州の実務は「経済政策」「地域外交」「広域インフラの整備」など
加藤:ちなみに道州制というお話が先ほどありましたけども、道州制の具体的なイメージはありますか?
鈴木市長:重要なことは道州の分け方よりも経済活動を地域ごとに自由にさせることですね。そして、税制もある程度自由にやれるようにする。
実務的には広域インフラの整備だとか経済政策だとか、地域外交みたいなもの。いろいろな外国とのやり取りの中で地域の経済発展を担ってくれたりしてもいい。つまり、国がやっている仕事の経済的な部分を全部道州が引き受ける。
国は外交や安全保障や通貨の管理とか、そういう大枠のことだけやって、あとはそれぞれの州が行う。私がイメージするのはそういう道州ですね。
財政が脚光を浴びれば 自治体はやらざるを得なくなる
加藤:普段、市長が発信したいけれども、できていない情報はありますか?
鈴木市長:これ(財政)。
加藤:これ(笑)。発信できて良かったです(笑)。
鈴木市長:財政の問題、こんな大事なことないですよね。私の経験から国の財政再建はなかなか一朝一夕にいかないけど、自治体はやろうと思ったらできるんです。財政が脚光を浴びれば、みんなやらざるを得なくなる。
逆に、メディアが取り上げないと、首長さんもあまり重きを置かなくなってしまう。財政健全化はものすごく地味だし、下手すればみんなから恨みを買うような話(笑)、それだったら首長もお金をばらまいているほうが良いですよね(笑)。
財政健全化は選挙の票にならない
加藤:選挙の票にならないですよね。
鈴木市長:ならないですよね。だけど、本当にものすごく大事です。私がよく言っていることは、「健全化した分はすべて皆さんに還元される。借金を減らすと皆さんの将来の税負担は減る、あるいは他の行政サービスに使うことができるようになる」ということなんです。
人口の増減などの話に注目が集まることが多いですけど、人口減少対策で補助金などをたくさんばらまいていたら、財政を圧迫したりしますしね。
人口減少は悪なのか?
加藤:そもそも、人口減少が絶対悪だという風潮が多いのは少し違和感があります。
鈴木市長:そうなんですよ。人口が減る以上に問題なのは、一人当たりのGDPや生産性が落ちていること。人口が減るのが問題じゃなくて、国力が低下していることが駄目なんだと。
加藤:いまの仕組みが人口増を想定したモデルじゃないですか。でも出生率は下がった。前提が変わったのであれば制度を変えるべきですよね。出生率は上がったらいいですけど、頑張っても倍とかにはならないわけですから。
移民との共生も議論しなければならない
鈴木市長:そうなんです。どうあがいても減ることは確実。時々、外国人人材の活用について話をして、「日本も移民政策を進めないと、日本自体がやっていけないよ」と訴えるのですが、正面切って誰も議論しない。
浜松は移民先進地域で、ずっと外国人との共生を進めてきました。それでも、政令指定都市の中で犯罪発生率は最下位です。しかも、外国人の犯罪発生率は日本人よりはるかに低いんですよ。
共生がうまくいけば外国人は全然怖くない。日本の場合、表向きは外国人の研修制度みたいにしていますが、実際は労働力として使っているわけですよ。そういうことをすると、現場でひずみが生じるから、変な犯罪が起こりやすくなる。しっかりと移民として受け入れる環境を整えたうえで進めれば、全然問題ないですよ。
いままで多文化共生というのは、外国人の子どもの教育をどうするかとか、社会保障制度をどうするかとか、そういう課題をどういうふうに克服していくかということが中心でした。でも、これからは外国人の持つ能力とか多様性を、いかに都市の発展や活力に結びつけていくかという思考でいかなければいけない。例えば、アメリカが繁栄している原動力は間違いなく移民ですよね。
行財政改革なんて 首長が本気になるかならないかだけ
加藤:いま自治体でお仕事される醍醐味を教えていただけますか?
鈴木市長:具体的な行政サービスを提供しているのは基礎自治体です。浜松市では年間5000億円近いお金が動いていますが、細かく見ていくと何万円の積み重ねなんです。ものすごく具体的なんですよね。
それが国にいくと、何兆円なんてわけの分からん化け物と戦っているみたい。国会議員と首長の両方を経験した立場から思うことは、国は“バーチャル”な世界。一方、基礎自治体は“リアル”の世界だということ。だから、仕事は大変ですよ。責任は重いし、何かやるとそれは必ず目の前で影響が出てくる。それを全部引き受けなきゃいけないので、プレッシャーもありますが、逆にやりがいがあって面白いですよね。
加藤:財政健全化もまさに目の前で数字となって表れています。
鈴木市長:はい。結局、行財政改革なんて、首長が本気になるかならないかだけですよ(笑)。
編集後記
鈴木康友市長は自らの立ち位置を自在に調整しながら、市役所と行革審を的確につなぎ、粛々と財政健全化を進められている。最後の大仕事と力を込めた区の再編にも大きな期待を寄せたい。
最後の「行財政改革なんて、首長が本気になるかならないかだけ」という言葉が印象的だ。全国の首長からすれば、その難易度から素直に頷けるものではないかもしれない。ただし、間違いなく言えることは、鈴木市長のような気概や信念を持っている者のみが、高みに到達できる“何か”を所持しているという私の実感である。このような積極的資質は今後確実に首長に求められることではないだろうか。
鈴木市長の言葉にあるように“悪者”を買ってくれた浜松市行革審のような存在は貴重である。他の地域でも同じ様な存在が現れ、民間の経験や知見がもっと自治体に活かされたらと思うのである。
しかしながら、そのような組織体が結果的に機能しなかったとしても私は良いと思っている。なぜなら、もしも民間のノウハウが自治体の財政健全化に貢献できないのだとしたら、その事例も貴重な知的資産として蓄積され、他に活かす機会もあるからである。
仮に民間のノウハウを持ってしても改善に至らないことが続いた時には、役所は既に健全化を徹底できているという証明にもなり、民間から揶揄される“お役所仕事”などといった陳腐な表現が世の中から消えていくに違いない。そういう文脈において、全国の自治体は民間とも連携して、財政健全化を共に進めるという考え方があっても良いのかもしれない。
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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 「財政改革」と「財政健全化」は一丁目一番地
第2話 『浜松市行財政改革推進審議会』はどう機能したか
第3話 『行財政改革推進審議会』が悪者を買ってくれた
第4話 50万~100万人規模の自治体に再編をしていくべき
第5話 自治体財政が脚光を浴びれば 健全化せざるを得なくなる