インタビュー

この20年で変化した『地方自治の現場』と『これから』(後編)

千葉茂明TOP2 本番

合意形成ができる議会は力を発揮する

加藤:しっかりした議会運営ができているところと、できていないところの違いは何でしょうか?

千葉氏:それは、議会が最終的に一つにまとまれるかどうかではないでしょうか。議会は保守系から革新系までさまざまな主義主張の人で構成されています。例えば、執行部提出の議案に対して全員賛成になることもあれば、主義主張からどうしても譲れないと賛否が分かれるケースは当然ある。
 ところが議員個人の権限は乏しく、法的には議会の権限の方が格段に大きい。ということは議会が一つにまとまれば首長側に大きな影響を及ぼすことができるということです。次年度予算編成に向けて、会派ごとに要望書を出すところは多いですが、極論を言えば執行部は反映しなくてもいい。そもそも「会派」については自治法上の定義もない。でも、全会派あるいは議会全体でまとまって要望すると執行部側の対応は変わってくる。なぜならどこかで折り合いをつけるなり、議会の意思を反映しなければ、議案が否決される可能性が高まるからです。最近では、9月頃の決算審査と併せて、議会として主要事業の評価を行い、その結果を踏まえて次年度予算の要望書を議会として出すところが徐々に増えています。そして予算案が出されたら、どういう形で議会の要望が反映されたのか、また、予算が通った後はどのように実行されたのかを議会としてチェックしていくと、議会の取り組みが住民にも伝わるようになっていくと思いますね。

加藤:最大会派が自分たちに有利な方向ばかりに持っていかないというのも重要ですよね。

千葉氏:そうです。大きな会派には、むしろ少数意見を尊重する懐の深さみたいなものが求められると思います。例えば、大津市議会では政策立案のために政策検討会議という組織を作っているのですが、その構成メンバーは各会派から一人ずつです。ということは、一人会派でも一人、大きな会派でも一人。結果的に少数派の意見を尊重するやり方をしているんですね。

注目されている議会

千葉氏:あと、機関としてまとまっている例では、岐阜県の可児(かに)市議会がわかりやすいですね。可児市議会では地元の高校と連携して高校生のキャリア支援をしているのですが、その発端は議長が、市の議会基本条例で「議会は市民の意見を聞く」と定めているけど、20歳以下の市民の意見を聞いていないと感じたこと。たまたま高校にキャリア教育に取り組んでいる先生がいて、それなら議会が支援しようと乗り出し、地元の医師会の協力を取り付け、医師や看護師など医療関係者と高校生が対話する場を議会が設けたんです。その経験からある生徒は医師になろうと猛烈に勉強を頑張り、実際に大学の医学部に合格したそうです。
 学校は政治的中立性を保つ必要があるので、議員個人や会派単位ではなかなか連携が進みません。高校の先生は「議会としてまとまって支援してくれたからこそ安心して連携できた」と話していました。また、福島県会津若松市議会では市民との意見交換会で出された意見を踏まえて、議会として政策や要望をまとめていくサイクルを確立しています。
 大津市議会と可児市議会、そして会津若松市議会が市議会として現在注目されているところですね。町村では政策サポーター制度を設けている長野県飯綱町議会、議員のなり手不足問題に切り込んでいる北海道浦幌町議会も注目です。

改革を後戻りさせないのが議会基本条例

加藤:進んでいる議会を構成しているのは個々の議員さんだと思うんですね。もし、選挙で人が入れ替わった場合でも、良い風土は残りそうですか?

千葉氏:ある意味で、議会基本条例を制定するのは一定のレベル以下に後戻りさせないためでもあります。とはいえ、構成メンバーが替わることによって熱意に差が生じるケースはもちろんあります。そこで工夫しているところは、例えば、条例に基づく議会改革の委員会を常設したり、議長が交替する前に次の議長への引き継ぎ事項を議運などで確認するケースがあります。また、基本条例で「年1回以上の議会報告会の開催」を義務づけていれば、嫌でも実施しなくてはいけなくなります。

加藤:議会報告会は活発に行われているのですか。

千葉氏:僕が取材し始めた20年前の議会は、「開かれた議会」といっても、委員会の傍聴を可能にするとかでした(笑)。いまはネット公開も増え、議会のFB、議場でのタブレット活用など隔世の感があります。
 そして当時、議会の課題は傍聴者数を増やすことでした。ところが平日昼間の開催では多くの勤め人は傍聴不可能です。そこで、議会のほうから町に出向き、議会の活動を報告する動きが出て来た。宮城県の本吉町(現・気仙沼市)議会が行っていて、そのやり方を栗山町議会が勉強して北海道で初めて05年に議会報告会を開催しました。「毎年続けてくれ」という住民からの声を受け、それを担保したのが翌年制定した議会基本条例です。
 その後、議会報告会は全国に広がり、いまでは半ば常識化しています。が、同時に報告会ではどうしても話が一方通行になりがちで参加者の固定化、減少傾向が見られます。そこで名称を「意見交換会」とか「議員と語る会」に改めたり、一方通行の対面型から対話型の形式にする議会も出ています。また、岩手県久慈市議会が最初にワールドカフェ形式での議会報告会を行い、この手法も徐々に広がりを見せています。

まちづくりに関わるプレイヤーが共同で取り組んでほしい

加藤:これからの自治体、そして議会に求められるものはどういうことでしょうか。

千葉氏:私も関わっているマニフェスト大賞では、市民部門、議会部門、首長部門があるのですが、この2者なり、3者なりが共同で取り組む実践が増えていけば、相乗効果でもっとまちづくりが進むのではないか。ですから表彰対象の部門も共同(協働)で取り組んだものが将来的にできればと思っています。

 例えば、議会改革が進んでいる自治体で首長側の改革も進んでいるかというと必ずしもそうではありません。その逆も同様です。でもまちづくりの担い手である首長、議会、市民の3者、これに職員を加えて4者がそれぞれ協力しつつ持ち味を発揮することが大事ではないかと思っています。

コーディネート力と対話が必要な時代

千葉氏:その点で注目されるのは対話型行政を展開している静岡県牧之原市と、条例で若者議会を設置し、若者がまとめた政策を1000万円予算化している愛知県新城(しんしろ)市です。牧之原市では市民ファシリテーターが活躍していますし、新城市では自治基本条例で議会も含めたまちづくり集会を年1回開く規定を設けています。

 これからは日本全体で人口が減少し、財政も右肩上がりにはならない。すると限られた予算の中であれかこれかの選択を行わざるを得なくなります。その時に求められるのは、説得ではなく、住民の納得ではないでしょうか。たとえば公共施設の再編では総論賛成各論反対になりがちです。でも、まち全体を考えると、この施設は廃止しても仕方がないなと思える段階まで持って行く。そのために自治体及び自治体職員には「コーディネート力」や「対話」を促すファシリテーション能力が一層求められるのではないかと思います。

「何年やっても僕は素人みたいなもの」

加藤:自治体職員個人に求められるものはどういうものだと思いますか?

千葉氏:先ほどのコーディネート能力やファシリテーション能力に加え、自治体職員ならではの仕事・能力を追求することが求められるのではないかと思います。「ガバナンス」では人事異動などを踏まえ4月号では職員のあり方を特集することが多いのですが、今年はAI(人工知能)に触れる論文が多くてちょっと驚きました。AIが自治体現場に与える影響が大きくなることを踏まえて人財戦略を考えるべきだという指摘です。となると、「自治体職員固有の仕事ってなんなんだろう」と考えざるを得なくなる。以前は、公権力の行使に関わることとよく言われていたのですが、今はNPOなど公共的なサービスを担うところが増え、境目が曖昧になっている感じですね。僕自身も明確に答えられないし、今後は恐らくもっと境目がなくなってくる。このように、次々と新しい課題やテーマが出て来るので、何年地方自治に関わる雑誌をやっていても僕は素人みたいなものですよ。

自治体職員が活躍すると住民の暮らしが良くなる

加藤:最後の質問です。お仕事をしている時に、楽しいと感じる瞬間はどういう時でしょうか。

千葉氏:例えば、窓口担当の自治体職員だったら「住民から『ありがとう』と言われること」と聞きます。僕も同じで、「雑誌を読んで役に立ったよ」とか、「あの人が掲載されているのを見て自分も頑張らなきゃいけないと思った」といった話を直接的、あるいは間接的に聞くと嬉しいし、さらにいい雑誌にしようとモチベーションが上がりますね。

 自治体職員が活躍するということは、ひいては住民の福祉の向上、暮らしが良くなることに繋がると信じています。「ガバナンス」の記事を自分の仕事に役立ててもらえたり、モチベーションを高めるきっかけになってくれたら嬉しいですね。

加藤:ありがとうございました。インタビューは以上です。

千葉氏:こちらこそ、ありがとうございました。

 

―「この10年20年で、自治体職員が自分の名前を出して意見や考えを言うようになったというのは大きな変化だ」という千葉氏の言葉は非常に興味深い。私はそれぞれの部署で活躍する個人が表舞台に出ることで、現場の経験から得た実務レベルの知見を全国の自治体へ共有することができると思っている。それによって全国の自治体が切磋琢磨していくことができるのではないだろうか。

 また、単なる知識とは別に、住民が活躍する行政職員個の顔を知るということが、自治体の活動をより円滑にする環境を生むとも思う。人は顔の見えない人間に温かい感情は持ち難い。市民と協力関係を構築しなければならない時代では、顔の見えない行政にはデメリットの方が大きいのではないだろうか。

 今後、地方自治の果たす役割がさらに大きくなることは間違いない。地方自治にさほど光が当たっていなかった時代から、千葉氏が地方自治の現場に20年以上もの歳月を費やしてこられたというのは、とても大きな功績だ。
「自治体職員が活躍するということは、結果的に住民の暮らしが良くなることに繋がります」という言葉には深く頷かざるを得ない。

(記=加藤年紀)

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