(記事提供=総務省消防庁 広報誌『消防の動き』 )
1 はじめに
渋川広域消防本部は、1市1町1村を管轄し、1署4分署を158名(条例定数165名)の職員が2交替制勤務で消防業務を遂行しています。
職員数や車両台数、水利の設置状況から見ても決して消防力が充実しているとは言えません。
当消防本部では、そうした地域性や、消防力等の実状を踏まえ、過去に発生したいくつかの一般建物火災での経験をきっかけに、管内で件数の多い「木造2階建て一般住宅」に的を絞り、「消防力の整備指針」や「消防水利の基準」、「消防に関する都市等級要綱」などを根拠とし、多くの検証や訓練、試行錯誤を重ね、独自の火災防ぎょ戦術を考案・確立しました。
少人数を余儀なくされる消防力や、次の災害出動への対応を考慮した少ない車両、少ない資機材での防ぎょ展開を行う無駄を省いた「現場での効率化」を図るため、場読みと呼ばれる戦術の組み方をはじめ、オリジナルのホースバッグを使用したホース延長などが火災の延焼・拡大を防ぐための早期放水を実現しています。
2 警防救助部会・救急部会の発足
早期の放水開始をもたらす火災防ぎょ戦術が確立された今、今後の課題として、様々な活動面における新たなる「渋消式」の構築に向けた取り組みが進み始めました。
社会情勢の変化により、消防においても新たな知識や技術の普及や資機材も進化しており、消防本部によって管轄する地域を取り巻く環境や保有する消防力も様々です。
そのような背景から、当消防本部管内の地域性や消防力に合わせた各種活動基準の再考が必要であると考えました。
火災防ぎょにおいては、早期放水準備後の救助活動や消火要領に目を向け、またそういった一連の活動を効果的にするための状況評価の方法も迅速なホース延長と並行して行うために新たな戦術を試行しています。
さらには、火災防ぎょに限らず救助活動、救急活動においても当消防本部の実情に合った活動基準を構築することで、あらゆる災害対応能力を向上させることができます。
そこで当消防本部では、新たな知識や技術のフィードバック、各種活動基準の作成、以前より実施している活動査閲の検討などを目的とし、「警防救助部会」、「救急部会」を発足させました。
部会には各所属から部会員を選出し、月1回のペースで部会を開催しています。
上述したように、現代ではインターネットやSNSの普及等により多くの情報が簡単に手に入るようになりました。すぐに知りたい情報が入手できるといったメリットがある一方で、情報が多すぎるために混乱を招く危険性もあります。消防においても、様々な研修や勉強会が各地で開催されており、参加した職員は新しい知識を手に入れることができます。しかし、その知識をどういった形で組織にフィードバックするのか。また、受け入れられるのかといった不安もあります。そうした課題を解消するために部会を開催し、職員が学んだ知識や技術をフィードバックする場とし、出席した部会員が各所属に持ち帰り、それを周知し、さらに検討していくという形を取っています。
このような形を取ることによって、新しい情報へのレスポンスが良くなり、当消防本部に見合った形で取り入れることによって混乱を防ぎ、さらに今までの技法を見直すことができ、再確認やアップデート、ブラッシュアップに繋がっています。
3 各種活動査閲の実施
当消防本部では、以前から消防長をはじめとする所属長を査閲者とし、「警防活動査閲」、「救急活動査閲」を実施しています。
これは1署4分署ある全所属を対象とし、警防活動査閲は2ヶ月に1回、火災や救助、救急PAなどあらゆる事案の想定内容を決め、対象所属による訓練を実施するものです。救急活動査閲は年1回とし、指導救急救命士がシナリオ作成と評価を行い、救急隊の質の向上や救急医療体制の強化に繋げています。
活動は全て動画撮影をし、全署共通のサーバーをとおして供覧し、各所属で検討を行うとともに、個人の意見を書き込みをすることができるチャット式のファイルを作成し、自由にその活動に対する検討事項などを書き込みができるシステムを取っています。
このシステムを取り入れることで、誰もが自由に発言することができ、ありがちな検討を解消し、細かい気づきを発見することもできます。批判や厳しい意見が出ることもありますが、それらが糧となり、更なる成長意欲の増進に繋がり、効果が上がると考えています。これら各所属での検討、チャット式による書き込みを基に、部会にて再度検討が行われ、当消防本部としての方向性をまとめ、修正しています。
4 おわりに
現在の取組をベースとし、火災防ぎょ戦術のみならず、渋川広域消防本部の活動基準としてあらゆる「渋消式」の確立を目指しています。
管轄内の実情に合わせた活動基準が、限られた消防力や予算の中における効率的・効果的な業務の遂行に繋がることと日々考えており、失敗を恐れず、新たな取組をしていくことで、職員の意識が変わり、組織がより良いものとなるのではないでしょうか。
今後も地域住民の安心・安全のため、日々の業務に励んでいきたいと思っています。
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