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【元金融庁長官 畑中龍太郎氏 #4】心の持ちようで『悩み』は『余裕』や『楽しみ』に変わる

畑中龍太郎4

―2017年11月12日に渋谷ヒカリエで開催された「第10回よんなな会」。国家公務員、地方公務員が600人集まる中、元金融庁長官 畑中龍太郎氏が「公務員に期待すること」、そして、「家族のありかた」についてお話された。第4話。

自分の頭で考え抜いてほしい

畑中氏:3つ目のみなさんへの期待、お願いは『自分の頭で考え抜く』ということです。確かにパソコンもスマホもアプリも良いと思いますけども、ぜひご自分の頭で考え抜くということに心がけて、そういう訓練を自らに課していってください。創造力を磨くためにも、そしてどんな困難な環境の中でも、最後に自分が立っていられるかどうかは、自分が考え抜いたものがあるのかどうかということで決まります。

 それが自信になる。自分の支えになります。そのためにも異なる文化や異なる環境に進んで身を置いてほしいと思いますし、優れた人にたくさん出会う、そういう機会をぜひ大切にしていただきたいと思います。

 この異なる文化や環境で働く。外国など一番良いかもしれませんが、まったく予想も期待もしなかったところに、往々にして本当の宝があるものです。もちろん、そういうところは厳しい職場環境でしょうし、ろくでもない上司がいることもあると思います。

 しかし、逆風とか逆境の中にいるときのほうが、実は人は知らず知らずに成長するものでありまして、順風満帆で「さあ何でも来い」というときは実はあまり伸びない。不思議なことだと思います。

真に創造的な発想は 非日常的な環境の中でしか生まれない

 私自身、何度も優れた人に出会いました。お1人だけご紹介します。私は40歳のころ、石川県庁に出向して総務部長をやっておりました。31年知事をやって現職で亡くなられた中西陽一知事にお仕えをいたしました。たくさん教えていただきました。

 あるときこう言われました。「二十一世紀の国際的な文化都市というのはどういうものだと思うかね、畑中君」と。「え?」と私は思いました。そして、「それは車で15分か20分くらい行ったところに鳥が150種以上生息しているところだよ」と言われました。

 おそらくこれは、本当に創造的な発想というのは非日常的な環境の中でしか生まれないということだったと思います。世界中の名だたる企業の本社や主要研究機関の多くは森の中にあります。

 もう一つ忘れられないのは、「二十一世紀の都市計画っていうのはどういうものだと思うかね? 建物を建てるのではなく、賑わいの空間を創る、そういうことだよ。それから高い木をまちに植えることだよ」とおっしゃいました。こうした目から鱗の話をたくさん勉強させていただきました。

心の持ちようで『悩み』は『余裕』や『楽しみ』に変わる

 4点目。そうは言っても生身の人間として、どういう心持ちや覚悟で困難に向かい合ったらいいのだろうかというのが、『自分の弱さを直視する』ということでございます。

 皆さんは人間と動物の違いは何だと思いますか? それは、複雑で様々な悩み、仏教でいえば「煩悩」というものを持っているのが人間、持っていないのが動物。

 悩みは人間だけが持っている素晴らしい資質だと思います。ただ、ある事象が悩みなのか、そうではないのか。また、悩みの深さや程度というのはいったい何が決めるんでしょうか。

 1つ恥ずかしい話をいたします。竹下内閣当時でありますが、89年に消費税の導入をするとき、この経済活動を営むすべてのものに対して3%課税とするか、非課税にするか。そして、そういう森羅万象を条文として表現をするという、前代未聞のビッグチャレンジがございまして、私は総括補佐として呼ばれました。毎日午前2時、3時まで、睡眠時間2、3時間というのが数カ月続きました。部下や後輩はどんどん成果を挙げていくのに、私は何もできない。

 刻々期限が迫ってくるので焦りが昂じてきまして、結論はおろか、どう考えていったらいいのかも思いつかなくなり、夜も寝られなくなりました。毎日、小田急線のホームで電車に飛び込まないように、ホームの鉄柱を握りしめておりました。その時、救ってくれたのは3人の幼い子供たちの寝顔でありました。

 しかし、限界がまいりまして、「いや、もう楽になりたい。飛び込みたい。逃げたい」。そのときふっと、俺が死んだら消費税法案どうなるんだろうか、というささやきが聞こえました。それまでは、これができなかったら政府が倒れるんじゃないか、みたいな思い上がったことを考えておりました。けれども、そのときは、俺が死んでも法案を白紙で出すわけがないから、誰かが自分のかわりに来て適当に書いて、ともかく出すだろう。だから自分がいなくても消費税法案はできる。

 つまり、「この世の中、自分がいなくても回っていくんだ」ということが、一瞬にして私にひらめいたんです。それだったら、「今の実力で最善を尽くせばいいじゃないか」という声が聞こえてきて、一瞬にしてこの数カ月の暗い闇が消え去りました。そうしたら、不思議なことにどんどんいろんな新しいアイデアも出てまいりました。

 今から思うとどういうことだったのか。それは、ただでさえ消費税という難しい課題、実力不相応な課題に立ち向かっていた。それに加えて、「自分は期待されている」、「だからできるはずだ」、「こんなはずじゃない」と、自分で自分に重しをかけて苦しくさせ、あわや転落寸前のところまで行ったということです。たいへんお恥ずかしい話でございます。

 自分の心の持ちようこそが悩みにも、余裕にも、楽しみにもなる。自分の心の持ちようこそが悩みの源泉であり原因だったということを、30代の半ばの頃経験をいたしました。

※本記事は全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

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