大阪府の動きを見ながら独自調査を導入した
加藤:この全学年の毎年調査、「子供ステップアップ調査」を導入するさいに、批判的な意見も出るじゃないですか。それはどうやって通したんですか?
倉田市長:このとき僕はラッキーだったんです。当時、民主党政権が全国学力学習状況調査を全校調査じゃなくて、抽出調査、つまりサンプルだけにする調査に変えました。
それに対して当時の橋下徹知事が問題意識をもって、「国の調査では不十分だから、大阪府として学力テストをやる」と言い出したんですね。ただ、箕面市の先生達は、どういうかたちになるのかわからない府の学力テストに「参加したくない」と言い出したんですよ。
それで、「嫌だから参加しないなんて、さすがに子供じゃあるまいし」みたいな話を僕がしていたら、先生達から「大阪府の学力テストには参加しない代わりに、箕面市独自の調査をするということではダメですか?」という提案があったんです。それなら意味があると感じて導入を進めました。
加藤:良い落としどころになったわけですね。
倉田市長:そうそう。だから、ある意味で外部の刺激があったから、先生たちが自分たちで考えざるを得ず、自分たち独自の調査をするようになったと(笑)。
加藤:逆に、大阪府が何も言わずに、無風状態の中でこれをやろうとしたら難しかったですか?
倉田市長:難しいと思います。もちろん学校現場も納得させなければいけないし、当然、お金もかかりますから議会で予算を通さないといけないわけで、山のようなプロセスを乗り越える必要がある。
加藤:文部科学省など国からも働きかけをして、全国で事例を増やしてほしいですね。
調査の予算は年間で子供一人あたり3,000円
加藤:この「子供ステップアップ調査」には、どのくらい予算を割いたんですか?
倉田市長:システム整備のための初期費用から毎年の運用経費まで全部合算して割り戻すと、1年あたり3,500万円弱。子供一人あたりに換算すると年間3,000円くらいです。
加藤:それだったら、十分価値があるような気がします。
倉田市長:良いと思うんですよ。もちろん、活用できればね。
僕らは大阪府に「これと同じものを府下で一斉にやったほうがいいと思う」ということをずっと提案しているんですけど、「お金の問題でそこまではできません」と言われています。
ただ、文部科学省さんの学力テストを担当している国立教育政策研究所が箕面市の調査を知って、「こんな良いデータがあるのか」と言って、今一緒に共同研究に入ってくれていたりと、データを真面目に教育に活かそうと注目してくれる人達も現れてきました。
校長先生が自信を持って指導できるようになった
加藤:せっかくのデータを使わなかったらもったいないですよね。今、導入から5年経って、先生側からはどういう声があがっていますか?
倉田市長:2、3年前から先生の指導力の強みと弱みを数値化したものを、学校にフィードバックしていて、校長先生が先生たちを指導するときのデータとして使ってもらっています。この先生は算数を伸ばすのが得意だけど、社会は苦手だとか、そういったことが見えて来るからです。
結果として、普段の様子から校長先生が各先生をなんとなく把握している感覚と、それほど乖離していないことも多いみたいです。でも、可視化された客観的なデータがあると、自信を持って指導できるという声を聞きます。
加藤:校長先生も異動しますから、はじめて来た年からその情報をもとに指導できるというのは大きいですね。
倉田市長:はい。あくまで、先生達を責めるためのデータではなくて、指導力の底上げのためです。結果が良い先生の授業ノウハウは皆でもっと研究して、共有できるようになるので、活用してもらいたいと思っています。
加藤:これからやろうとしていることには、どういったことがありますか?
倉田市長:たくさんありますが、出身の幼稚園とか保育所ごとにグループ分けして分析すると、それなりに特性に差がありそうだというのが見えてきたので、就学前の教育、保育機関に何が求められるのか、幼稚園とか保育所に対しても情報を共有したり、お願いできればいいなと思っています。
加藤:本当に可能性に溢れたデータですね。
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※本インタビューは全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 多くの教育委員会は意思を持っていない
第2話 教育委員は名誉職ではない
第3話 エース職員を教育委員会事務局に送り込む
第4話 序列を嫌う教育現場で全学年が毎年調査
第5話 全学年毎年調査の予算は 子供一人あたり年間で3,000円
第6話 子供は親を選べない 教育で子供に力を
【箕面市長 倉田哲郎氏インタビュー】
第1話 頑張った人が報われる 自治体の給与制度改革
第2話 7割の職員は「人事・給与制度改革」に賛成
第3話 飲み会での『人への評価』を制度に落とし込む
第4話 平社員の給与が部長を上回るケースが存在する
第5話 「公立病院は赤字で仕方がない」という神話
第6話 脳内に地域住民という上司が存在する