インタビュー

【生駒市長 小紫雅史氏:第4話】「民間志望」「公務員志望」という言葉を死語にしたい

自治体では早めにスイッチを入れる体験が求められる

加藤:以前、仕事は3年目までが勝負で、5年目以降に巻き返す確率はかなり低いとお話をされていました。実際に5年目以降に巻き返した方はいましたか?

小紫市長:市町村は実務面で成果を出さないと管理職になることはなかなか難しい。その意味でも2、3年目までにスイッチが入る体験をし、成果を出してほしい。管理職になったらマネンジメントをうまく行って「化ける」かも・・・、と長い目で見てもらえるとは限らないですから。

 そのためには、若いうちから仕事に対する姿勢や意識を高いレベルで作っておけば、成長曲線が異なるので、一日一日他の職員と差がついていきます。この差を数年後にひっくり返すのは正直しんどいと思います。

仕事のスイッチは何年目でも入れることができる

小紫市長:とはいえ、仕事に対するスイッチは何年目でも入れることはできるんです。特に、市町村の職員って、「市民は文句を言うばかり」とか「要望ばかり」と思っている人が多くて、市民の声を積極的に聞くことに及び腰な人も少なくないんです。この意識を取り除いてまちに出ることが、『スイッチオン』、もしくは『リセット』の第一歩ですね。

 生駒市には、本気で地域を良くしようと活動される素敵な市民が沢山いて、そんな方々と行動を共にした職員の中には価値観が変わる者も出てきます。実際にこれを体験すると、5年目や10年目でもスイッチは入るんです。

 管理職でも、若い職員が市民と交流しているのを見て変化することもありますし、しっかり応援してあげたいとスイッチが入る人もいます。3年目までの成長が特に重要だとは思いますが、業務や研修、人事評価などの機会を通じて、あらゆる年代に気づきが与えられるようにしていきます。

「民間志望」「公務員志望」という言葉を死語にしたい

加藤:優秀な若手職員が民間に移ってしまうという話がありました。逆にいうと、民間に適応能力のある職員が生駒市に増えて来ているということなのでしょうか?

小紫市長:生駒市を受験する人の中には、民間企業や他の自治体から内定をもらった人もたくさんいます。つまり、少なくとも採用の時点では、民間企業の目から見ても、この人は活躍できる人だと思われているわけです。

 民間と自治体とで求められる能力は、基本的には同じでなければいけないと思っています。「民間志望」「公務員志望」という言葉を生駒市の採用活動を通じて死語にできないかなと思っています。

自ら新しい動きを作り出せる人を育成したい

加藤:公務員でも民間人でも、実際に活躍している人を見ると、課題発見能力、そして行動力も含めた課題解決能力があるかないかで、大枠は同じ能力だと思います。

小紫市長:もちろん、事務処理能力はなければいけないし、法律も知っていることも必要ですが、何よりもまちに出て、コミュニケーションの中で新しい課題を見つけ、それを解決する対策を作り出せるような人を採用したいと思います。

 そして、生駒市で採用した人が、生駒市を辞めても食べていけるような育成もしなければなりません。採用した職員が、他の自治体からも民間企業からも声もかからないようになるのは耐えられないですね。

 理想は、民間企業などからどんどんオファーをもらえるような職員に育つこと。ただし、「生駒市の仕事が面白いし、成長の機会もやりがいもあるので辞めません!」と言ってもらいたい。

人材の流動化を高めて良い循環を生みたい

加藤:生駒市役所で育った職員が役所から出て活躍したら、まち全体としては良いことですよね。

小紫市長:これから中途採用も力を入れて同質性を乱していくと言うからには、うちを卒業して、さらに羽ばたいていく人材の流れがあっても良いと思っています。もちろん、優秀な人が出て行くのはちょっと苦しいんですけど(笑)、また新しい素敵な人が入ってきて、出て行った職員にも何かの機会に生駒市の取組にかかわってもらえたら良いと思います。

加藤:日本は大企業からベンチャーに転職したり、起業する人が少ないと言われますが、役所もそうですよね。地方になればなるほど、各自治体はその地域の大企業のようなものです。だから、自治体が保守的ではなく、人材輩出企業のような存在を目指してもらえると、大きな力になるとは思います。

小紫市長:民間企業で働いていた人たちが自治体職員に転職して、今までの感覚では思いつかなかったことをやってくれています。逆に、チャレンジングなことを行っている地方自治体の経験であれば、それは民間企業でもきっと生かせるはずなんですよ。

組織から出たり戻れたりする制度があると良い

小紫市長:先日、環境省の勉強会に呼んでいただき講演をしてきました。「地方自治体はこういう目で国を見ている」とか、「環境問題への取り組みは、空き家とか道路交通とか高齢者とか全部含めて考えていくことが必要」という話をしましたが、環境省の立場を知っている首長だからこそ、関心を持って聞いてくれたと思います。

 地方自治体を経験した人が国家公務員をやったり、民間企業やNPOで働くなど、出たり戻ったりできる制度があると良いですね。外交官として出向していた時代によく聞いた話ですが、米国では転職を通じて民間企業、NPO、行政、政治などいろんな立場を経験していることが多いので、お互いの立場に対する一定の理解が最初からあるんです。

 社会全体でそういう相互理解の土壌があることが、米国における「徹底して議論するスタイル」につながっていると思います。お互いの理解も知識もないところからの議論は、不信感から始まりますから。

関連性のある部署間での異動は経験が生かせる

加藤:公務員の異動が専門性を伸ばすことを妨げているといった話がありますが、市長はどう感じられていますか?

小紫市長:生駒市の異動は平均4、5年、国家公務員の一種は短いと2年以下なので、国と比較すると長いとは思います。

 専門的な知識が必要な部署は長くいてもらうことも必要です。しかし、ずっと部署が変わらないことの弊害もあるので、関連する部署への異動はやるべきだと思います。最近の事例では、専門性の求められる広報を8年間担当した職員に、シティプロモーションや市民・事業所との協働をプロデュースする部署に異動してもらいました。新しい部署の業務は広報で培った庁内外のネットワークや企画力が絶対生かせる上に、より広く深い成長が可能となったと思います。

 私は、「企画畑ばかりではだめだから、現場や窓口業務も一回やってみろ」というような、精神論だけで異動させるような安直なことはしません。しかし、市役所の仕事は単独で成立する部署はなく、いろんな部署と絡み合っていますよね。なので、どの課にいっても「前の仕事の経験を活用できないか」、また、「この課での経験が絶対に後に繋がる」という考えをもって、きちんと経験を積んでほしいという気持ちはあります。

認知症に詳しい司書がいれば 新しい図書館ができる

小紫市長:図書館の職員にも「ずっと司書ができるとは限らない」と話しているんです。実は、生駒市の図書館は全国でも高い評価を受けています。市民とワークショップをして、そこで提案を出してもらい、その提案をした市民の方に主導で実現してもらったりしています。

 実際に、閉館後の夜の図書館で地ビールの話を聞き、本で知識を深めながら地ビールを飲むという会もやりましたし、ビブリオバトル(※自分が面白いと思う本の魅力を紹介し合い、勝敗を決める)の全国大会も開催しました。うちの図書館の最大の特色は、「指定管理しない」ことかもしれません。

市民との協働事業「本棚のWA」

市民との協働事業「本棚のWA」

 というのも、僕は図書館もまちづくりの拠点だと思っています。例えば、認知症の人にフレンドリーな図書館とか、障がい者や子育ての視点からみた図書館とか、図書館そのものにさまざまな価値を付加することができると思います。暇つぶしに来ているおっちゃんたちをまちづくりにどう繋ぎこんでいくか、地域の専業主婦や高齢者、障がい者の就労や起業の支援だって考えなきゃいけない。そのためには、私は市の職員による直営の図書館がよりうまくいくはずだと考えています。

 その前提に立ち、先ほどの異動の話に戻せば、専門性のある図書館司書でも、「例えば、認知症の担当部署を経験し、それをもとに認知症の人にフレンドリーな図書館を作ってもらうこともあるかもしれない」と話をして採用をしています。

 生駒市のように、いまだに新しい図書館司書を正職員で採用する自治体は珍しいため、2人程度の募集に全国から300人を超える受験があります。それで採用した職員は、司書でありながら、他の部署の仕事も十分対応できるし、その経験を図書館とコラボさせることも可能な人材です。専門性を大切にしながらも、他との連携をしっかり指揮してもらうことが必要ですね。市役所は霞が関のように縦割りでないのだから、連携の妙を楽しんでいきたいです。

部長権限で人材を流動的に活用できるようにした

加藤:生駒市は課内の人事は、その課で決めているのですよね。

小紫市長:人事が係長まで決めて、課長が一般職員の配置を行います。また、残業削減に取り組むようになってから、部長の権限で課をまたいだ人材配置ができるようにしました。例えば、A課は7月が忙しいから、B課から人を送るということができます。事後報告は必要ですが、人事課の了承もいりません。「部長の権限でやっていいよ」って言っているんです。ただ、あまり活用されていないので、これから運用の改善は必要かもしれません。

加藤:良い施策ですね。時期によって忙しさは偏りますからね。

小紫市長:もちろんB課の人がA課に行っても、いきなり仕事をするのは難しいという話はあるんですが、それを言ったらいつまでも変わらないですね。毎年忙しい時期はある程度わかっている。一度経験すれば、それなりに仕事もわかるようになるわけだから、次の年はよりスムーズになりますよね。

※本インタビューは全7話です。

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