80歳や90歳でもボランティア活動
加藤:ちなみに、ボランティアの方は大体何歳あたりが多いんですか?
田中氏:40歳代、50歳代はほぼいなくて、70歳代、80歳代が中心です。
加藤:高齢のボランティアの方も多くいるんですね。
田中氏:そうなんですよ。筋トレのマシンの使い方を教えてくれるボランティアの多くが80歳代です。中には90歳近くの人ももいますし、驚くのは認知症の方でもボランティアを実践していることです。
加藤:衝撃ですね。
田中氏:衝撃ですよね。私も保健医療職ですが、正直、認知症の方々は支援を受ける側であり、支え手に回るという考えはありませんでした。この話をすると私たちの業界では随分と驚かれます。他にもヘルパーのサービスを使っていた方が卒業されて、今はボランティアスタッフとして活躍されている方もいます。
そういった人たちは自身が支えられていた側でもありましたから、虚弱な方の気持ちがとても理解でき、ピアカウンセリング機能も果たせるため、とても重要な役割を担っていただいています。
要介護認定者もボランティア活動が可能
田中氏:特に印象的だったのは、小脳梗塞でバランス感覚がない要介護2だった方です。その方が筋トレに参加をして3か月を経った時、私は「卒業出来る」と考えたのですが、この教室をともに運営していたチームの専門職の多くが「まだ卒業でけへん」、「卒業させても、またすぐこの教室に戻ってくるよ」と言うんです。
教室に参加することは、心身機能の向上のために役立つものであるのは確かですが、教室でリハビリを受けることが目的になっては、教室に依存していくことにもつながります。そこで、他の形で活動出来ないかと思った時に、ボランティアでの活動が頭に浮かびました。
そこで私が「ボランティアで来てもらえませんか?」と本人に声をかけたら、「やる」と言って、その方のボランティア活動が始まりました。
その方は、自身でできることを考え、役割を作っていくんです。誰よりも早く施設に来て鍵を開け、ポットのお湯を汲む。自分がやれること一つひとつを進んで見つけ、自身の役割に位置づけてボランティアに来てくれる。
平成16年度に実施していたモデル事業時代のことですが、その人が今も介護保険のサービスを使わずに、地域で元気に暮らしているんですよね。今、課内の保健師たちがこうした成功体験を同様につかみ、高齢者の潜在的な可能性に着目して支援を続けてくれています。
他にもアルツハイマー型認知症の方が、大学で学生さんに講義したりと、そういうことが普通に起こっている。今までの常識では考えられなかったですね。日本の認知症施策が遅れているのか、最近ではそうした可能性を本人発信で伝えていくような場も出来てきましたが、どんどん提言や提案していければ、地方から国を変えていけるような気がします。
プログラム参加者からボランティア候補者を探す
加藤:市はどうやってボランティアの方をフォローアップしていますか?
田中氏:関与してもらっているボランティア活動により異なります。一般介護予防事業における体操教室等では、年に何回か育成研修等を実施していますし、理学療法士等の派遣を行うこともあります。
介護予防・生活支援サービス事業において、『ひまわりの集い』等では先進地の視察を研修に組み入れたり、食中毒予防や緊急時の対応等についての研修を行います。
パワーアップPLUS教室では、多少、知識を伝えることもありますけど、多くは特別なことは何もしていません。なぜなら、この教室は、最初は自分たちがプログラムに参加して、卒業してからボランティアの担い手にまわるので、参加者が何をしてもらったら嬉しいのかをわかっているので、特別な研修は不要なのです。
そうした担い手に変わっていけそうな人たちをプログラムに参加している時に事業者が選考し、「地域ケア会議(Ⅰ)」の中で提案してくれ、皆で共有します。参加中から徐々に自分でマシンの設定をしてもらったり、カウントを数えたり、RPE(主観的運動強度)や負荷設定の記録をしてもらうことなどを勧め、自然に役割を身につけてもらう工夫をしてもらっています。そうすると、参加者も意識しないうちに、いつの間にか担い手に回れる素地が出来ているんです。
無償のボランティアにタクシーで駆けつける住民
田中氏:実は、パワーアップPLUS教室では、3ヶ月の利用が基本ですので、卒業後に活動の場をいくつか設定しても、気持ちがトーンダウンしていく人もいるんです。だから、委託事業所やエントリーを調整した地域包括支援センター、家庭訪問をしている本課の保健師たちが、参加者に終了した後の生活について「こうしよう」「ああしよう」と丁寧に話をしてくれています。教室の参加中から「役割を持つことの大切さ」、「活動を続けていく重要性」に理解を求めるプロセスを大切にしているのです。
そうした丁寧さから、自然と喜びを持ちながら、ボランティアに参加してくれるようになっているというのが実情だと思います。中には、タクシーに乗ってボランティアに来る人もいるくらいです。これには、視察に見えた人々も驚きを隠せないリアクションをくれます。
タクシー代を支払ってでも無償のボランティアに来る人がいる事実は何を意味しているか。事業の構築にあたって、これを考慮することが出来た生駒市は、多くの支援者に恵まれてきたのだと実感しています。
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※本インタビューは全9話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 介護予防事業に年間約200人の視察
第2話 市町村の力量を追求される時代
第3話 国が示す類型はあくまで典型例
第4話 有識者を呼ぶだけでは地域の人は動かない
第5話 無償のボランティアにタクシーで駆けつける住民
第6話 ボランティア参加が高齢者の承認欲求を満たす
第7話 ボツになった事業案が目玉事業に変わる
第8話 看護師になりたかった
第9話 市町村は目の前に住民が存在する