ボランティアの活用 市の負担はゼロ
加藤:公文のような企業と自治体が連携するケースは今後も増えていきそうですか?
田中氏:そうですね。介護予防・日常生活支援総合事業として、そういう企業と組んでいく。あと、民間が作るサービスやプログラムを購入するとか、事業を民間にしてもらうとか。これも市が整備するのか、民間のものを市民が自主的に購入していくのか、さまざまなバージョンが考えられると思います。
現在の高齢者は知識も情報も多くあり、自分にとって何が得かをしっかりとお考えになる力を備えている人が多くなったと実感しています。そういう選択肢が広がるような地域にしたいですね。
加藤:生駒市より先に公文と自治体が連携している事例はあったのでしょうか?
田中氏:県内でも何カ所かありました。私たちも今後、認知症の方が増えていくと考えていたので、その対策を考えるため、導入している自治体へ視察に行きました。ただ、ある地域では市民の協力が得られないといって、専門職が送迎を行い、学習療法を支援していたのを見た時に、「私たちがしたいものとは違うな」と感じました。
そこで、生駒市ではボランティアの募集をして、住民に大部分の運営を任せるように工夫しました。教材についても、全額市で負担しているところもありますし、1割負担を市民から徴収しているところもありますが、当時、市で一切お金を負担せず、全額実費負担を求めた市町村は少なかったと記憶しています。だから、今も参加者から毎月2,360円の教材費用を負担して自ら購入してもらい、運営の大半はボランティアが担い、市はトータルの管理と場所を貸すだけです。
ボランティアが無償で手伝ってくれているのに、ボランティアと参加者の人数比率は1対1か1対2で運営出来ています。職員は最初のインテークとして、全体に対して5分程度の脳トレを行った後はボランティアに任せ、うまくいっていない部分がないかと、全体を俯瞰で見渡すかたちでのみ入っています。ボランティア数は多分、西日本一か日本一だと思います。
1999年からボランティアを養成
加藤:ボランティアを増やす、地域ボランティア養成講座というのは、いつ頃立ち上げましたか?
田中氏:地域ボランティア講座は2003年ですね。その前身として、介護保険制度が始まる前の1999年に、介護予防のボランティア養成講座というのを行いました。今でこそ、どこの自治体もやっていますが、当時はそうした介護予防のボランティア養成講座等はほとんどなかったと思います。
今でも住民の方が懐かしく言ってくれるんですけど、当時、介護予防という言葉もなかった中、わくわく教室(機能訓練教室)という介護予防教室のボランティアを養成したことを思い出します。
有識者を呼ぶだけでは地域の人は動かない
田中氏:今でこそ互助とか強調して言われるようになりましたが、地域ボランティア養成講座が始まった2003年の時は手探りだったので、最初は、有名な弁護士さんや大学の先生など、多角的な知識を高めるような講師ばかりを呼んだんです。ただ、そうすると、知識を高めたい人は集まってはくれるのですが、「地域のために何かしたい。何かしなければ」という想いに繋がりにくいと感じ始めました。
そこで、生駒市の高齢者福祉に関しては、市職員や地域住民の力を取り入れ、実情をしっかり伝える講座に組み替えていったことが、地域力の向上につながっていると思います。この講座は形を変えながらしっかりと根付いて、いまだに継続しています。
他にも、ボランティアOBたちが『地域ねっとの集い』というものを企画して、今も活動しているボランティアのリーダーが集まる会をこの卒業生たちが自主的に運営し、実践してくれています。
認定を取り下げてでもプログラムに参加したい
加藤:生駒市のボランティア人数は、どのくらいいらっしゃるんですか?
田中氏:私たちの部署で展開している教室のボランティアは平成28年度で延べ3,800人に上ります。たとえば、閉じこもりがちな高齢者の生活意欲の向上のため、レクリエーションや手作りの食事を提供する「ひまわりの集い」というプログラムがあります。これには25人ぐらいの要支援者等が参加しますが、ボランティアとして10人ぐらいが来てくれています。
この事業は介護予防・生活支援サービス事業でいう多様なサービスのうち、通所型サービスBという事業になりますが、従前なら、社会参加の場としてデイサービスに通っていただろう要支援1・2の人たちを、生駒市健康づくり推進員連絡協議会という市民ボランティアが対応してくれ、ミニデイサービスのような事業を運営してくれています。
この教室に参加している人がデイサービスを利用していたと試算すると、この事業だけでも年間、何千万と費用が縮減されていることがわかります。しかも、参加する人も招く人もお互いがすごく生き生きとしています。中には要介護認定の更新において要介護が出てしまうくらい虚弱な方もいますが、この事業は要支援認定者等でないと参加できないことから、「要介護認定を取り下げて、ひまわりの集いに通いたい」という方もいらっしゃいます。
昨年は数回雪が降りましたが、送迎のないこの事業に、雪の降っている状況で虚弱な高齢者の方々が休まずに参加される姿を見て、市民が市民を支えるこの仕組みの強さに感動しました。参加者の最高年齢は100歳という、嬉しい知らせも届いています。
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※本インタビューは全9話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 介護予防事業に年間約200人の視察
第2話 市町村の力量を追求される時代
第3話 国が示す類型はあくまで典型例
第4話 有識者を呼ぶだけでは地域の人は動かない
第5話 無償のボランティアにタクシーで駆けつける住民
第6話 ボランティア参加が高齢者の承認欲求を満たす
第7話 ボツになった事業案が目玉事業に変わる
第8話 看護師になりたかった
第9話 市町村は目の前に住民が存在する