インタビュー

子供は親を選べない 教育で子供に力を-箕面市長 倉田哲郎氏(#6)

倉田哲郎4

学校を組織化していく

加藤:学校を改善する試みの一つに教頭先生と、いわゆる普通の先生の間に、何人か中間的なリーダーになる方を入れられました。

倉田市長:今まで普通の先生として働いていた人の中から何人か、ミドルリーダーとして中間層をつくるようにしました。都道府県ごとにいろんな文化があるとは思うんですけど、大阪府では教頭先生より下が本当にフラットなんですよ。

 ある学年の授業の方針を決めるときも、みんなで全部話し合ったりするんです。もちろん、全員が話し合って決めるべきこともありますが、全部がそうじゃない。

 そもそも、教頭とか校長が1~2人で全学年の全ての細かい方針なんて見きれる訳ないじゃないですか。ですので、役割分担をするために中間的リーダー層を作りました。学校の先生が忙しいという事実があるので、ちゃんと役割分担をして組織的に動いていこうという考え方ですね。

試行錯誤しているリーダーの役割

加藤:リーダーの方達は授業をしないんですか?

倉田市長:している人と、していない人がいます。ここはいくつかの学校でモデルを試し、試行錯誤しています。リーダーの役割としては、特定の学年を担当したり、学校行事に関することを全部一手に引き受けたり、いろいろパターンも考えられます。

 学校の中の切り分け方って難しいですよね。学年の切れ目も、もちろんあるんですが、そうじゃなくて、生徒指導関連のものを担当する、行事関連のものを担当する、ということもあるようなので、どうやったらうまくいくか、今よりマシになるか試行錯誤です。

職員室の昭和さ加減がすごい

倉田市長:業務改善も進めています。学校の職員室ってものすごく昭和なんですよ。会議を一つセットするのに、電話とFAXで半日かけてやっとセットしたとか、そんなことが当たり前に起こっていた。箕面市で最近まで起こっていたということは、他所でも起こっているはずです。

 具体的には、黒板と各自の手帳でスケジュール管理をしていたので、グループウェアを導入したりしました。革新的なシステムを入れる必要はないです。でも、せめて世の中の普通の企業と同じくらいのビジネスインフラ水準にしないと。

行政職員が校長なんてできるのか?

加藤:職員の方に聞いている限りでは、自治体もシステム導入は遅れている印象があります。だから、自治体から学校に対してシステム導入について教えられないということもあるのでしょうか?

倉田市長:知識的に教えられる人がいないというよりも、学校の中で何が起こっているのかを誰も知らないのが問題なんですよ。だから、学校の中で何が課題で、何が課題じゃないのかも解明できない。そこで、行政職員を学校に派遣することにしました。指導主事は学校から教育委員会事務局に来ているじゃないですか。だったら行政職員も逆に学校へ行って、向こうを知らないと一緒に仕事ができないですから。

 中学校1校と、小学校2校の合計3校。校長先生と副校長と学校事務職員の3人を一つのチームにして各校に行政職員を送り出したんですよ。ちょっと不思議だったのは、最初少しハレーションがあったことです。「行政職員が校長なんかできんのか?」と(笑)。
 でも、今では公募で民間から校長とかを受け入れているんですよ。公募校長って大体3年任期くらいでその後にノウハウが残らないことも多いんです。それでは意味ないですよね。行政職員なら予算のこともわかるし、僕はよっぽどいいと思うんですが。

 それで行政職出身の校長先生、副校長、学校事務職員を送り出してみて、はじめて学校の中で一体何が起こっているのかを理解できたわけです。それからようやく、「これは変だな」、「これはなんとなくわかるな」とか、周りから見えていなかった良いことと悪いことが少しずつわかってきました。職員室にグループウェアを入れたのもそんな経緯からです。

お前はスパイだろう

倉田市長:それと、今まで、学校が教育委員会事務局に「壊れているから直してくれ」と言っても予算確保が下手で付かないことも多く、諦めて放置ということもいっぱいあるんです。

 ですが、行政職員が行くと、どこにどう話を通したらお金が出てくるとかも把握しているので、彼らが行った学校は比較的綺麗に改善されていくんです。

 はじめ着任したときは先生たちから「何しに来たんだ! お前はスパイだろう」みたいな目で見られていたみたいなんですが、そうやって学校のために役割を果たしていく中で、途中から学校の味方なんだと理解されて、先生達も腹を割って話ができるようになっていったようです。彼らは戻ってから教育委員会事務局で活躍しています。良い仕組みだと思うんですけど、ただ、学校に行政職員を送るという事例は全国にはあまり広がっていないですね。

子供は親を選べない 教育で子供に力を

加藤:今後、教育について箕面市では何をやっていきたいと思われますか?

倉田市長:まだまだ、道半ばです。新しい取り組みはいろいろ進んでいきますが、学校の先生達がどこまで身にできているのかというところが気になります。大きく文化とか風土を変えるというのは簡単ではないですよね。時間がかかるんです。

 とは言うものの、大阪では学校の先生が世代交代のタイミングに来ていて、毎年、若手の先生が急速に増えている状態なんですよ。そういう意味ではある種チャンスで、今の良いものは引き継ぎ、変わるべきものは変わっていきやすい。

 学校の先生達の仕事の仕方が、少しでも組織的、合理的に動いていくようにしたいと思っています。

加藤:それが、必ず長期的に地域の価値を高めることにもなりますよね。

倉田市長:はい。子供は親を選べないんですよね。そこに対して“教育は子供に力を与えるべきモノ”のはずなんです。特にハンディを背負った子供達が、ちゃんと社会に出て行くところまで教育は適切に対応できているのか、それを強く意識しています。少しでも、箕面が新しいチャレンジをしていければと思っています。

編集後記

自治体が教育委員会を改革し、教育委員会事務局や学校現場に自治体職員を送り込むことで、公教育を改革していくお手本のようなお話だった。

 “教育は子供に力を与えるべきモノ”と、倉田市長が力説されたように、教育はその国の根幹を成す最重要課題なのかもしれない。しかしながら、合理的なデータをもとに改善を積み重ねる文化は、まだまだこの国に根付いていないように思う。

 一人あたり年間で3,000円だという全学年の「子供ステップアップ調査」。この金額であれば投資対効果を考えても、積極的に全国で進めるべきではないかと感じる。少なくとも保護者の立場から見た場合はもちろんのこと、市民としても喜んで捻出することができる金額ではないだろうか。

 「教育現場は序列を嫌う」という倉田市長の言葉があったが、最近、アパレル事業を行う、株式会社サマンサタバサジャパンリミテッドの社員教育がテレビで紹介されていた。

 同社は社員の約96パーセントが女性である。女性は男性と比べて出世や報酬に対する欲求が薄く、仕事で自身のスキルを発揮したい、そして、人の役に立ちたいという傾向があると言われている。そのため、同社では“褒める文化”を大切にし、上司が部下に対して「ありがとう」などと感謝を伝える文化もある。また、驚くことに「叱られたことがない」と言う女性社員の話も紹介された。

 しかし、褒める文化があるからと言って社内に競争がないわけではない。スキルを高めるために接客のコンテストなど、序列をつける競争文化も存在する。褒めるという過程の中で“自己肯定感”を満たした状態にあるからこそ、競争に向き合うことができるのだという。

 くしくも、「子供ステップアップ調査」の中では学力、体力という切り口だけではなく、“自己肯定感”についても指標の一つとしてデータ化している。いままで不可能だった領域に、データをもとに、挑戦している箕面市の教育改革が、これから全国をリードしていく日はそう遠くないのではないだろうか。

※本インタビューは全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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