―2017年11月12日に渋谷ヒカリエで開催された「第10回よんなな会」。国家公務員、地方公務員が600人集まる中、元金融庁長官 畑中龍太郎氏が「公務員に期待すること」、そして、「家族のありかた」についてお話された。第5話。
カラ出張という不祥事の報告
畑中氏:そうは言っても人間そうは強くないし悟れない、支えてくれるような考え方はないのかと皆さんお考えだと思います。たくさんあろうかと思いますが、一つだけご参考としてご紹介いたします。それは「自利利他」という4文字。これは大乗仏教に出てくる教えでございますが、これについても私は大変恥かしい思いをしています。20年ほど前に大阪で近畿財務局長になりましたその当日、カラ出張という不祥事の報告がまいりました。
こういう場合は民間も同じですけれども、綱紀粛正の通達とか研修とかマニュアルを作る。しかし、現場を抱えているところは数年経つと風化して、また別の形かもしれないけど不祥事が起こる。どうやったらこうした不祥事を根絶できるか、必死で考えました。そこで思いついたことが2つあります。
霞が関に行くために公務員になったのではない
1つは、財務局の職員というのは、地域に役に立つため、地域に貢献したいために財務局に入ったはずです。霞が関に行くために入ったんではない。そういう初心を取り戻してもらえれば、不祥事などは起きないんじゃないかと思いました。
死に物狂いで頑張っている人の生き様に触れる
もう1つは、従業員や取引先のために命がけで、死に物狂いで頑張っている人の生き様に直接触れれば、不祥事など起こす気にならないんじゃないか。そういうふうに思ったわけです。そこで、地元のそれぞれ「これは!」と思うような中小企業の社長さんところに行って、悩みごとはないか聞くために、部下に「行ってこい」と言いました。その悩みを伺って解決策をみんなで考えて、その結果を社長さんへ報告にいくという運動を始めました。
古手の人は大反対しましたが、若手の人は面白いと言ってくれました。最初は「何で財務局が来たんだ、税務署ならわかるけれど」と言われて、相手にしてもらえませんでした。けれども、めげずに何度も行くと、「実はこういうことで困ってるんだ」ということで悩みを伺って帰って来て、解決策、代替策を考えてご報告に参りました。そうこうしているうちにその社長さんは「良くやってくれた。財務局、結構やるじゃん」ということで感謝をしてくださる。
これは企業に通った人間からすると、地域のために役に立てたという実感を覚えるわけです。また行こうと。自分が役所に入ったときの、地域に貢献したいという初心をもう一度思い出したわけであります。
人生の命題に正面から向き合ってほしい
このように自分のためではなく、人のために頑張っているという意識。あるいは評価される喜び。これが先ほども申しましたように「自利利他」。自分の利益は他人を利することから得られるという考え方であります。大変弱い私たちの支えになってくれる一つの考え方かもしれません。
このように人間の本性というのは弱さにあります。そして、その弱さを客観的に認識することから事は始まるわけでございまして、いかにこの弱さを克服していくか、どうやったら心の安らかさ、しなやかな強靭性を得られるか、自分の心をもう少し高められるか、ということを皆さんお一人おひとりでぜひ考えていっていただきたい。この人生の命題に正面から向き合っていただきたい。そして、人間である以上向き合わざるを得ないということを申し上げておきます。
公務員としての自己規律を片時も忘れないでほしい
最後、5点目の期待、お願いは、公務員としての自己規律を片時も忘れないでほしいということであります。皆さんのお給料は言うまでもなく中小企業や、個人、国民の汗水たらしたお金、税金から賄われています。ですから、世の中の人は公務員というのは特別規律の高い人種、人達であろうと見ております。
ですから、休みの日であってもプライベートで遊んでいる時であっても、公務員としての自己規律というのを片ときも忘れずに、これからも高い自己規律を自分に課していっていただきたいと思います。
※本記事は全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 公務員はサービス業
第2話 『過去』『現在』『未来』から構想力を磨く
第3話 学校や公務員試験の成績は何の参考にもならない
第4話 心の持ちようで『悩み』は『余裕』や『楽しみ』に変わる
第5話 公務員としての自己規律を片時も忘れないでほしい
第6話 かけがえのない時間をくれた妻と子供たち