人と人ではなく、人と自然を繋げたい
加藤:福薗さんはもともと自然に興味があったのでしょうか。
福薗氏:小さいころから環境問題に興味があったので、高校生のとき長崎大学に環境科学部ができたと聞いてそこに行こうと決めました。そのうち体験を通して学ぶ環境教育に興味がでてきたので、いろいろ探して静岡の「ホールアース自然学校」にアルバイトに行ったんです。ちなみにその仕事のご縁で、今の「諫早市こどもの城」の館長と出会うことになります。館長は当時「国立諫早青少年自然の家」の課長で、この出会いが縁となり、私もともに自然の家で働かせていただくことになりました。
加藤:自然の家というのは、林間学校で行くような施設ですか。
福薗氏:みたいな感じですね。学校単位などでそういった自然の中に出かけて、宿泊を伴いながらいろんな野外体験ができる施設です。それはそれで良いところなんですけども、やるうちに気がついたのは私がやりたいのは「人と自然を近づけること」なんですね。
自然の家って自然を手段としながらも、結局は「人と自然」を近づけるのではなく、自然という舞台を利用して「人と人」を近づける場所なんだなぁと思いました。協力とかコミュニケーションがゴールになってしまうので、登山をしていてもチームでどうやってここを乗り越えるかとか、そういう人の成長を重視するものになるんですよね。
私としては目の前にこんなにいっぱい命があるのに、みんなこの命を素通りしてただ目の前の人とだけ対峙するっていうのはどうしてももったいないと思ってしまって。やっていることは素晴らしいけども、それはそれをやりたいって思う人がやったほうが絶対うまくいくから自分がやるべきじゃないと思いました。
水族館での暗中模索時代
加藤:それで「諫早市こどもの城」に転職されたんですか。
福薗氏:実はその前に「長崎ペンギン水族館」に勤めていました。転職、と言っても、自然の家は非正規雇用で期限が決まっていたので、転職せざるを得なかったのですが、できるだけ私が目指す方向で仕事を探し、水族館にたどり着きました。
飼育員ではなく、長崎の里山を再現した広場の担当です。「里山」は、人と自然が共存する日本的自然の原風景で、とても興味がありましたし、日本ならではの自然や暮らしを守りたいし伝えたい、という思いを持っていたので、私にピッタリの部署だったんです。
自然観察会や田植え、収穫、もちつきなどの活動を通して、自然に触れる楽しさや、生命のつながりをダイレクトに人に伝えることができるので、「やっとたどり着いた、天職だ!」と思って働いていました。
そこで一年ぐらい働いた頃にこどもの城のオープンがあり、館長から「また一緒に働かないか」とお声がけいただいたんですけど、水族館の仕事が好きでしたし、さすがに1年ではやり残したことが多すぎて辞められないと思い、その時は断ったんですね。
ただ実情としては水族館で働いているときは一人ぼっちの部署だったので誰にも頼れないし、里山の植物や生き物を専門に学んだ経験があるわけでも無いので、全てが独学、毎日一人で暗中模索しているような感じで。「私って本当に役に立っているのかな」みたいな、そこが見えなかったんですね。自分もちょっと弱かったんですけども。
そして、水族館での2年目が終わる頃、また館長から「一緒に働こう」と声がかかりました。非常に、悩みました。声をかけていただくのは非常にありがたいことなんですけど、水族館は、「天職だ」と思っていたくらいなので、「辞めたい」とは思っていませんでした。でも、一人ぼっち感が強すぎて、「続ける」自信が無かったんです。今、辞めたくない。でも、ずっと続ける自信が無い。しかも、非正規雇用で、先が見えない。たとえ一人ぼっちでも、「今」だけの気持ちにこだわるのが、果たして正解なのか…。自分の思いを信じ切ることができず、かなり追い詰められていました。
一方で、こどもの城に行けば、「仲間」がいる。「チーム」で仕事ができる。水族館みたいに「一人ぼっち」という感覚は無くなるかな、と。ただ、私がやりたい「ダイレクトに自然そのものを伝える」ことはできなくなるんじゃないかな、というのが一番のネックでした。
水族館では、「自然」が主役。でもきっと、こどもの城では「人」が主役。「自然」は「単なる手段」になってしまうんだろうなぁ、またそれで悩むんだろうなぁ、というのが目に見えていましたから。「一人ぼっちでも、好きな仕事」をとるのか、「苦手な仕事でも、チーム」をとるのか、追い詰められていたあの時の私には、選びようがなかったんです。
かなり心が揺れて、「辞める」「辞めない」でいろんな人を巻き込んで迷惑をかけてしまいましたが、最終的に、館長の笑顔と勢いに負けて、こどもの城に行くことになりました。私にとって館長は「世界一尊敬する上司」だったので、館長があんなに喜んでくれると、もう、負けてしまいますよね。
ほとんど鬱状態からのスタート
福薗氏:それで今度は水族館に「辞めます」っていうのを全員に言う形になったら、そのとき初めて、周りのみんなが「ふくちゃんが辞めたら困る」って言ってくれるんです。それまであんまり関わりのなかった人たちも、みんながそういう風に言ってくれて。
私はいつも一人ぼっちで、必死に立っているような気持ちで毎日仕事をしていたんです。だけど、みんなは私のことを見ていてくれたとこの時に分かったんです。「なんだ、一人ぼっちじゃなかったんだなぁ」って。これをもっと早くに知れていたら頑張れたんですけど、もう今さら「こどもの城には行きません」とは言えなくて、ものすごく後ろ髪を引かれたままこどもの城で働き始めたんです。
加藤:こどもの城に転職したらどういう変化がありましたか?
福薗氏:「辞めたくないのに辞めてしまった」という自己嫌悪が大きすぎて、ほとんど鬱状態でした。水族館、こどもの城、自分自身、その全てに対して「裏切り」の状態でしたから、もう体もボロボロ、心もボロボロみたいな。
頑張ろうと思っても、思うように頑張れない悔しさと、自分らしさを発揮できないもどかしさに、日々苦しんでいました。そんな精神状態で人と接することがとても苦しくて、言葉がうまく話せなくなって、「おはよう」すら言うのにものすごく大変で、目の前に人が来てる、近づいて、来たらお腹からおはようって言葉を出すんだよ…っていうのを脳から一生懸命指令出しながら、「おはよう」っていうのをやっと言うみたいな。
そんなんだから、しばらくうまいこと歯車が回らなかったですね。いまでこそ「こどもの城」でいろいろ挑戦させてもらっていますが、なんかもう当時はもがいてもどうにもならなくて、だったらもうもがくこともやめよう、何かが変わるまで「貝」になろうと、すっかり自分を閉ざしてしまいました。
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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 ハードには頼らない。自然を通じて生きる力を身につける施設
第2話 「ほとんど鬱状態」からのスタート。人と自然を繋げたい