公務員の看板を利用する
加藤:中軽米さんはどうして自治体職員になろうと思ったのですか。
中軽米氏:これ割と誰も信じてくれない話なんですけど(笑)、もともとは大学に残って歴史研究者になりたかったんです。親が起業して大学院に進めなかったので帰郷したんですね。じゃあ何をしようと考えたとき、「公務員なら地方でも面白いことができるんじゃないか」と安易に考えてこの道に進みました。
加藤:なぜ公務員なら面白いことができると思ったんですか?
中軽米氏:公務員の看板を利用したら、面白いことができるんじゃないかなと(笑)。ただ現実はそう甘くなくて、組織を動かすことはそれなりに難易度が高いと後から思い知らされました。
だから組織のやりたいことと、自分のやりたいことをどちらも実現させるにはどうしたら良いか、という点についていつも考えています。自分がやりたいことをただ提案しても、組織のミッションと合致してなければ、もちろんできません。なので自治体として取り組む意義ということの文脈を大事にして、双方を両立させながら実現させていく。
加藤:そこはうまく組織を使っているんですね。でも、どうしても面白くない仕事が来たときはどうしますか。
中軽米氏:面白くなるようにします。公民館のスリム化をする仕事を担当したときはまさにそんな感じでした。
自治のプラットホーム
中軽米氏:合併のときに潤沢にいた人材を「公民館長」みたいなポストで配置していたんですが、職員定数を削減したので、そういう人たちを引き上げて組織をスリム化しようという構想が持ち上がりました。そうなると公民館自体を減らせという流れになるんですけど、それだけじゃ絶対面白くないと思って。
そこで「地域が自治の力を取り戻すためのプラットホームとしてのコミュニティセンター」になるよう、制度全体をデザインしたんです。
加藤:具体的にはどんな仕組みを作ったんですか。
中軽米氏:もともと地域には小学校区単位くらいで自治会の連合体のような組織があって、そこに公民館の運営をお願いする案からスタートしたんですね。
ただそれを行政側でコントロールしても単なる下請け仕事になってしまって自治の力は取り戻せないから、運営の予算と一緒に自由裁量権をお渡ししたんです。いままでやってきた生涯学習の講座なんかも自分たちで考えられるし、それをまわす人も自分たちで採用できる。
加藤:要するに自分でお金の使い道を企画できるようにしたんですね。
中軽米氏:はい。予算はこのぐらいで、余ったら返していただく仕組みにしたら、みんな頑張って自ら企画をするようになったんです。
これだけだと、単なる委託事業になってしまうかもしれませんがプラスアルファで、地域が自治活動に使える使途をめちゃくちゃ自由にした一括交付金の制度をつくったんです。
もともと類似の補助制度があったんですが、事務が煩雑で使いづらかったので、利用する組織や事業が固定化していました。そこでこちらの交付金も年度初めに全額渡して、1円でも余ったら返金だよ、という仕組みにしたんです。そうやって目に見える形で予算をまず提示することで、自分たちが必要と思う自治活動を自ら動いて考えるという形にしたんです。そしてこの活動を企画・支援するのも、コミュニティセンターの役割にしました。
公民館の事務局でありながら、地域自治の事務局でもある。ここを兼ねさせることで、一番面白い自治のプラットホームになりそうだな、と考えたんです。
年度初めに計画もない段階で全額交付するのはどうなのか、といった議論も内部ではありましたが、自治体側でも本音では国や県にもっと利用しやすい制度にしてくれたら、この補助金で事業ができるのに、とか思ってるじゃないですか。
使うためのハードルを下げることで、ちょっとした思いつきであったり、緊急性が高い活動にも対応できる。制度をちょっと変えるだけで地域の活動が盛んになるなら、そっちの方が良いに決まってますよね。
加藤:それで自治体職員の人件費が減り、住民自治の力を育むという一石二鳥の仕組みになったんですね。すごい。
中軽米氏:コスト削減が主たる目的ではありませんでした。ただ、公民館は12個あったので、トータルのコストはめちゃくちゃ下がりました。恐らくですが、累計では億単位で削減できているんじゃないかなと思います。
そもそも、地域が自治の力を失くしたのって、役所がよかれと思って「地域でやるのは大変でしょうから、こちらでやってあげますよ」と、地域から自治活動を取り上げてきたせいなんですよ。ところが人口減で役所の予算も人員も少なくなってきたら「役所に余力なくなったので後は自力でやってください」なんて、無理に決まってるじゃないですか。だから自治の力を復活させるための仕組み、「自治のプラットホーム」が重要なんです。なにより、そうした方が面白いじゃないですか。
努力は好きに勝てない
加藤:中軽米さんは「公務員なら面白いことができる」と感じて入庁しましたが、いまでもそう思いますか。
中軽米氏:現に面白いことしかやっていませんからね。面白いと思えることをやるというのはすごく大事なんです。自治体が起業支援をするときに、「地域資源を活かした起業をしなさい」というお題ってよくあるじゃないですか。あれって起業をする人にとって、あまりいいことじゃないと思ってて。
百歩譲ってその人の考えてる事業プランというパズルに、その地域資源が不可欠なピースならそれを使えばいいけども、はっきり言って無理に使う必要はないんですよね。そのピースを活かすために、もともと思い描いていた絵と違う姿になっちゃったら、本末転倒です。
たまに「この地域資源を活かした起業を考えているんですけど」って自分から言ってくる人もいるので、そういうときは「ところで、あなたはそれが好きなの?」って質問するんです。
「いや、そういうわけじゃないんですけど…」って言うので、「じゃあなんでそれ使うの?」って聞くと「これ使ったら有利かなと思って」とか言うわけです。
加藤:すごく想像できます。
中軽米氏:私は「できることより、好きなことをやろう」って言うようにしていて。自分自身がこれ好きだな、面白いなと思うことをやらないとダメだって。スタートアップって、寝るのもメシ食うのも忘れるくらい没頭できるようなことじゃないと、続けられなかったりするじゃないですか。
加藤:ブラックな労働状態になることが多いですからね。
中軽米氏:努力は好きに勝てないから、やっぱり自分が面白いと思うことをやった方が良いと思います。何よりその方が楽しいですからね。
(文=小野寺)
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第1話 「起業家をわんさか生み出す」スパルタキャンプの仕掛け人
第2話 増加する「スパルタキャンプ」の応募。選考基準は“面白そうな人”
第4話 努力は好きに勝てない