主張・意見

【マネックスグループ・松本社長インタビュー】多様性が生み出す一歩先の競争戦略を!

マネックスグループ・松本大社長

(記事提供=METI Journal )

「ダイバーシティは私にとってあまりに普通のこと」

 日本でのダイバーシティは、いまだ女性活用など限定的な取り組みという受け止め方が根強い。日本経済が持続的成長を目指すうえで、多様な人材の能力を最大限に発揮させることが不可欠だ。個々の企業でも働き方改革とは経営改革と同義語で、このままでは世界で“雇い負け”の恐れもある。「2.0」の世界からイノベーションを生み出すヒントを紹介する。第1回目は、マネックスグループ創業者で社長の松本大さんのインタビュー。

少年時代に育まれた個性尊重

 マネックスグループ社長の松本大さん。インターネット黎明(れいめい)期にオンライン証券という、新たなビジネスモデルを生み出した原点は、人と違うことが「個性」と尊重された少年時代に育まれたという。多様性を生かした価値創造力で競い合うこれからの日本-。同質であることに長らく重きがおかれてきた社会や企業はどう変わっていくべきか。

 -マネックス証券を設立されたのは1999年。今でこそフィンテックをはじめ、あらゆる世界でITとの融合が叫ばれていますが、インターネットの常時接続が当たり前でなかったような時代に外資系金融機関でのキャリアを捨ててまで起業するには勇気が必要だったのでは。

 「いや、僕はもともと人と同じであることに重きを置いていないんですよ。いつ、何をするかは自らの責任で決めること。さまざまな情勢を踏まえ、起業のチャンスだったということ」

 -「人と同じでなくてもいい」。まさに個性、多様性ですよね。そう考えるようになった原点はどこにあるのでしょう。

 「父の存在が大きかった。昭和一桁世代の東京生まれ、東京育ち。東京大空襲を経験している。だから全体主義とか主体的な考えがないまま動くことが大嫌い。今も鮮明に覚えているのは小学校に上がる前、何かの理由で叱られた際に『だって先生がいいって言った』と反論したら烈火のごとく怒り出した。『お前は教師が人を殺せと言ったら殺すのか』と。人と同じかどうかではなく、物事の善しあしは自分で判断しなさいとたたき込まれた」

「おやじの存在が大きかった」(松本社長)

「おやじの存在が大きかった」(松本社長)

問題は日本特有の年功序列制度

 -個性を尊重するとしながらも、教育現場や組織の中にはいまだ「出る杭は打たれる」的な発想が根強いですよね。

 「僕はかなり、やんちゃな子どもだった。小学2年生で退学になっているし。でも転校先の小学校の先生はそんな僕をずいぶん守ってくれた。開成中学・高校時代の先生も、人に迷惑さえかけなければ個性を尊重してくれた。いが栗を無理やり、袋に入れようとすると袋を突き破って穴が開いてしまうけれど、ミカンなんかが入っているネットなら、トゲは飛び出したとしても何とか収まるじゃないですか。開成ってそんな学校だった。僕自身がありのままで、学校や社会に受け入れられてきたことへの感謝の念があるので、多様であることは当然という感覚なんですよ」

 -多様な属性の違いを生かし付加価値を生み続けることで企業を強くする-。それがダイバーシティ経営と考えられています。日本は目指す世界に近付いていますか。

 「これからでしょう。阻む壁は多々あるが、その中でも問題だと思うのは日本特有の年功序列制度。中央省庁は最たるものでしょう(笑)。誰しも生まれる年は選べないのに、入省年次でキャリアが決められるなんて、アンフェアだと思いませんか。出身校の方がまだ自分の努力が反映される。社会を変えるきかっけという意味では、例えば課長補佐以上は年次にとらわれず抜擢人事を行うような思い切った改革も必要では。『隗よりより始めよ』でね」

企業や社会を強くする競争戦略

 -同質的な組織に比べ、多様性を重視した組織はイノベーション創出やリスク管理能力の向上など経営上の効果が期待されています。どんな点に注目していますか。

 「多様な金融商品を組み合わせた方が長期的には優れた投資効果が得られる『モダンポートフォリオ』の考え方を一概に組織論にあてはめることはできないが、発想そのものは重要だと考えている。日本におけるダイバーシティの議論は、女性を中心に特定の属性を考慮したルール整備の色彩が強かった。『活用』や『配慮』といった『上から目線』ではなく、企業や社会を強くする、競争戦略であると捉えた方が進めやすいし、共感も得やすいと感じている」

「多様であることは当然という感覚なんですよ」(松本社長)

「多様であることは当然という感覚なんですよ」(松本社長)

 -一方で、単に多様な個性を持ち寄るだけでは力にならない。ダイバーシティは「魔法のつえ」ではないのでは。

 「いや、ちょっとだけ『魔法のつえ』かもしれない。金融工学の世界では、単一の資産でも、多様な資産でもパフォーマンスといった出力そのものは変わらないが、リスクは下がる。人材戦略に当てはめてみても、経営リスクを軽減する効果は期待できる。もちろん、それぞれが異なる価値観を持っていることが前提だが、多様な発想は事業が特定分野や市場に偏重したり、経営が暴走する抑止力となり得る。サステイナブル(持続可能)な経営を実現する効果は見いだせるのではないだろうか」

 -経営者として心がけていることはありますか。

 「ダイバーシティは私にとってはあまりに普通のことで特段、意識していることはない。あえて言えば、社員の個性をそいでしまわない組織風土づくりかな。いくらトップがダイバーシティ経営と旗を振っても、その思いが現場にきちんと浸透しなければ『角を矯めて牛を殺す』だからね。話は若干、それるが、コーポレートガバナンス(企業統治)の議論でも同じような現象がみられるように感じる。経営者はもっと株主と対話したいと思っているのに、リスクを恐れる社内外の力学が働き、その思いを阻んでしまう。それでは日本企業の『稼ぐ力』は向上しませんよ」

原動力は緊密なコミュニケーション

 -変化のスピードが速く従来の常識さえ覆されるような時代に、自社の強みを維持、高めていくには絶え間ない変革が必要ですね。

 「実は7月1日付の人事異動で、マネックス証券の人事部長に30代社員を抜擢した。当社は中途採用が多く、社員の平均年齢は40才前後だけれども、思い切って新卒採用2期生の若手を起用した」

 -組織の硬直化のようなものを懸念しているのですか。

 「いや、硬直化というよりも、むしろ若い人の個性や価値観を評価できなくなることを危惧している。企業風土改革もイノベーションも原動力となるのは緊密なコミュニケーションだが、世代が離れるにつれ、コミュニケーションロスが大きくなってくることを実感している」

 「世代の問題は社会の変化や潜在的なニーズを捉えるうえでも重要で当然、ビジネスにも直結する。僕らは毎年一つ年を取るけれど、少子高齢化に伴って、社会全体の単純平均年齢は毎年0・2才ぐらいしか上昇しない。何も策を講じなければ年の差は広がってしまうからね。そういう意味でも若手世代の活躍には大いに期待している」 

「世代の問題はビジネスにも直結する」(松本社長)

「世代の問題はビジネスにも直結する」(松本社長)

【略歴】
松本 大(まつもと・おおき)1963年(昭38)埼玉県生まれ。87年東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズを経て、ゴールドマン・サックスに勤務。94年、当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。99年、ソニーと共同出資でマネックス証券を設立。04年にマネックスグループ株式会社を設立し、以来CEO。東京証券取引所のほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカード、ユーザベースの社外取締役を務める。

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【特集:ダイバーシティ2.0】

【1】新しいダイバーシティの形 インタビュー マネックスグループ 松本大社長
【2】多様性がイノベーションを創出している!大企業の個人、組織の横連携によるオープンイノベーション事例
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【10】ダイバーシティ2.0こそ経済成長の原動力 OECD東京センター村上所長✕経産省経済社会政策室藤澤室長

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