで、誰かがそれを見ていてくれて2以上のものを持ってきてくれる。
結局、交渉に勝ち続けている人って困ったときに誰も助けてくれないんです。常に6:4の関係を保ちながら、「ああ、寺本さんと付き合っていて良かったな」と思ってくれている人がいることがすごく大事で。
加藤:常に負け続けることが大事。
寺本氏:よく家族の例え話をするんですけど、小さい頃にジュースを飲むとき、弟が「これ欲しい」って言い出すと親が「お兄ちゃんなんだから、我慢しなさい」なんて言って、我慢させられたりするじゃないですか。
そこの交渉では負けているけど、それを見ていたおばあちゃんが、「あんたはよう我慢したね」って言って、もっと大きいジュースを持ってくる。そんなことは、大人になっても本当に起きるんですよね。
加藤:たしかにそうかも知れません。
寺本氏:あと交渉っていうほどのことじゃありませんが、野球の牽制球の例えもよくするんですね。一塁に出て、厳しく牽制球を投げられたとしますよね。最初はすごい牽制が厳しいと思うけど、諦めずリード取ってるとちょっとずつ向こうも牽制球を投げるのに疲れてくる。その疲れた瞬間にリード広げていって、8割ぐらい進んじゃったら、もう「行けば?」って感じになっちゃう。なんとなくわかります?(笑)
加藤:相手の空気感を敏感に察知する必要があるので、めちゃくちゃ高度な交渉術に聞こえました(笑)。
寺本氏:そうですかね。もう2塁行った方が近いんじゃないの?みたいなことを周りの方が思っちゃって、「もう行けよ!」みたいな空気をつくるっていうだけの話なんですけどね(笑)。
でも本当のことを言えば、世の中に交渉なんて要らないんじゃないかとも思うこともあるんです。やっぱり、自分が他人を信じることができれば、相手はなかなか裏切らないじゃないですか。
若手世代は外から攻めるべき
加藤:若い職員が、組織の中で物事を進めるときに有効な方法はありますか。
寺本氏:若手世代の場合は、役所の外の人から、「あいつ、あんな良いことやろうとしているよ」なんてことを幹部に伝えてもらうのが一番良いです。
僕の場合はメディアにまず出して外部から情報をトップに入れるっていうやり方もしていました。
加藤:外部から攻めるんですね。
寺本氏:若い頃は特に話が通らないんですよね。若手とその一つ上の役職者ぐらいだと年も近かったりして、自分の短い経験から「お前、そんなことやっても駄目だろう」みたいな判断して潰しちゃうことが起きやすい。あとはその段階だとやっぱり自分を超えられるのが嫌だなっていう感情はあるじゃないですか、人間って。
まあ、いきなりメディアから攻めちゃうと職員に迷惑かけることもあって、摩擦は起きやすいんだけど、若手のやり方としてはアリだと思います。
加藤:中堅になるとまたやり方が変わりますか。
寺本氏:そうですね、年齢によってやり方は変わってきますね。中堅になると、身勝手なやり方がどれだけ周りに迷惑をかけてしまうのか、わかってくるというのもあります(笑)。
ある程度の役職になればトップに近くなってきているんで、逆に直属の上司にはちゃんと伝えていくことが大事ですね。そのぐらいの立場になればエゴみたいなものもなくなっているし、上司も本当に町のためになることを考えられる人が多い。
だから余計に、若手世代は外に出ないといけないと思いますね。土日とか、自分の職場以外のところで地域の人たちと関わる。どうせやりたいことって役所じゃなくて町の中にあるわけじゃないですか。
公務員は本当にありがたい職業
加藤:最後に、寺本さんご自身が将来やりたいことはありますか。
寺本氏:僕は自分が楽しみたいと考えたとき、その楽しめる環境って邑南町しかないんですね。だからやっぱりこの町を少しでも良い環境にしたいと思っています。
それ以外には、あまり何もないかも知れませんね。
加藤:自分が楽しくいるために、公務員であることはプラスでしょうか。
寺本氏:公務員って、お金をいただいて町のことを考えられる立場だから、僕にとってはやっぱり一番良いんじゃないかと思っています。地域住民の中にはお金をもらわなくても町のことを一生懸命考えている人がいますが、お金をもらって自分の住んでいる町のことをより良くできるのは、本当にありがたい職業ですよね。
加藤:そう思えるから寺本さんは結果を出せるのかも知れませんね。
寺本氏:どんな仕事でもそうだと思いますが、「やれって言われたから、やりました」じゃあ、何も楽しくないじゃないですか。仕事のあり方が少しずつ変わってきている中で、これまでは間違わないことが大事だったんですよね。でもそれがある程度コンピューターでもできるって話になったとき、人間である職員って何するんだっていうことは一人ひとり考えていかないといけませんよね。
加藤:大変ためになるお話でした。ありがとうございました。
(文=小野寺 将人)
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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。