主張・意見

地域にはダイバーシティが普通にある

お互いの強みを生かすことがコミュニティを強くする(左手前が高橋さん、右が平良木さん)

お互いの強みを生かすことがコミュニティを強くする(左手前が高橋さん、右が平良木さん)

(記事提供=METI Journal )

秋田県横手市と島根県雲南市の事例から

 地域にはダイバーシティが普通にある。山菜の達人もいれば、川飛び込みの名人もいる。地域の歴史に詳しい人もいれば、地域に伝わる知恵をたくさん持っている人もいる。こういったものをつないでいくこと、そして自分たちの持っているものに注目して、新しいものを生み出していくこと、それこそが地域におけるダイバーシティ経営のカタチかもしれない。

クッキングアップルの郷

 秋田県横手市が、調理加工用のりんごの産地「クッキングアップルの郷」として盛り上がっている。果樹農家である平良木亨さんと、デリカテッセン「紅玉」の高橋基さんが、出会ったのがきっかけだ。平良木さんが育てていた、りんごの果肉が赤い新品種「紅の夢」を、アップルパイなどに調理すると、これまでになく濃厚な風味を出すことができた。調理用では、酸味が強い「紅玉りんご」が最適とされるが、「ふじ」や「つがる」など甘みを増した品種が主流となり、栽培量は減る一方。最近では手に入りにくくなっていた。

弘前大学が生み出した新品種「紅の夢」

弘前大学が生み出した新品種「紅の夢」

 紅の夢は、弘前大学のリンゴの育種プロジェクトで誕生した新品種。皮だけでなく果肉まで赤い。2010年に品種登録され、平良木さんは弘前大学の先生から苗を譲り受ける形で栽培を始めていた。もともと国内では生食ができる甘いりんごが高値で取引されるため、調理加工に向く酸味の強いリンゴをつくる農家は大きく減少。一方で関東・関西圏を中心に、パティスリーやレストラン、製菓工場で使用される調理加工用リンゴの需要はまだまだ根強い。

お母さんも集まる

 新品種を待ち望んでいた調理用市場に、新しいリンゴをどう売り込むか。そこで加わったのが、地元のさまざまな人々。まず、調理が得意なお母さんたちが集まって結成した加工研究会。関西の有名パティスリーのオーダーレシピをもとに、得意の料理で、「紅の夢」の持つきれいな色味を出すことにも成功した。

「紅の夢」は調理すると濃厚な風味

「紅の夢」は調理すると濃厚な風味

 さらに関東・関西圏への販路をつなぐコーディネーターや、製品のレシピを考案するシェフ、包装資材商社らがつながり、加工用のりんごを1.5次加工し、出荷している。旬の味を安定的に客先に届ける、用途に応じた加工を行う仕組みが、地域のそれぞれの人たちが、さまざまな関わり方で、自分たちの持っている専門性とつながりを活かすことで実現したのだ。

地域で活躍する人材を育成

 島根県雲南市は、地域で活躍する社会起業家を育てようと、2011年から幸雲南塾をスタートした。10代の大学生から主婦、50代まで多様な人々がこれまでに参加。卒業生は80人を超える。カフェをオープンした人、地元ガイドブックを発行した人、地元の職人を訪れるツアー「名工探訪」を企画する人など、さまざまな新しい試みが卒業生によって始まっている。若手実践家の育成をする中間支援組織であるNPO法人「おっちラボ」や、中山間地域での訪問看護事業を行う会社 「コミュニティケア」も、幸雲南塾がきっかけとなり、卒業生らが設立。5期生(2015年度)までの卒業生の成果は、自己雇用も含め51人の新たな雇用と、2億8000万円の経済波及効果(総売上では1億7000万円)という。

幸雲南塾の卒業生らが設立したNPO法人「おっちラボ」

幸雲南塾の卒業生らが設立したNPO法人「おっちラボ」

 幸雲南塾では、市内外を問わず「地元で何か行動を起こしたい」という志を持った、さまざまな年代の人が集まる。ただそこで狙うのは、それぞれの起業プランをサポートするというよりも、一人ひとりが胸に秘めた目標を参加者全員で共有し、お互いに刺激しながら新しい化学反応を起こすということ。参加者は自らの計画をマイプランとしてまとめ、定期的に皆でシェアをする。また、お互いの興味や、できることの自己紹介に力を入れ、そこから生まれる「つながり」を重視する。それが、地域のさまざまな課題を解決することにつながっている。

一人ひとりがダイバーシティ

 ダイバーシティ経営では、大企業による女性や外国人の登用ばかりが注目されがちだ。さまざまな背景をもつ人が集まればイノベーションの創造が加速し、外国人が加われば、グローバル市場での競争力が強化される。ただ、形式的に女性と外国人の登用を行なったところで、うまくいくとは限らない。むしろ想定したロール(役割)に当てはめようとすることで、かえって多様性を失ってしまうこともあるだろう。

 むしろ大切なのは、自分たちの周りにあるものに目を向け、コミュニケーションを通して、お互いの強みを引き出し合うことだろう。このようなことが地域で実現すれば、そのコミュニティは豊かになっていく。そしてグローバルな市場での競争力も高まっていく。横手市や雲南市の事例もそのようなものだ。

幸雲南塾6期生の卒業式

幸雲南塾6期生の卒業式

 結局、ダイバーシティとは性別や国籍という外面的なことばかりではなく、それぞれの人が持っているものを、いかに活かすのかということだ。そのときに必要となってくるのは、「混ぜる」発想ではなく、「和える」発想。素材を、元の形がわからないようにぐちゃぐちゃに「混ぜて」してしまうのではなく、複数の素材それぞれの持ち味を残したまま、活かし合える、尊重し合える「和える」形を見つけて行くことが必要だ。

 まずは隣の人に、最近気になっていること、好きなこと、得意なことを聞いてみよう。ダイバーシティは一人ひとりの中にある。

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