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何かおもしろい、八幡平市の破天荒な起業家支援-過疎地は人口減少に立ち向かうことができる#4

(文=八幡平市 中軽米真人)

世界が選ぶ、IT起業家育成エコシステム

前回は、地方にはブルーオーシャンのフロンティアが広がっていることをお話しましたが、「地方でいきなり起業しようなんて人いるワケないだろ!」といった声が聞こえてきそうです。

もちろんそのとおりですね。

いないのであれば、育てればいい。やりたい人を集めればいいだけです。
若者が求める仕事であり、ネット回線さえあればどこでもできる。
八幡平市は、そんなITの仕事をつくれるプレイヤーを育てるオリジナルの事業を行っています。

それが、「起業志民プロジェクト」です。

IT起業家育成エコシステム
起業志民プロジェクトは↑の図に示したように、大きく3つの柱で構成されています。すなわち

1.宿舎も含めて無料のスパルタキャンプで人材を育成
2.家賃5年間無料のシェアオフィス・八幡平市起業家支援センターで活動
3.資金調達面で必要に応じて投資事業会社などとマッチング

この3つを経て、起業に至ったメンバーが、こんどはスパルタキャンプに帰ってきて後進の起業家志望者を育てる、という知の好循環を形成しています。育てた起業家が、次世代の起業家を育てるという、他に類例のないIT起業家育成エコシステムです。

IT起業家育成エコシステム
スパルタキャンプは、毎週土日・4週間という超短期ながら、独力でスマホアプリなどを開発できるところまで一足飛びに育てるというもので、教えるのは元受講生の現役エンジニアばかり。教科書には載っていない、現場の生きたノウハウを吸収できるのが特徴です。

IT起業家育成エコシステム2
食事こそ出ないものの、温泉付きの合宿所に1カ月住み込むこともOKで、同じ目標に向かって努力する志あるメンバーと起居をともにするうちに、自然と全員が最高の仲間になり、「一緒に組んで起業しよう!」なんてことも珍しくありません。

最強の実力が身に付き、最高の仲間を得られる。

「こんな機会は他のどこにもない!」ということで、岩手の山奥での開催だというのに、昨年11月に開催したスパルタキャンプ in 八幡平市【Python編】では、定員15人の枠に対して200人もの応募が殺到しました。率にして13倍です。応募してくる年齢層は10代から50代まで幅広いですが、もっとも多くを占めるのは、20代から30代までと、まさしく想定した年代層ですね。北は北海道、南は沖縄まで。35都道府県からの応募のみならず、西の果てはアフリカのチュニジア、東の果てはハワイのホノルルと、世界5カ国からもエントリーがありました。応募者の5%くらいは海外在住の邦人からです。

ハワイからの参加者はそのまま移住することになり、人が人を呼び、世界中から志ある若者たちが集う連鎖はとどまることを知りません。

IT起業家育成エコシステム3

さらに、スパルタキャンプであつまった優秀な人材ネットワークを、さらに活性化させる仕組みがあります。スタートアップ企業やフリーランスが成長するためのプラットフォーム、それが5年間無料で使えるシェアオフィス「八幡平市起業家支援センター(Startup Core)」です。スパルタキャンプ参加メンバーが中心になって、仲間の会社に参画したり、得意なスキルを提供して互いのプロジェクトを発展させるなどの活動をしています。一人では成し遂げることのできない事業でも、ここに集う最高の仲間たちとならできる。そんな環境の中で、日々新しいコラボが生まれ続けています。

 こちらは、八幡平市の合併に伴う新庁舎建設で遊休化した元議員控室。東南の角部屋で窓からは岩手県の最高峰、岩手山を望むことができます。超高速のギガビット回線を引き込んでおり、センター登録者は自由に使えます。

スパルタキャンプは、受講料・宿舎にかかる経費までもが無料で、参加資格は高校生以上であれば誰でも可、という行政のプロジェクトにしてはちょっと破天荒な感もありますが、このキャンプを入り口にして、起業家やフリーランス志望者が世界中から集まりはじめています。2019年3月末時点で法人4社・個人7者の14人が登録。スパルタキャンプで育てた起業家やフリーランスのほか、都内IT起業のサテライトオフィス2社も入居。現在もたくさんオファーをいただいており、ユニークな活動をするメンバーがますます増えていくことがすでに決まっております。

「楽しいこと以外やるのを禁止」という世界観

このエコシステムの姿は、最初から描いていたワケではありません。

スパルタキャンプを始めてみて、「キャンプが終了した後に、参加者が活動できる場所があったらきっと楽しくなるな!」と考えて、2016年に居抜きで元議員控室を転用したのがはじまりです。また、参加者が資金調達をもっと気軽にできる仕組みを整えたら、もっともっと面白くなるんじゃないかな?と考え、投資事業会社にオンラインで提案するイベントを開催したり、クラウドファンディングで資金集めをしやすいよう、手数料を補助する制度をつくったりしました。

そんな感じで活動していたら、いつの間にか起業した先輩が後輩を指導するという形が出来上がっていた、というのが実態です。

すべては仮説から始まり、それを検証して、高速でPDCAを回しているだけですが、ここに通底しているキーワードが一つあります。それが「これをやったら、今よりもっと楽しくなるんじゃない?」というもの。

起業志民プロジェクトのポリシーは、必要だからやるのではなく、楽しそうだからやる。楽しそうな雰囲気をどんどん作り上げ、そこに参加したくなるインセンティブをもっと増やしていく。
むしろ「楽しくないことは禁止!」というのが、起業志民プロジェクトにおけるたった一つのルールです。
まさにこうした世界観こそが、人を引きつけているのです。

キーワードは「何かおもしろそう」

プロジェクトを通じて、国内外から移住する人が増えていますが、まさしくここでも「楽しさ」がキーワードになっています。

スパルタキャンプを契機に移住したみんなに聞いてみると、一様に「ここに来たら何か楽しいことができそうだから」「何かおもしろそうだったから」といった答えが返ってきます。
「そんなバカな!」と思われるかもしれませんが、彼らが言うのは大マジです。

志を同じくする仲間と、1カ月もの長期にわたり起居をともにして、切磋琢磨し合う。こんな経験は学生時代の部活以外ではそうそう体験できませんよね。スパルタキャンプは超濃密な体験を通じて、八幡平という地域とそこに住んでいる人への関わり合いを半強制的に作り上げるという仕組みで成り立っています。

僅かな期間でも、住み着いて、濃密で面白い経験をして、ここで楽しく働いて暮らしていける、という明確なイメージを持たせていることが大きな要因だと考えています。

ついに次回で最終回。これからの時代において地方の過疎地が目指すべきまちの姿について、述べさせていただきます。

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