徹底的な実態把握とニーズ調査
加藤:地域ケア会議を立ち上げたきっかけは、なんだったのでしょうか?
田中氏:困難ケースの発生頻度が増え、困り果てたケアマネージャーや介護事業所から市への相談が増えました。その対応に追われる日々が続いたことと、この課題を行政として何が出来るか、どう解決に結びつけるかを考えたところから始まりました。
多くの取り組みは、地域の人の困りごとから発生しているんです。元気になってもらう自立支援の仕組みづくりも、単に給付費を抑えるということではなくて、その人がその人らしい生活をし続けるために、いかに必要な情報を先出し出来るか、いかにクオリティの高い事業を展開できるか、質の向上に向け支援者のOJTをどう図れるかということにこだわり、スタートさせたものでした。
デマンドをニーズに替えるために必要な情報提供がなされていない実態があったこと、意思決定支援について、「十分な情報提供がなされていないのではないか」と考えさせられる事例があったこと、「その人らしさを大切にする支援ってなんだろう」と考え続けた経緯があったと記憶しています。そのためにニーズをしっかりと捉えることが大切だと感じ、そのためには実態把握を行い、関係者や関係機関と議論する場が重要だと考えました。
民間事業でも同じだと思うんですけど、行政がニーズにしっかりと向き合うことが重要だと感じています。
加藤:地方公務員アワードでも『ニーズを聞き取るプロ』という紹介がありました。
田中氏:やはり、限りある財源を有効に活用するためにも、一定数のニーズがあるところにこそ施策を打たないといけない。そうしないと、市民の満足度も得られないですし、それは行政マンとしての基本だと思います。
徹底的に実態把握やニーズ調査をしなければいけない。それを、ちゃんと“見える化”をして市民に伝えて、私たちの施策が正しいのか正しくないのか、きちんとジャッジをしてもらうように努力しています。
加藤:先を見通すためにも調査が必要ということですね。
田中氏:以前は民間の金融機関に勤めていましたので、市場ニーズを注意深く見て来ました。やはり、解決すべき課題があって、その課題解決に向けた「短期、中期、長期」の目標設定があり、具体策に施策を落としこんでいくことになると思いますが、目先のことではなく、長期の展望がもっとも重要で、それをどこに置くかによって全てが変わってくる。そうはいっても社会情勢は数年で大きく変わりますので、PDCAサイクルを意識して、微修正していくことも忘れてはなりませんが・・・。
私たちの分野においては、人口推計であったりとか、社会保障費の重みであったり、国や県の動向であったり、見るべき数字は本当にたくさん出ているわけです。国では、平成30年から始まる計画の方針を開示した頃には、もう次の計画の準備を始めているわけで、常に先を先をと見通しながら、次の手を打つ準備を始めています。
介護事業者に一軒一軒訪問して経営スタンスを確認
加藤:生駒市における実態把握やニーズ調査では、具体的に何をしましたか。
田中氏:さまざまです。例えば、第7期(H30.4~33.3)の介護保険事業計画策定において、第6期(H27.4~30.3)から開始した「介護予防・日常生活支援総合事業」の仕組みをどう評価し、第7期に反映させていくか、平成30年度からの事業者指定や報酬について、どう考えるか、特に短時間でサービス提供している通所介護事業所を一軒一軒訪問して、実際の経営状況や将来に向けた経営スタンスを聞きにも行きました。
他には、介護関係者向けのアンケート調査も実施したり、全数ではありませんが、介護予防・日常生活支援総合事業のサービスの利用者へのヒアリング、市民ニーズ調査、地域包括支援センターへのヒアリング、さらには、介護保険制度などでは学識者が集まった会議体からの意見聴取もあります。本当に多角的です。
加藤:介護事業者の経営方針まで自治体職員が聞くのは、日頃から関係性がないと難しそうな気もします。
田中氏:確かに、行っている自治体はあまりないと思います。ただ、介護予防・日常生活支援総合事業等は地域密着型サービスと同様、保険者がどう介護保険制度を運用していくか、計画性をもって整備していかないといけませんし、事業所を指定する要件や報酬(月額報酬や日割り等)算定の方法も市町村判断となりました。特に第6期の介護保険事業計画では月額報酬で行っていたものを、隣接市町村の運営方法も視野に入れながら、その整理を行うために関係する事業所を職員が回りヒアリングしています。
また、介護関係者の人材確保も全国的な課題になっていますので、気になるところでもあります。特に生駒市は大阪府と隣接しています。大阪府の最低賃金は909円、奈良県は786円。賃金格差があると、やはり賃金の良い大阪に人は流れやすくなりますので、そういったことも現場に出向き、確認出来ればという想いもありました。
そのあたりも踏まえて、どう雇用対策を考えているのか、今後の事業運営を縮小、維持、拡大等、どう考えておられるか、実態を把握することの意味は大きいと考えています。
市町村の力量を追求される時代に突入
田中氏:少子高齢化は全国の課題であり、社会保障費の伸びは増幅する一方で、今後も今の仕組みが継続するとは想定できません。きっと、軽度者のサービスはもっと幅広く市町村事業の枠組みに移行され、市町村の力量が試されていくのだと思っています。
そうした背景もあり、この現実を住民の方にも理解いただき、初めて市の事業枠の幾分かを住民主体にシフトしていくことができる。先の10年を見据えると、民間企業の参入や現行の事業所等のキャパを捉えておかないと先が読めないことと、どこまでAI等の発展により、業務改善や人の配置が少なく済むかも読んでいかないと、適切な保険料の設定も難しくなる。「自治体戦略2040構想研究会第一次報告」等にもそういったことが記載されていますが、本当に市町村の力量を追求される時代に突入していることを実感しています。
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※本インタビューは全9話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 介護予防事業に年間約200人の視察
第2話 市町村の力量を追求される時代
第3話 国が示す類型はあくまで典型例
第4話 有識者を呼ぶだけでは地域の人は動かない
第5話 無償のボランティアにタクシーで駆けつける住民
第6話 ボランティア参加が高齢者の承認欲求を満たす
第7話 ボツになった事業案が目玉事業に変わる
第8話 看護師になりたかった
第9話 市町村は目の前に住民が存在する