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スペシャリスト?ゼネラリスト?(生駒市長 小紫雅史)

HOLGがダイヤモンドオンラインに寄稿した、「公務員の『定期異動』がサービス低下を招く深刻な実態」に対して、生駒市長、小紫雅史氏に寄稿していただきました。現場感と納得感の溢れるご意見を、さっとまとめられるのは、日頃から自治体業務への考察が及んでいるのだと強く感じました。
 HOLGがダイヤモンドに寄稿した文章には賛否があると思いますが、議論が深まる一つのきっかけになれば嬉しいです。異論反論なども含めて寄稿いただける場合は、ページ下部の投稿欄からその内容をお寄せください。
 それでは以下、小紫市長の寄稿文をご覧下さい。(加藤年紀)

スペシャリスト?ゼネラリスト? 

文=小紫雅史

 「公務員は、スペシャリストではなくゼネラリストを目指すべき」と言われてきました。例えば、国家公務員の総合職採用の職員は、少なくとも2年に1回の異動を繰り返し、専門力よりは総合力を求められてきました。
 自治体では、平均すれば国家公務員よりは異動サイクルは長めでしょう。しかし、福祉を担当していた職員が農業部門に異動するなど、異動の幅が広く、霞が関で言えば、厚生労働省から農林水産省に異動するような人事もあります。
 こんな背景を受け、「もっとスペシャリストを育てるべき」「異動が頻繁すぎる」などの声も大きくなっています。
 私個人の見解を申し上げれば、これからの時代は、公務員もより専門性を重視する時代になっていくことは間違いありません。専門性を活かして、公務員を辞めても食べていけるくらいの職員が増えることが望ましいとさえ思っています。一方で、専門分野だけを掘り下げるだけでよいのか、そういう職員ばかりで良いかというとその答はNOです。その理由は以下の3点です。

専門性以外の力も求められる時期とポジション

 これはよく言われることですが、管理職はテーマ別の専門性というよりは、人事管理や全体の進行管理などが大きな仕事です。この力は専門性とは別の力であり、管理職になって急に評価を下げる人も上げる人もいるのがその証左です。幹部職員ともなれば、自分の所管する局や部はもちろん、役所全体、地域全体を俯瞰した上で、市長と同じような判断が出来る力も求められます。管理職以上を目指すなら、専門性だけでは不十分です。
 政府では原則として職員は全て専門家として育てられ、その中から管理能力があると評価された人が管理職となっていくシステムと聞きます。私もこの方式が良いと考えています。係長までの評価は主に専門性や個別業務の成果でよいと思いますが、管理職以上の評価はむしろ部下の育成など管理部分も重視されるべきでしょう。もちろん、管理職で専門性も高い人には最上級の評価をすべきですし、マイスター制度など、専門家として研鑽し続け、後進に専門性を継承する人にもしっかりと処遇する制度が必要です。逆に、管理能力も専門的知見も低い職員に厳しい評価をすべきことも当たり前のことです。
 逆に、専門性を固めるまでの若手職員と呼ばれる期間、ある程度幅広く業務を体験しておく期間は必要です。係長になる前くらいまでは、いくつかの業務を経験し、自分の力を発揮できる専門分野を見つけてもらうことが必要です。逆に言えば、係長クラスになったころには、自分が希望する得意分野を1,2つはもっていてほしいものです。

異動させるかどうかは、業務の専門性と個人の資質とのバランス

 今の自治体に専門性が必要ない業務は存在しません。
 しかしながら、「専門性のメリット」よりも、「同一人物を長い期間異動させずにおいておくことのデメリット」が大きいと考えられる場合に、組織はその人を異動させるべきという判断を下します。
 「専門性のメリット」については、部署によっても変わってきます。時代の流れによっても変化しますが、これからは、ITやAIの活用、国際化対応、稼ぐ力などが特に高い専門性が求められる分野の代表格になるでしょう。また、制度上、市町村の権限や義務が強化されたときや、その自治体が特に力を入れている分野においては、高い専門性を持つ職員(専門性を買われて中途採用された職員なども含む)をしばらく固定しておくことが求められ、人事異動は控えられるでしょう。
 一方で、「同一人物を長い期間異動させずにおいておくことのデメリット」については、個人の資質も大きく影響します。たこつぼ的に専門化してしまい、関係者との癒着や不当に権力化してしまうのは言語道断ですが、新しい風や他分野との連携を拒むような頑迷な専門家になるようなら速やかに異動させるべきです。逆に言えば、長年配属されていても、常に新しい変化を取り入れ、関係者との関係も前向きに築き続け、視野を広く他分野と連携できるような専門家は、長期間配属の弊害は小さいといえます。

1つの専門性では勝てない時代(専門性の掛け合わせ)

 これからはひとつの専門性だけでは食べていけない時代です。他を寄せ付けない突出した専門性があれば別ですが、ある強みと別の強みを組み合わせることで自分の価値を高めていく視点が不可欠です。
 したがって、例えば冒頭に述べたような福祉分野から農業分野への異動も、福祉の専門家が、農福連携による障害者の就労支援や、高齢者の生きがい・健康づくりのために農業分野を学びたい、とか、逆に障害者福祉の視点を農業に入れていきたいという建設的で前向きな異動なら、とても意味があるでしょう。生駒市でも、図書館司書を市民活動推進センターに配属し、図書館の経験をまちづくりに活かしたり、まちづくりの経験を図書館行政に持ち帰って新しい施策の具体化を進めたりしています。
 専門家として力を発揮したいという職員は大切にしたいですが、ひとつの専門性だけではなく、いくつかの専門性を兼ね備えた真の専門家として育てるという組織の判断や個人の意識も大切だと思います。

 人事課は、日々職員の相談に乗り、健康状態や家庭の事情、職場の人間関係など、配慮しなければいけない数多くの制約要因の中で、大変な人事作業をしてくれています。人事配置について不平不満がなくならないのは世の常ですが、職員は人事課の苦労もまずしっかり理解する必要があります。
 そのうえで、市民サービスが最大化することはもちろんですが、個々の職員の専門性を良い形で伸ばしていける人事配置に一層取り組んでいきます。また、個々の職員が自分の専門性やキャリアを意識しながら、どういう部署でどういう仕事がしたいかをしっかりと考え、人事課とともに具体化していくプロセスをより強化していきたいと思います。

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