(文=京都市 貞本 建太[保育士])
前回は、森のようちえん どろんこ園を、実際に私と2歳の息子が体験しました。そこでは、自然豊かな環境に身を置き、子どもの熱中することを見守ることは、子どもにとっての大きな学びとなり生きる力を身につけることに繋がることを体験しました。
最終回となる第3回では、森のようちえん どろんこ園を運営する石川麻衣子氏へインタビューした内容をお届けします。
貞本(以下、貞)-森のようちえんとは?
石川代表(以下、石)-北欧で一人のお母さんが森に自分の子を連れて行って遊んでいたことが始まりと言われています。日本での森の幼稚園は既存の形にこだわらず、施設もあったりなかったり、山や里、河など自然の中でのびのびと遊んで過ごす。そういう活動を総称して「森のようちえん」と言います。
貞-どろんこ園の特徴は?
石-多くの森のようちえんが里山の自然豊かなところにあるのに対し、どろんこ園は都市の近くにあります。都会で生活している方にとっては自然に触れられるいい機会になります。駅から近く身近な自然の中でも案外自然はあるということに気づいてもらいたいです。
貞-自然の中で過ごすことで子どもたちの中に育って欲しい力とは何ですか?
石-不便さや不快感というのは今の時代においてはあえて選び取らないと経験できないもの。でも、その中にも“楽しさ”はあります。不便や不快というだけで、シャットアウトしてしまいがちですが、子どもたちはどんなところでも遊びを見つけられるし、楽しめます。どんな状況でも、一旦ありのままを受け入れて、自分で感じ、自分で考え、解決する力や乗り越える力を信じて見守っていきたいです。
貞-石川さんがどろんこ園をはじめようと思ったきっかけは?
石-下の娘が通っていた少人数の園が野外活動も多く、のびのびと過ごせる園だったんですけど、閉園になってしまって。一緒に通わせていた母親友達が「(石川さんが)やってくれるなら通いたい」と言ってくれたのがきっかけですね。もともと保育士はしていたんですけど、そのまま保育士を続けていくのにも少し違和感があったんです。
貞-違和感というのは、具体的にいうと?
石-上の息子は普通に保育園に通っていたんですけど、ちょうど当時、保育サービスの充実が謳われ始めた時期でした。保育士をすると朝早くから遅くまで働くことになり、長時間勤務でうちの家庭自体がうまく回らなかった。もう少しこどもと一緒の時間が必要かなと思いました。
貞-森のようちえんを運営していく上での課題は
石-それは山盛りありますけど(笑)
公的な補助が全くない中で、保護者から頂く保育料だけでやっていくことの厳しさはあります。そして、本当はそういう子どもの育ちを願っていても、100%保護者負担では金銭的な厳しさであきらめる方もいらっしゃいます。スタッフもほとんどボランティアみたいな形で来てくれていて、善意で成り立っているところがありますね。イベントなんかも保護者が手伝ってくれないとなかなか回っていかない。みんなで作っていくという良さでもあるとは思うのですが……
野外での活動なので安全面を考えるとスタッフも手厚く配置し、保育のスキルも必要。研修もしっかりと行わなければならないので、そういった面でも運営費がかかります。
また、広報力も課題。公的な機関だと保育施設の一覧に並ぶんですけど、うちの場合、「森のようちえんってなに?」というところから説明しないといけないんです。
貞-長野県では県が積極的に支援を打ち出していますが、行政に期待することは?*注
石-幼児教育無償化も始まりますが、今のままだと認可外保育の制度に入らなければ補助がないんですけど、補助を受けるためにはその制度の枠組みに入らなければならない。森のようちえんというスタイルも制度の一つとして、選択肢としてもらえるようになればとは思います。
*注 「信州やまほいく認証制度」…県が独自に認証制度を設け、野外保育に重点をおいていることなどを条件に、事業者に補助している。
貞-今後の展望は?
石-子どもが育つのはもちろん。そこに関わる大人が、「自分の人生を歩む」ことを目指しています。私自身も含めて、“自分を認める”という育ちをしていない大人が多い中、子どものありのままを認めるたり、子どもが子どもの人生を歩むことを見守るというのが難しい。まずは大人である自分がどう感じるか、「わたしこれがすき、これ嫌だな、自分はどんな人だな」と自分のことを見つめて、自分を大事にできる。そんな大人がいる場でありたい。そうすることで子どもの人生を、子どものものとして認めていける。ありのままの子の育ちを心から応援していけるんじゃないかなと思っています。
特に保育スタッフは、ある程度(預かっている)子どもを客観視できるけど、親子はなかなかそうはいかない。親はついつい「悲しませたくない」、「失敗させたくない」と子どもに舗装された道路を用意してしまう。そうじゃなくて、子どもにも“ちゃんと失敗する権利”があるんです。
いろんな不安がありながらもスタッフや保護者同士の助け合いの中で、子どもを手放していける、見守っていける。そんな”場”でありたいと思っています。
貞-どろんこ園がそんな育ちの“場”でありたい?
石-そうですね。けれど園で過ごすのは3年間のこと。家庭がそんな場でなければ結局は元に戻ってしまう。お父さん、お母さん自身もこの園でそんな風であれたらと思います。
おわりに
“子どもにちゃんと失敗する権利がある”という言葉が私の心に刺ささり、いつまでも抜けなかったー。私たちは、失敗しないように、転ばぬようにと、手を出し、口を出し、先回りすることで、子どもの未来を切り拓いていく力(生きる力)を奪うことになっていないでしょうか。保育士として、父親として、日々の子どもたちへの関わりを振り返る良い機会となりました。
森のようちえんについては、学べば学ぶほどに「保育」だけの話に留まらない、全ての子育て、そして親の育ちに通じるということを実感しました。森のようちえんは無償化の対象から外れています。ですが、既存の枠組みに収まらないからこそ出来る幼児教育があり、育まれる「生きる力」があります。そしてしっかりと「生きる力」の重要性を認識し、行政を挙げて取り組んでいる先進的な自治体も出てきている中、保育業界に留まらずこれからますます注目されていくであろう「非認知能力」について、その重要性を共有し、子どもたちの「生きる力」を育むことが、社会全体の課題ではないでしょうか。
【どろんこ園代表 石川麻衣子氏】
1975年生まれ。保育士・アドラー心理学ポジショニングリーダー。
千葉県、茨城県、埼玉県を転々とし、京都へ。田舎育ちで、自然の中にいると落ち着く。昔から子どもも動物も虫も好きなのは、自分も含めみんな自然の一部だから。絵本からミステリー小説まで読書が大好き。大人も子どももみんなが自分の人生をHappyに過ごせるように、できることを自分らしく発信していく。
森のようちえん どろんこ園
https://doronkoen.jimdo.com/
第1回 「生きる力」を育む幼児教育
第2回 今、注目の“森のようちえん”ってどんなところ?
ー森のようちえん体験会レポート「その子が何を成し遂げようとしているのか見守る」-
第3回 こどもには“ちゃんと失敗する権利がある”
―“森のようちえん どろんこ園”代表石川麻衣子氏へのインタビューー
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