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この20年で変化した『地方自治の現場』と『これから』(前編)

【千葉茂明氏の経歴】
1962年岩手県大東町(現・一関市)生まれ。日本教育新聞社を経て、91年9月に株式会社ぎょうせい入社。月刊「晨(あした)」編集長などを経て、2001年から月刊「ガバナンス」を担当。2008年4月より編集長となる。
 これまでに約650の自治体、約200の自治体議会、約350人の首長を取材。マニフェスト大賞審査委員などを務める。

―地方自治はこの20年でどう変化したのだろうか。また、これからどう変化していくべきなのだろうか。2001年4月に創刊され、地方自治に関する情報を提供する雑誌・月刊「ガバナンス」編集長の千葉茂明氏の視点を伺った。「ガバナンス」は現場への取材を重ね、批判ではなく建設的に情報提供を続ける雑誌である。そういったスタンスから見た地方自治の姿を、千葉氏を通じてご覧いただければと思う。

2001年から 雑誌「ガバナンス」に関わる

加藤:ガバナンスについて、概要を教えていただけますか。

千葉氏:私は1995年から、「晨(あした)」という地方自治に特化した情報を掲載する雑誌を担当していました。一方、地方分権の高まりに対応してぎょうせいでは「地方分権」という実務誌を99年に創刊。地方分権一括法への対応が一段落したことで、2001年に「晨」と「地方分権」を統合して「ガバナンス」が生まれ、そちらの担当となりました。

 「ガバナンス」という言葉は通常、企業統治ととらえられることが多いのですが、小誌ではそれを地域にあてはめ、「地域を共につくる」(共治)という意味を込めています。地域をつくるすべての人々のための総合実務情報誌として、地域力や自治力を高める情報を提供することを通して、自治体現場の政策力、実践力、発信力の向上に寄与することを目的としています。

自治体職員が自分の名前を出して意見や考えを言うようになった

加藤:「ガバナンス」としても16年を越えて発行され続けています。連載の傾向として、大きな変化はありましたか?

千葉氏:最初の頃は研究者に書いていただく連載が多かったのですが、今は現役の自治体職員に書いてもらっているものも増えましたね。山形市役所の後藤好邦さん、大津市議会局の清水克士さん、足立区役所の定野司さんのような連載はかつてなかったものです。

 彼らだけではなく、この20年で、自治体職員が自分の名前を出して積極的に意見や考えを述べるようになったのは大きな変化だと思います。かつても飛び抜けた自治体職員はいましたが、そのような人は大体、役所の外からは評価されても役所の中では叩かれがちだった(笑)。今は割に平気に突き抜ける自治体職員が増えてきたと実感しています。

職員個人が表舞台に立ってほしい

加藤:個人の発信力も高まっていますし、個人が突き抜けることで、結果的に組織が成果をあげることもできますよね。

千葉氏:はい。「ガバナンス」のコンテンツの中に、データバンクという各自治体の最新施策や情報を毎号80本ほど掲載しているコーナーがあるんですが、その中にも自治体職員のリレー連載のコラムがあります。ここでも執筆に当たっては自治体名と実名を入れることを条件にしています。名前を出すことで責任が生じますが、同時に誌面に載ることでモチベーションの向上にもつながると考えています。

加藤:もっと、職員個人が表舞台に立ってほしいという思いが込められているんですね。

職員や議員が活躍すると 住民の暮らしが良くなる

加藤:雑誌全体としてはどういうコンセプトなのでしょうか。

千葉氏:株式会社ぎょうせいは会社の理念として、「法令の普及と地方自治の振興への寄与」を掲げています。私自身は、ガバナンスを担当しているので、特に後段の「地方自治の振興への寄与」を常に念頭に置いています。
 理念は抽象的なものですが、私なりに次のように解釈しています。小誌の主な読者は自治体の首長、議員、職員の方々がほぼ8割。彼らに情報を提供することを通して、何らかの刺激を受けて住民の福祉の向上につながれば、それは結果的に住民自治、地方自治の振興に寄与することにつながるのではないかと。

クレーム対応の連載への反響が多い

加藤:反響が多い連載はどういうものなのでしょうか。

千葉氏:読む人によって異なると思うのですが、ここ数年、反響が大きいのは「クレームの対応」をテーマにした連載ですね。それだけ自治体の窓口対応は困難が伴うことが分かります。また3年前から始めたファシリテーションの連載は職員はもとより、市民の方からも「毎号しっかり読んで勉強している」と言われることがあります。ファシリテーションは市民と行政の関係を変える新たなツールになるのではと思います。また、地方分権や政策法務を扱う連載は、やはり同業的な読者からの反響が多いですね。

 よく、「情報量が多すぎて、全部読めないよ」と言われるんですけど、自分が他の雑誌を買うときも隅から隅まで読むためではなく、自分が読みたい記事があるから買いますよね。「ガバナンス」では、あくまで自治体職員などの参考になるような視点で編集しており、他の媒体には載っていないような切り口を心がけています。まずは気になる記事、自分の職務と関係のある記事から読んでもらえればと思っています。

職員がネットワークを作る動きが増えて来た

加藤:20年以上、地方自治の雑誌に関わっている中で、自治体職員はどう変わって来ていますか?

千葉氏:一つは自治体の枠を超えたネットワークを作る動きが活発化していることだと思います。地方分権一括法の施行で、国と地方の関係は法的には「上下主従」から「対等協力」に変わりました。国からの通知等は技術的助言になり、自治体は自らの判断で政策立案することが求められるわけです。一方で財政が厳しくなる中、自治体では職員採用を抑えてきました。また小泉内閣の時には三位一体改革で補助金・地方交付税交付金が大幅減額され、国からは「行財政改革の計画を作れ」と迫られ、さらに職員定数を削減してきました。そうすると、役所の中でのOJTが効かなくなってきた。ではどうするかと悩んでいた頃にITが普及し、SNSの活用が急速に広がってきた。そこで繋がってしまえば、お互いに情報交換したり、仕事のことでも気軽に教え合える関係が築ける。そこで相互に刺激を受けることで、さらに自分も頑張ろうとなるので自治体職員のネットワークが広がっているのではないかと思います。

 また、30~40歳代の若い首長が随分増えました。北川正恭さん(元三重県知事)が2003年にマニフェストを提唱して以来、地方選では政策重視の選挙が増えたことが影響していると思います。政令市では千葉市や川崎市、福岡市、熊本市など、一般市でも長崎県大村市や宮崎県日南市などの市長はいずれも若くて、政策の発信力がある。このような若い首長は地方自治の風景を変えていくのではないかと期待しています。

役場の職員が住民を守る「最後の砦」になる

加藤:自治体職員を見ていて印象的だったことはありますか?

千葉氏:僕は岩手の出身なんですが、特に東日本大震災の発生後からは「役場の職員が住民を守る最後の砦になる」とすごく思っています。もちろん、自治体や職員のミッションには「住民の生命・財産を守る」ということがありますが、大災害時にはそれが如実に表れる。
 去年の暮れに発刊された『福島インサイドストーリー』という本に、原発事故後の職員の行動が記されているんですけど、情報が全く来ない中で住民の避難誘導を必死になって行っていました。「ガバナンス」でも現在、福島の双葉消防の被災時の取り組みを連載していますが、今後、二度と同じような災害が起きないために、雑誌としても記録に残さなければいけないと思ってやっているんです。

加藤:災害対応で自治体は本当に重要な役割を持ちますね。

憲法で規定されている地方議会をより良くしていく

加藤:ところで地方議会についてはどう感じていますか?

千葉氏:地方議会ってなかなか仕組みや役割が一般に理解されにくいところがあって、テレビや新聞で報道されるのは大半が議員の不祥事ですよね。すると住民からは「議員定数を減らせ」とか、「議員報酬は高すぎる」「政務活動費なんてムダ」などと言われてしまう。

 でも僕は、地方議会は憲法93条で設置が義務づけられている機関なので、批判するだけではなく、「より良くしなければいけない」と考え、20年ほど前から取材を続けています。当初はよく知り合いから「地方議会は何が面白いの?」とか「そんな地味なテーマが続くの?」とからかわれたりしたんですが、取材してみると議員はある意味で首長よりも個性的で人間味のある人が多くて非常に面白いですね。人間、たたかれてばかりいるとやる気をなくしますが、議会も先駆的な取り組みは素直に評価し、称えることが大事。そのことによって議会改革の良い循環を生み出すサポートができればと「変わるか!地方議会」という連載を創刊以来続けています。

議会は改革が進むところとそうでないところが二極化

加藤:この20年で議会も変わってきていますか?

千葉氏:大きく変わってきていますね。特に2006年5月に北海道栗山町議会が全国で初めて議会基本条例を制定してから加速しています。栗山町の議会基本条例の制定から11年になりますが、この間、議会基本条例の制定は全国の自治体の4割超の800ほどになり、基本条例をテコにして改革を進める機運が高まっています。ただし、条例をつくっただけで実践が伴わないところもあり、改革を継続的に進めているところと、そうでないところに二極化する傾向があると思います。

 予算編成権・執行権を持つ首長と異なり、議会が有するのは議決権。予算は議会で議決されなければ執行できないので、本来は議会のほうが優位で重要な機関に思えるのですが、実際にはそうはなっていない。また、一問一答方式や反問権、審議のネット公開など議事運営上の改革をしても、それが住民生活にどうプラスになっているのかは見えづらいですよね。また、住民の要望を踏まえた口利きのようなこともいまや全くできない。だから、基本条例の制定から10年が過ぎ、「これからの議会改革では住民福祉の向上をめざすべき」と指摘する研究者もいて、私もそうだと思っています。

「二元代表制というのはこうあるべきだ」

加藤:議会の活動で印象的なことはありますか?

千葉氏:栗山町議会が議会基本条例を作った後、周辺の町との合併話があったんですね。町長は合併推進派で、合併のメリットをまとめた資料をもとに住民説明会を開いたそうです。それに対して、議会側は独自に調べた周辺町の財政力など、ある意味でデメリットのデータも含めた資料を示して、議会報告会を行った。すると、住民は、合併は慎重に考えるべきだとなり、結果的に合併は見送ることになった。議会報告会に参加していた町民は「二元代表制というのはこうあるべきだ」と話したそうです。つまり、「執行部である町長と、議会の議員はそれぞれ別の選挙で選ばれた別の機関だから、異なる案をまとめることはあってしかるべきだ。両方の案を比較できる栗山町民は幸せだ」と。この話を聞いて、二元代表制というのは別に対立することではなく、こういうことを言うんだなと思いましたね。

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