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太田千尋2

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【仙台市 太田千尋氏:第2話】5年間は海に行けなかった

今しかできないことをやってくれないかな

加藤:行方不明者捜索が3か月でやや目途がつきました。その後はどういう活動になっていきましたか。

太田氏:上司であった署長に呼ばれまして、「太田君、今の仕事もようやく収束してきた。そこで、今しかできないことをやってくれないかな」と言われた(笑)。「今しかできないこと」って何だろうって思いました(笑)。

 それに即答できず1週間くらい悩んで始めたのが、「地域の人たちと震災を振り返る」ということでした。お亡くなりの方もいるけど、そうじゃない人もたくさんいますから、そういう人の心に何かを刻もうと。

 嫌な記憶を残すことにもなるんだけど、この震災を自分一人の体験だけじゃなくて、どういう人がどういう体験をしていたのか、俯瞰してどういう状況だったのかを知ってもらおうかと。

5年間は海に行けなかった

加藤:震災の中で、太田さんご自身が心に刻まれていることはどういうことでしょうか。

太田氏:先輩のお住まいが津波で流されたところにあったんです。その先輩のご両親は津波で流されて行方不明になっていた。それでも自分の家の近所を捜索するわけですよ。自分の自宅が流され、跡形も無くなった敷地を言葉もなく見つめていて、その後ろ姿を見たときはもう駄目だったです。なんて災害は残酷なんだと思いましたね。

 現場はずっと青空が続いていたんですよ。海も真っ青ですごく綺麗で、空も真っ青、それを見ながら、「この世の中に神様っているのかな」「なんでこうなるのかな」って、思いました。やりきれなさをすごく感じて、それはすごく震災の後の海を見てつくづく思ったことです。

 仕事で津波の沿岸部には行っていましたけど、プライベートで海に行ったことは実はなかったんです。ようやく最近、何かイベントがあると行けるようになりましたが、一人では5年間海には行けませんでした。

震災直後の若林区荒浜の海

震災直後の若林区荒浜の海

啓発して事前に理解してもらうことが重要

太田氏:実際に多くの方が殉職したりしていて、誰が亡くなってもおかしくない状況だった。だからこそ、そうならないように住民に啓発したいと感じました。

 事実として、消防隊員が殉職したのは、なかなか避難しようとしない人を説得しているうちに流されたりすることもあった。すると、住民の中には「逃げないと言った人が悪い」と思う人もいる。でも、それは全然違う。

 何が違うかっていうと、「逃げたくない」「ほっといて」という人が東日本大震災の津波を目の当たりにしたうえで、仮に今、生きていたとします。将来、同じような状況が来たら絶対逃げますよね。そして、「逃げないといけないよ」って周りに言いますよね。だから、啓発して事前に理解してもらうことが重要なんです。決して逃げなかった人が悪いわけじゃない。だからこそ、住民の命も、救助する側の命も守りたいんです。

つらい体験を吐き出していくことで解消した

加藤:被災者でもありながら、被災地支援をしていた太田さんにも辛いことがあったのだと思います。ご自身のモチベーションはどうやって維持することができましたか?

太田氏:不思議なんですけど、その辛い体験っていうのは、他の人と辛い体験を共有することで解消するんですよ。私たちは様々な現場に行ったときに、悲惨な状況を目の当たりにするわけですよね。その時に、「ひどかったよね」とか、「本当にかわいそう」だとか、お互いにそういう話をするわけですよ。そうやって、抱え込まずに皆が吐き出していくことでなんとかやれたのではないかと思います。

震災によって変わったスタンス

加藤:そうですよね。一人で抱え込める問題ではないですよね。

太田氏:はい。それが分かるようになってからは、部下が失敗をしても、反省という形ではなく、うまく吐き出せるようにすることも心がけるようになりました。

加藤:震災によって、業務の考え方や部下との接し方が変わったりしたのですね。

太田氏:そうですね。住民に対しては安全を徹底し、住民の皆さんと一緒に考えて、一緒に進めるというスタンスにどんどん変わって行きました。

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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

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