(文=八幡平市 中軽米真人)
地方創生を旗頭に掲げ、2015年から国を挙げて人口減少対策に取り組みはじめ、早くも4年が経とうとしています。この間、全国的にメジャーな成功事例とされるケースがいくつか生まれていますが、他自治体への横展開は限定的といわざるを得ません。
そんな中、全くの無名ではありますが、岩手の過疎地での開催ながらも、なぜか世界中からエントリーが殺到するプロジェクトが岩手県八幡平市にあります。働き方の刷新を軸に据えたこのプロジェクトの事例から、人口減少時代における過疎地のまちのあり方について、考えてみました。
地方の過疎地はなぜ人口が減るのか
人口減少。それは、地方の過疎地にとって、日本創生会議の「消滅可能性都市」の提言を発端にこの問題がクローズアップされるより以前から、最も重要な課題として捉えられてきたにも関わらず、明確な処方箋を見出すことができずにいる、非常に困難な問題です。
課題を解決するには、まず何よりもその根本原因を突き止めるところから始めなくてはなりません。
なぜ人口減少という社会現象が起きているのか。私が行った岩手県八幡平市の人口動態の事例研究を元に、その構造的な問題を解き明かすことから始めてみましょう。
過疎地における人口減少の根本原因
「なぜ過疎地の人口が減ってるんですか?」
こう問いかけると、おそらくほとんどの人から「少子化のせい」という答えが返ってくることでしょう。なるほど、確かに少子化は人口減少の直接的な原因に見えるかもしれません。ですが、それは人口減少という社会現象のごく一部であって、原因ではないのです。
では、なぜ過疎地で少子化が起きているのでしょう?
こう聞くと、おそらく「若い人がなかなか結婚しなくなったから」と考える人もいるのではないでしょうか。そうですね、確かに晩婚化・非婚化は少子化を加速させる一因と言えます。しかしながら、少子化は過疎地だけの問題ではありませんし、出生率では都市部よりも過疎地の方が高い傾向にあります。
注目すべきは、地方で生まれた子供たちが、そのまま出身地にとどまらず、都市部へと人口移動してしまっている、という点です。
「そんなの分かってるよ!」という声が聞こえてきそうですが、正確なデータという factを積み上げることで、はじめて実際の姿が見えてきます。
なぜ人は都市へと移動し、その結果として地方の人口が減少するのでしょう。
立ちはだかる「22才の壁」
上の図は、八幡平市における人口動態を表したものです。市内で生まれた子は、18才で 約1割、22才で 約2割が転出します。岩手県の大学進学率は、おおむね3〜4割程度ですので、この流出状況とほぼ符号しますね。実数でこれだけ減るものですから、そりゃあ人口が減るのも当たり前です。3割 が転出しているだけでも影響 が大きいというのに、これに晩婚化・非婚化が進んでいる影響 が追い打ちをかけてくれます。
ライフステージにおいて、人口が移動しやすい山が2回できているところがポイントです。そして、傾向として22才を過ぎると、人はあまり移動しなくなり、この年代以降の人口減少は非常にゆるやかになります。
私はこの現象を「22才の壁」と呼んでいます。
この壁を乗り越えると、人口は定着する傾向にあることから、ここの手当をすれ ば、地方の人口が減るのを抑えられるのではないか、と考えられますね。
それでは、この特徴的な2つの年齢は人生においてどういうタイミングなのか。もうお分かりですね。そう、高卒、大卒で就職する年齢です。
地方の過疎地から人口が減るのは、望む職が地元にない。そんなシンプルな理由なのではないか、との仮説が立ちますね。
なにしろ、人が生きていくには一定の収入というものが不可欠です。
どんなに好きなまちであっても、そこに自分の望む仕 事がなければ、人は 住処として選んでくれません。
人口減少に立ち向かう手段を考えるには、仕事が一丁目一番地です。なにしろ、入り口である仕事がなければ、いくらその先に有効な支援制度を設けても 効果は限定的にならざるを得ません。
次回は、この壁を乗り越えるための次のフェーズ。すなわち仕事をどう創出したらいいのかというポイントについて一緒に考えていきましょう。