組織文化の違いに自信を喪失
加藤:民間企業から、自治体に入って苦労したことはありましたか?
大垣氏:山のようにありますが、一番しんどかったのは組織文化の違いです。前職では「いかに昨年と提案方法を変えるか」が腕の見せ所でした。なのに、前例踏襲主義がまだまだ残る文化が待っていました。
提出された原稿が分かりにくくて担当の課に修正を求めても「昨年はそれで良かったから、そのままで」と言われて終わることもありました。「昨年通りのままでいい」という理由で改善案を却下される経験がなかったので、どうすればいいかわかりませんでした。
自信も喪失したし、愚痴を言える人もいないし、転職鬱みたいな感じになって。組織に馴染める日がくるとは思えず、毎日「辞めたいな」と思っていました。
行政広報の大きな力を実感
加藤:ターニングポイントになるようなことはありましたか?
大垣氏:役所に入って3か月目に、広報誌で市民活動を2つ紹介したんです。1つは一人暮らしの高齢者にお弁当を配達している団体でした。代表の方の熱い思いに胸を打たれ、泣きながら3時間お話を伺いました。発行後、その方がわざわざ役所にきて「今までいろんなメディアに取材してもらったけれど、広報の職員が一番思いをくみとってくれた。ありがとう」と部長にお礼を言ってくださったんです。
もう1つは盲導犬や介助犬のマナーコートを作るボランティアグループの記事で、発行後「メンバーが倍増した」と喜んでくださいました。
なんて社会人冥利につきる仕事なんだろうって感動したし、思いを込めればダイレクトに反応があることも知りました。行政広報の大きな力を実感したから、言い訳せずに頑張ろうと覚悟を決めました。
コツコツ成果をだして、信頼を積み上げる
加藤:心がけたことはありますか。
大垣氏:広報誌の改革って、広報だけでできるものじゃないんです。事業担当課の理解も必要だし、まちの人との関係もつくらなくちゃいけない。庁内外にキーマンをみつけて、ネットワークに入れてもらうことを心掛けながら、とにかく小さな改善を地道に繰り返すことから始めました。
文字だけの記事に写真をいれたり、参加者の声を記事にいれたり、少しずつ変えていきました。
加藤:コツコツと小さくても良いから、成果を出すということですね。
大垣氏:そうです。しばらくたったら「最近、広報誌よくなったね」というまちの方々の声が市長や管理職に伝わるようになり、それが庁内からの信頼につながりました。広報コンクールの連続入選も役に立ちました。
あなたのおかげで外に出ることができた
加藤:住民からの声で印象的だったことはありますか。
大垣氏:広報誌で障がい者の就労を特集したとき、福祉事業所が運営するパン屋さんを記事にしたんです。何年か後、別件でそのパン屋さんに行ったら、そこで働いていた方が「広報の人ですか?私は何年も家に引きこもっていたのに、広報誌を読んでこの場を知ったから、外に出ることができたんです。あなたのお陰です」と声をかけてくださって、涙がでました。
戦時中の体験をうかがって記事にしたこともありました。発行後、取材を担当した先輩に「終戦後、何十年も幻聴と幻覚に悩まされていたのに、胸のつかえが取れたのか、初めて朝まで眠れました」と連絡がありました。それだけでも感激なのに、その後、「市のために」と多額の寄付をしてくださったんです。
加藤:それは本当にすごいことですね。
大垣氏:広報誌は単に行政情報を伝えるだけではなく、まちの方々に寄り添い、新しい1歩を踏み出すきっかけを提供できる媒体だと思います。
変化に柔軟に対応してアイデアを出し続ける
加藤:民間企業のノウハウで生かせたものはありましたか?
大垣氏:企画力でしょうか。百貨店って、母の日、父の日、夏休み、敬老の日、クリスマス、バレンタイン・・・というカレンダー行事を、毎年視点を変えてプロモーションするんです。広報誌の企画だけでなく、今担当しているシティプロモーションの事業立案も、PR業務は仕組み化できるものではありません。現状と課題を分析し、柔軟なアイデアを出し続けなければいけないのは、行政でも民間でも一緒だと思います。
▼「地方公務員オンラインサロン」のお申し込みはコチラから
https://camp-fire.jp/projects/view/111482
全国で300名以上が参加。自宅参加OK、月に複数回のウェブセミナーを受けられます
▼「HOLGファンクラブ」のお申し込みはコチラから
https://camp-fire.jp/projects/view/111465
・月額500円から、地方公務員や地方自治体を支援することが可能です
※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 参加者のマインドを変えた熱い勉強会
第2話 自治体同士は学び合い、日本を元気にできる
第3話 組織文化の違いに自信を喪失
第4話 広報の専門性への無理解
第5話 「ラクしたい」から公務員になった
第6話 頑張っても、頑張らんでも一緒やん
第7話 いいまちだと思えるって、幸せなこと