第16回教育旅行シンポジウム(一橋講堂)
[記事提供=旬刊旅行新聞]
昨年末、東京都千代田区の一橋講堂で日本修学旅行協会主催の「教育旅行シンポジウム」が開催された。テーマは「教育旅行と産業観光」。近年の教育旅行は誠に多様化しているが、産業観光を教育旅行の中にどう位置付けるか、またSDGsの視点をどのように盛り込むのかといった点が主議題であった。
会場には教育関係者、教育旅行関連企業、各地の産業観光を担う現場担当者らが駆け付けてくれた。私自身は、産業観光を仕掛けてきた側であり、今日の産業観光の意味と意義といった観点から議論に参加させていただいた。今回は、その教育的効果という視点からの検証でもある。
さて、観光が国の光を観るものだとすれば、近代は産業の時代、国の光はまさに産業ということになる。その産業が視察や観光の対象になったのは、19世紀半ば、1851年にロンドンで開催された万博であろう。世界に先駆けて産業革命を実現した英国、鐵とガラスで覆われたパビリオンは、それ自体が当時の先端材料であり、その光を世界に喧伝した。その150年後、愛知県で開催された「愛・地球博」は、日本が世界に誇る環境技術や産業がテーマであった。この愛・地球博の誘致を契機に、日本の産業観光が、このエリアでスタートしたのも何かの縁であろう。環境という今日のSDGsにつながる重要な契機にもなった博覧会であった。
このころを境に、産業が「観光」行為として認識され始めた。食品や繊維などの身近な産業を中心に、大型バスで現場に訪れる、産業観光の大衆化が進んだ。しかし、その持続性を考えれば、産業観光それ自体が事業的な自立(収益を得る)ことが大切であり、企業は自ら「ご覧いただく工場=ファクトリーパーク」に投資する機会が増えた。さらに個々の企業の枠を超えて地域ぐるみの取り組み(第4世代)として地域ブランディングの動きが加速しているのが近年の大きな特色である。
教育機会としての産業観光への取り組みとしてとくに印象に残るのは、2019年に開催した日本遺産「播但貫く、銀の馬車道・鉱石の道」高校生フォーラムと石垣島の中学生シンポジウムである。
こうした機会を可能とするのは、学生たちの地道な地域学習を支える教育委員会や学校、熱心な先生方の指導、そして地域の協力である。これらの事業は、学生たちが次代の地域産業をどう担うのか、新たな産業創造・産業教育の場でもある。ここに産業観光のもう一つの大きな意義があろう。
(日本観光振興協会総合研究所顧問 丁野 朗)
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