小一から中三まで毎日英語の授業を受ける
加藤:2012年に教育委員の公募をされてから5、6年経つと思います。公募の結果として、具体的に進んだ取り組みには何がありますか?
倉田市長:わかりやすい事例だと、英語教育があります。箕面市の英語教育はもともと普通のレベルでしかやっていなかったんですけど、今は小学校一年生から中学校三年生まで、毎日、英語の授業をやる、という体制になっています。これは、今の教育委員会の体制でなかったら思い切った進め方ができていなかったと思います。
きっかけは指導主事の先生が「英語教育に力を入れないといけない」と提案したことが始まりだったんです。その提案に対して教育委員さん側が「それはすばらしい!」と。ただ、かたちだけやっても英語力は上がらないから、「どうせやるんだったら本気で毎日やろう」と言い出すんです。
最初に提案した先生は逆に、「えっ、さすがにそこまでは…」となったんですが(笑)、最終的には全校で小学校一年生から中学三年生まで、毎日英語の授業を行う体制になりました。
加藤:すごいですね。それをやっている学校は全国的にたくさんあるんですか?
倉田市長:小学校一年生から英語を毎日というのはほとんどないと思います。今やっとネイティブスピーカーを英語指導助手として、中学校では全中学校の全学年に一人ずつ、小学校でも全小学校に対して各2、3人ずつ配置するところまできました。
小中全学年に学力・体力・生活状況調査を行う
加藤:教育というコンテンツによって箕面市を差別化できていますね。
私が箕面市の取り組みで最も気になったのが「子供ステップアップ調査」というものを導入され、毎年、小中学校の全学年で学力調査や体力調査、生活状況調査をしていることです。
倉田市長:これによって、客観的に子供たちの状況や学校現場の分析ができるようになりました。文部科学省から全国で箕面市だけと聞いています。必要でしょ?本来、当たり前だと思うんですが、こんな事。
日本の教育現場は序列を嫌う
加藤:なぜ、どこの教育委員会もこれをやらないのでしょうか?
倉田市長:これは大阪だけなのか、全国的なのかわからないんですけれども、教育現場は序列を嫌うんですね。たとえば、かつて箕面市でも運動会の徒競走で、一位、二位、三位、四位を示す旗がなかった学校が存在しました。
そこで、教育委員会が「徒競走で活躍する子の晴れ舞台になるし、そうじゃない子はまた別の分野で活躍する場所がある。だから、いいんじゃないか」と言って、全学校分の旗を予算化して配ったんですが、それでも頑なに使わない学校があったくらいです。今では全部の学校が使うようになりましたが。
加藤:特に専門家の方が嫌うんですか?
倉田市長:学校の先生が嫌います。そして、学校教育関係の学者さんなんかもそうでしょうね。
加藤:一要素として捉えればいいような気がするんですけどね、足が速いとか、遠投ができるとか、算数ができることが一つの長所として称賛される。ただし、それが「得意でない人の人間性を否定するものではない」、と教えたらいいと思います。
倉田市長:そうなんですよ。箕面市は学力だけでなく体力と生活状況と、全方位的に調査しているんですが、これは別に、順位付けるための目的ではなくて、子供一人一人の状況を正確に把握したり、推移を見ていくためなんです。
加藤:たとえば、英語の授業だって、テストの点数によってクラス分けしたっていいですよね。予備校だって分けています。今は、すごく良くできている人が、できない子に合わせている。これでは一人一人の進捗に合わせた最適化からは程遠い気がします。
倉田市長:全くその通りです。
生徒にも先生にも調査を活用することができる
倉田市長:箕面市では今まさに、この習熟度別の指導に関する議論が花盛りなんですけど、たとえば算数のときだけは、習熟度別にクラスを割り直して教えるといったことを始めています。
大阪府も習熟度別指導をやろうと、そのための先生を増やしたりしているんですけど、調べてみると、習熟クラス分けを本人の希望に任せているケースもあるんです。これだと本当は習熟度別に分かれていない可能性もあるじゃないですか。
しかも、それをやったことで成果が出ているのか出ていないのか、定量的に確認できていないんですよ。でも、箕面市は全数調査しているからこそ追跡できるので、「習熟度別にやっていたケースと、やっていないケースでの比較」、ないしは、「上のレベルのクラスと下のクラスで分けたときに、ちゃんと両方とも成績が上がっているのかどうか」、などを分析しようとしています。
この2年間でやっと成績推移のデータが集まってきたので、「やはり習熟度できちんとクラス分けしたほうがいいね」「じゃあ2クラス分けるのと、3クラスに分けるのではどちら効果的なんだろう」とか、次の検証ステップに進んできています。
加藤:すごいですね。しかも、先生に対しても細かく評価できますよね。たとえば、数学を3レベルに分けたとき、この先生は一番上のクラスを持っても生徒の成績が伸びないけど、一番下のクラスを持ったら伸びるとか、絶対ありますよね。
倉田市長:あるんですよ。別に先生が悪いわけじゃなくて、得手、不得手がある。そして、良いノウハウを持っている先生が確認できたら、そのノウハウを真似すれば良いと思うんです。けっして、比較して優劣をつけるわけではなくエビデンスに基づいて底上げしたいだけなんです。
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※本インタビューは全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 多くの教育委員会は意思を持っていない
第2話 教育委員は名誉職ではない
第3話 エース職員を教育委員会事務局に送り込む
第4話 序列を嫌う教育現場で全学年が毎年調査
第5話 全学年毎年調査の予算は 子供一人あたり年間で3,000円
第6話 子供は親を選べない 教育で子供に力を
【箕面市長 倉田哲郎氏インタビュー】
第1話 頑張った人が報われる 自治体の給与制度改革
第2話 7割の職員は「人事・給与制度改革」に賛成
第3話 飲み会での『人への評価』を制度に落とし込む
第4話 平社員の給与が部長を上回るケースが存在する
第5話 「公立病院は赤字で仕方がない」という神話
第6話 脳内に地域住民という上司が存在する