副業はどんどんやればいい
加藤:副業については、どのような考えをお持ちですか
小紫市長:どんどんやればいいと思います。ただ、税金で給料をいただいているので、ロート製薬とかサイボウズのような民間企業とまったく同じような副業を認めることは難しいと思います。
とはいえ、地方公務員の職務専念義務っていうのも、よく見ると「本業の時間はちゃんと確保しなさい」と書いているだけなので、本業の時間以外に報酬をいただけるような活動をしたのであれば、別にもらってもいいですよね(笑)。
実際には、公務員は原則的に報酬を受け取ったらいけないものだと思っているので、習慣として、辞退する人が多いですよね。だから、交通費だけもらって、その場に行ったりする。でも、僕は貰ってもいいと思いますよ。だって、農家や不動産業を営んでいる人もいますからね。
公務員であっても副業を通じて 本業の視野を広げられる
加藤:私も貰えるなら貰った方が良いと思います。これから、世の中全体も個人の肩書での仕事が増えていくと思いますし、公務員もその例外ではないと思っています。
小紫市長:現時点で落としどころを見つけるとしたら、報酬は団体に入れて活動資金として回していくのが良いと思います。私も環境省時代にNPOを立ち上げましたが、本の印税などは個人ではなく、団体の活動に充当していました。副業をすることで本業の視点も広がるし、地域貢献や職員の成長にもつながるので挑戦してほしいと思います。
体調管理ができれば 職員が土日に働いてもいい
加藤:民間企業の仕事を職員が個人で受けて、土日に働くのは許容できる範囲内だと思われますか。
小紫市長:そうですね。体調をくずして、本業に影響がでることはよくないので、きちんと健康管理をしていればいいと思います。土日に趣味の野球をし過ぎて体調を崩すということだってあるので、単に自己責任の世界ですよね。野球をするのが気分転換という人もいれば、副業が気分転換になる人だっていると思います。
以前、生駒市で『働き方改革・副業』をテーマにしたシンポジウムを開催したんです。副業を解禁した民間企業では、ライバル会社で働くとか、やってはいけないルールだけを明確に設定して、それ以外は許可したと言っていました。まだまだルール決めが難しいのですが、先駆けて生駒市でも取り組んでいきたいと思っています。
※インタビュー後に生駒市が行った副業に関する発表
これからは市民の方にも まちや地域と関わりを持ってほしい
小紫市長:これまで生駒市は、大阪で働く人たちが帰って寝るだけの「ベッドタウン」と言われていました。しかし、「ベッドタウン」という言葉はある意味、仕事ばかりして家に「寝る」ために帰ってくる街ともいえますが、生駒市は違います。
生駒市は、「ワークライフバランス」のための取組を進めながら、さらに、コミュニティを大切にする市民を増やそうと思っています。「Bedtown」から「DiverCity」へ、なんてしゃれた言い回しもしています。
小紫市長:働き方改革は、働き方だけではなく、ワーク、ライフ、コミュニティ全体を変えていくことだと思っています。副業でもボランティアでもいいので、仕事と家庭以外に地域に自分の居場所、つまり、サードプレイスを持つことは、とても重要だと思います。
市民にそういった話をしている以上、まずは、職員こそが地域の中に自分のサードプレイスを持っていなきゃいけないと思っています。
幸福度を上げていく余地は ライフやコミュニティにある
加藤:「働き方改革は生き方改革」ということをおっしゃる方もいらっしゃいます。市長は以前からブータンで指標とされている、国民幸福量(Gross National Happiness)という尺度にも注目されていました。こういった幸せの価値観についてはどう考えられていますか?
小紫市長:米国に留学した時に一番すごいと思った大学院の先生の著書がまさに「Gross National Happiness」という表題でとても面白かったんです。社会やコミュニティへの貢献活動をしている人のハピネスが高いという部分がポイントで、私自身も印象に残っている部分です。
「アフリカで1日1ドルしか稼げない人」と「ニューヨークで1日50ドル稼いでいる人」、どっちが幸せなのかとよく言われますよね。人間って相対的に比較してしまうのですが、経済的な尺度だけでは幸せは量れないと思います。
もちろん市長として、生駒市を「稼げる」町にしていく必要はあると考えています。経済力はハピネスのベースになりますよね。
ただ、日本では、コミュニティから受け取る幸せをまだまだ享受していないので、幸福度を上げていく余地はライフやコミュニティにあると思っています。
「市民がどれだけ自主的に活動してくれるか」でまちの価値が変わる
小紫市長:「市民はお客様。要望はできるかぎりお聞きします!」としている自治体が多い中で、僕は「市民が地域のためにどれだけ汗をかいて、自主的な活動をするか」によってまちの価値は変わるのではないかと考えています。
そして、市民を「単に」お客様扱いするのではなく、市の課題にともに取り組んだり、イベントを一緒に作り上げたりする仲間として、市民にも汗をかいてもらえるかどうかが極めて重要で、これからの市町村、特に住宅都市の勝負どころだと確信しています。地域に役割や友達ができると、愛着もわきますし、もっと関わりたくなると思うんです。
市民が行政とともに汗をかけるまちこそが、『自治体3.0』であり、なによりも、現在、生駒市に住んでいる市民の満足度や定住希望率を、コミュニティの発展を通して上げることが第一なんです。
そのうえで、市民が生駒のよさや楽しさを口コミでPRして、「結果的に」人口が減らないまちを創っていきたい。市のことを知って、市の事業に関わってくださるようになった民間企業の現役部長が、私のフェイスブックに「最近、生駒に住んでいることを誇りに思うようになりました」と書いてくださいました。まちが自分ごとになると、変化がある。そして、それを伝えたくなるんです。
『12万人全員ふるさと大使』と呼んでいますが、生駒に住んでいる人がまちのファンになって、勝手にアンバサダーとして発信してくれるようになると、生駒市はもっと良いまちになるという想いもあるんですよ。
女性の働き方に さまざまな選択肢を
加藤:今後、『ワーク』『ライフ』『コミュニティ』の中で、主に『コミュニティ』へアプローチされるのでしょうか?
小紫市長:特にこれからはそうなると思います。ただ、『ワーク』や『ライフ』についても取り組みを進めています。
加藤:『ワーク』については、どのように進めていらっしゃいますか?
小紫市長:生駒市の女性就業率は、全国で一番低いラインにあるんです。でも、実はスキルを持っている宝物みたいな女性が沢山いるわけです。出生率も全国平均より低いんですが、その理由の1つとして、教育熱心で子ども一人当たりにかける教育費が高いことがあげられます。
世帯所得は高いので、女性が働いてなくても十分家計は回っているけれど、2人目のお子さんにも1人目と同様の教育費をかけられるか悩んでしまう。働いて稼げるスキルはあっても、フルタイムで働くか悩んでいる人は多いと思います。
そこで、「フルタイムでの勤務」か「専業主婦」かの二者択一ではなく、テレワークやコワーキングなど多様な働き方に対応できるような拠点をつくり、ネットワーク作りやスキルアップの支援もしています。、
中年の『引きこもり』『ニート』問題は 地域の大きな課題
加藤:『ライフ』は、踏み込むのに難しい領域ですが、どのようにお考えですか?
小紫市長:行政が家庭にずかずか入るわけにもいかないですけども、最近は中年の引きこもり、ニート問題が地域の大きな課題です。例えば、30~40代の子どもが引きこもっている実態は、十分把握できていない隠れた問題です。そういった子どもを抱えている方のために、窓口を一本化して、手を差し伸べることができる様々な専門家の集う体制を作りました。担当職員も頑張ってくれたんですが、市民に一番近い我々が、本気で頑張るべきところだと思います。
他に「ライフ」という観点で生駒らしい取り組みとしては、市民と行政の協働による「イコマニア」というイベントづくりがあります。これは、市民が自分たちでイベントを作って自分たちで楽しむ。それによって、にぎわいのある楽しいまちづくりを進めていこうとするものです。
生駒にユニバーサルスタジオを持って来るわけには行きませんが、自分たちで作ったイベントは告知にも気合が入るし、笑顔を生み出す担い手になれるんだから、やりがいがありますよね。子育て教育や福祉はもちろんですが、こんな感じで、「ライフ」の部分でも市民力を生かしたいですね。
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・月額500円から、地方公務員や地方自治体を支援することが可能です
※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 採用改革によって 受験者数が4倍に
第2話 ミドルが変わらないと 優秀な若手は辞める
第3話 2万時間を超える残業を削減
第4話 「民間志望」「公務員志望」という言葉を死語にしたい
第5話 体調管理ができれば 職員が土日に副業してもよい
第6話 市町村行政の肝は 住民の『わからない』をなくすこと
第7話 総理大臣でもできない仕事ができる