どうして公平性を無視するのか
加藤:広報誌を変えていく中で反発はありましたか?
大垣氏:初めての中途採用だったこともあり、警戒されて、組織内の理解と協力を得るのに苦労しました。
今でこそ役職も与えてもらい、採用広報やプロモーション事業など、チャレンジングな取り組みを任せてもらっていますが、最初は行政が多用しがちな「させていただきたいと思います」のようなへりくだり敬語を、「します」に変えるだけで担当課の了承が必要でした。
加藤:(笑)。
大垣氏:私が事例を紹介すると「民間経験があるからできたんだろう」と片付けられがちですが、色んなことがありました。
特定の活動をとりあげたら「どうして公平性を無視するのか」と言われ、今は当たり前になった特集記事を始めたときも「広報誌は雑誌でない。こんな誌面は認めない」と怒られたこともあります。当たり障りのない情報発信は誰にも届かないという考え方を、なかなか受け入れてもらえませんでした。
情報に優先順位をつけるのは広報の仕事
加藤:情報発信の最終的な決定権は広報にないんですか?
大垣氏:決定権があるとは、全く感じませんでした。ただ、何年か働いているうちに、改善実績が新しいルールになり、生産性の低い交渉をする機会も少なくなりました。
加藤:広報に強い権限がないとすると、まとまらないですよね。
大垣氏:みんな「自分の課の情報が一番大事」です。でも、広報は市の情報を客観視し、優先順位を付けて発信するのが仕事。「これはリリースではなく記者会見で発表する」とか、「これは広報誌で2ページ使って丁寧に伝える」とか。逆に、「6月は何とか月間です」みたいな定例的な記事やアリバイ広報は縮小しようとか。
記事を小さくすると嫌がられたけれど、市民生活に直結するか、社会的インパクトがあるか、まちづくりにつながるか・・・など一定の基準をもって順位付けしていたつもりです。
広報は撮影係でもデザイナーでもない
加藤:他の自治体でもあまり決定権がないという傾向があるのでしょうか。
大垣氏:多分、生駒市だけではないと思います。
加藤:それは、広報の専門性が認識されていなかったり、信頼がなかったりするということですか?
大垣氏:そうそう。「各課で決裁された原稿を広報はそのまま載せていればいい」「式典や事業の撮影は広報がして当たり前」みたいな(笑)。広報係長になったとき、記録写真の撮影業務が時間の無駄だと感じ、各課に一眼レフを貸し出して自分たちで撮影してもらうようにした時もかなり嫌がられました。
自治体職員である広報担当が手間をかけるべきなのは、撮影やデザイン業務ではないと思うんです。市の事業には、それぞれ、ターゲットが存在します。そこにどうアプローチするかを、担当課といっしょに考えることこそが広報の仕事です。良い広報誌をつくりたかったのではなく、各課の仕事やまちの方々の活動をSNSの活用やマスメディアへの情報提供も含めた広報面からサポートして、地域を良くしたいと思っていました。
そんな意識を共有して、優秀な後輩たちがいっしょに頑張ってくれました。積み重ねた小さな改善は大きな変化になり、広報への信頼も転職当時とは比較にならないほど高まって、各課から情報発信の方法を相談してもらえる課になりました。
積み重ねた信頼が、チャレンジの後押しに
加藤:手ごたえを感じたことはありますか。
大垣氏:2015年につくった採用ポスターがとても話題になりました。人事課からの依頼は「職員が空を見上げている爽やかなポスターを作って」だったんです。それでは認知獲得につながらないと判断して、広報で勝手にアイドル風のデザインにしました。それを見た当時の副市長(現市長)と人事課長は、「これは広報の提案ですか」と絶句されたと聞いています。でも、否定することなく提案を受け入れ、自分たちの責任で世の中に発信してくださった。積み重ねた信頼があってのゴーサインだったと思います。
加藤:信頼があったからこそ、チャレンジを許してもらえたんですね。
大垣氏:そうなんです。採用ポスターはそれ以降も担当していますが、単に話題になることだけを狙うのではなく、毎年課題を設定し、目的を達成するためのコミュニケーション手段を考え抜いています。「全力で積み重ねてきた仕事は、突き抜けることができるんですね」と後輩が話すのを聞いて、その通りだなと思いました。
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※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 参加者のマインドを変えた熱い勉強会
第2話 自治体同士は学び合い、日本を元気にできる
第3話 組織文化の違いに自信を喪失
第4話 広報の専門性への無理解
第5話 「ラクしたい」から公務員になった
第6話 頑張っても、頑張らんでも一緒やん
第7話 いいまちだと思えるって、幸せなこと