(文=京都市 貞本 建太[保育士]
さて、前回は、なぜ今、生きる力を育む幼児教育が重要なのかについてお話ししました。今回はいよいよ、私が2歳になる息子と共に、森のようちえん体験会に参加したレポートをお届けします。
“見守る”を心がけるだけで大人も子どもも自由でいられる
京都の北部、「宝が池公園」の川沿いの道を進むと、現れたのは”桜の森”という緑に囲まれた広場。そこに「どろんこ園」と書かれたタペストリーがありました。私が体験したのは、「森のようちえん体験会」。森のようちえんでの過ごし方を体験してもらおうと、数ヶ月ごとに開催されているもので、この日は森のようちえんに興味のある親子およそ10組が参加されていました。
5月26日。この日、保育をリードするのは”ゆうゆう”こと、どろんこ園の園長先生です。親子で輪になって座り、わらべ歌を交えての自己紹介。また、この体験会で感じてほしいどろんこ園が大切にしている考え方、”見守る保育”について、解説していただきました。
「ふだん、私たち大人は、子どもが何かしようとしているとき、何かに夢中になっているとき、考えているとき、ついつい声をかけたり、転ばぬように手を出したりしてしまいますよね。今日は、手や口を思わず出したくなるところをぐっと堪えて、お子さんが何を感じ、どう行動しようとしているのか見守って欲しいと思います。そして、私たち大人も”今自分は何を感じているのか”をじっくりと味わってください」
ゆうゆうを先頭に約10組の親子がゆっくりと森へ入っていきます。
親たちも子どものペースを尊重し、急かすこともなければ何かを禁止・制止することもありません。見守ることを心掛けるだけで、どうしてこんなにも親も子も自由でいられるのでしょうか。子どもたちは皆それぞれのペースで森を進んでいきます。見守る親もまた、子どものペースを尊重してあげられる空気感に包まれてリラックスして付き添います。
危機管理にも表れた「生きる力」
その時、突然、鹿が現れました。鹿は、餌をあげてしまう大人がいるため、最近かなりふもとに出没しているようでした。鹿が興奮する様子を見せたため、ゆうゆうの判断で、これ以上進まずに、道を引き返すことになりました。その判断の素早さ。すぐに最後尾にいた石川代表がゆうゆうに別ルートを提示。
「こっち入って良い?いつもは湿地だけど今日は乾いているから」
これが、毎日森に入っている者、森を熟知している者同士の連携かと感服しました。天候、動植物、毎日として同じ状況というものがない中で、その時の状況に合わせて最適解を見つけ出せる力。ひとつのルート変更にもそんな2人の生きる力が表れていると感じた瞬間でした。
その時の気持ちを受け入れる
子どもたちは倒木の丸太渡りや足元の宝探しに夢中になっていました。その時の子どもの眼差しはとても真剣。「ちくちくボールあった~」とたくさんの実を見つけた息子に「うわぁ、たくさん見つけたね」と子どもの目線に立ち共感してくれる石川代表。
丸太渡りでは、手を出さず、口も出しません。子どもたち自身が自分でいけるかどうかを必死で、考え、判断して、その時の気持ちを受け入れるのです。「こわい」「できない」「やめとこう」それもまた大事な子ども自身の気持ち。つい親は「頑張れ」と声をかけてしまいますが、子どもは目の前の壁を目にし、その時の自分の気持ちをしっかりと受け止めることが大事なのだ、と石川氏は言います。
しばらく森を散策した後は絵本タイム。
「ぞうくんのあめふりさんぽ」と「どうぞのいす」。私も好きな2冊の絵本です。
風で葉が揺れるかすかな音。鳥の鳴き声。素敵な空間。
息子はというと・・・
絵本もそこそこに何かに夢中になっていました。
木の枝に葉っぱを刺す。その顔は真剣そのものです。
何も言わずに見守ってみました。
いくつかの葉っぱを刺した後、小さな枯れ葉ではうまく刺さらないことに気づいた息子はうまく刺さりそうな葉っぱを選んでは刺し…選んでは刺し…。
自分の中で満足できたのか、たくさんの葉っぱを突き刺した枝を見せ「これやっててん」と満面の笑みで報告してくれました。
そして満足したように、絵本に見入っていました。
本来は絵本の時間でしたが、息子にとっては葉っぱを刺すという大切な時間だったのです。「どうすれば刺さるか」、「どんな葉っぱの大きさ、形状が良いか」を真剣に考え、そこで得た気づきに満足したのでしょう。そうした一つひとつのとても小さな、でも息子にとっては大きな気づきや発見が学びとなり、これからの豊な人生を作っていくのだと実感しました。途中、私が声をかけてしまえばそこで集中は途切れてそれ以上の学びはなかったのかもしれないな、と、感慨にふけっているとあっという間に森の散策は終了しました。
その後は、待ちに待った昼食タイム。家から持ってきたおにぎりをあっという間に食べ終える息子。あたたかい味噌汁を入れてもらい、 冷ましながら一気に飲み干しました。「あつかったけど、ふーふーしちゃって、おいちかった」と満足気です。
その後、石川代表から森の見守り保育で育まれる生きる力について、講演いただきました。
森のようちえん どろんこ園で育まれる「生きる力」
石川代表によると、森のようちえんどろんこ園は3つの特徴を備えた保育を実践されているということでした。
① 見守る保育
意図的に大人の考えや考え方を強要せず、その子が持っている感覚や感性を信じて引き出す保育。その子が何を感じ、考え、成し遂げようとしているのかを信じて、待ち、見守る。
② 森という多様性の中で過ごす
多様な自然あふれる森で、その子のありのままの気持ちを受け入れ、どんな感情もありのままに表現することで、あらゆる状況に適応できる力を育む
③ 子ども集団の中で育ち合う
大人が過干渉してしまうのではなく、子ども同士で育ち合う。ありのままの感情を表現し合う中で、助けられ、励まされ、たくさんの優しさをもらい、子どもたちが本来持っている適応力、想像力、思考力で持って困難を乗り越える力(生きる力)を身につける。
実際に体験会においても、我が子が何を成し遂げようとしているのか“見守る”ことを心掛けるだけで、普段の育児よりも格段に気持ちが軽くなり、「今これがしたい」という息子の思いをありのまま受け入れることができました。
そして“見守られる”中で、一つのことを成し遂げた時の息子の表情からは、学ぶことの喜びが大いに伝わってきました。
学び続けることが求められるこれからの人生100年時代において、毎日森のようちえんで過ごす子どもたちは、どんなに幸せなのでしょうか。“ありのままの自分”を、保育者が、森が、仲間が、受け止めてくれる。自然の中で五感をフルに使いながら過ごし、自分の思い通りにいかないこともある中で、試行錯誤を繰り返して、学ぶ喜びを知る。幼児期をここで過ごした子どもたちはきっと生きる力の強い子に育つ。そのことを確信した体験会と講演会でした。
次回は、石川代表に森のようちえんで育つ子どもの力についてインタビューした内容をお送りします。
第1回 「生きる力」を育む幼児教育
第2回 今、注目の“森のようちえん”ってどんなところ?
ー森のようちえん体験会レポート「その子が何を成し遂げようとしているのか見守る」-
第3回 こどもには“ちゃんと失敗する権利がある”
―“森のようちえん どろんこ園”代表石川麻衣子氏へのインタビューー
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