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自治体人事を考える 5話目

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ヨソモノが考える自治体人事の課題と対策

(記=加藤年紀)

 「内定辞退6割 地方公務員採用の厳しい事情」という記事を見ていても、自治体の人事戦略は今後非常に重要なものとなるだろう。これまで、株式会社LIFULLの羽田氏に話を伺った上で、最後に私なりに課題と対策をまとめてみたいと思う。

 実は、株式会社LIFULLは私が新卒から約10年勤めた会社だが、同社にビジョンが存在したこと、浸透していたことは大変ありがたかった。新卒の頃というのは、誰もが一定の自己顕示欲を抱えるとともに、社会人としての自分自身の存在意義に対して、漠然とした不安があるものだと思う。私もご多分に漏れずその不安や恐怖を感じながら、必死に生き抜こうとあがいていたし、決して優等生のような振る舞いはできなかった。

 しかし、同社のビジョンや組織文化、そして、そのビジョンに共感した者同士が同じ時間や空間を共有できたことが、「少しでも自分も真っ当な人間になろう」と一念発起できたきっかけであった。

 ビジョンの力は偉大である。人は自分のイメージした自分になる。そして、組織はその組織に属する人間がイメージした組織になる。一方で、ビジョンが浸透していない会社にその重要性を伝えることは難しいと、外に出て思う。

 以前、自治体の改善を分析するセミナーに参加した際、役所のビジョンが職員全体に行き渡っていないという話があった。首長や幹部が熱意を持って何のための組織なのか、と徹底的に語ってもいいと私は思う。こっぱずかしいと感じるかもしれないが、少なくとも若手層には響くのではないだろうか。

 また、羽田氏が言及した中で、『野心的な変革目標』を掲げるべきというものがあった。住民に対しても強くアピールできるそれは、自治体に興味の薄い人達をも惹きつけるだけでなく、発する自身にも深く浸透していくという効果も見逃せない。

個人の能力を発揮しづらい環境

 人事畑に長年いた人から見れば、決して多いと言えない私の人事経験から鑑みても、自治体の人事には課題があるように思える。その最たるものは、「個人の能力を発揮できない環境」が存在することではないだろうか。活躍する多くの方々を見ていても、何か窮屈そうに見えるのだ。どこかで目立たないように、嫌われないように、などと意識をせざるを得ない職場環境は、間違いなく本来彼らに期待できる成果を奪っている。

 よく、組織の中の優秀な2割の人が組織全体の成果の8割を生み出していると言われる。しかし、自治体組織ではその優秀な2割の人が活躍する機会を奪われている気さえする。
 優秀な2割の人が組織全体の成果の2割しか出せなくなるとする。その場合、この組織の成果は本来期待できる成果の4割にしかならない。これは非常に大きな損失ではないだろうか。

学ぶべき自治体の先進事例

 だからこそ、まず自治体は飛び抜けた能力をもつ2割の人が、活躍することに集中できる環境が必要ではないだろうか。羽田氏がいうところの「内発的動機付け」や「心理的安全」を考慮して環境を作ることが、最も人事戦略上重要なのではないだろうかと感じている。

 その点においては、大阪府箕面市の倉田哲郎市長が進めた給与制度改革や、人事評価制度改革が非常に参考になるものの一つではないかと思う。給与制度に関しては、労働組合、地方議会との折衝にパワーを割かざるを得ないため、一筋縄にはいかないかもしれないが、職員の7割が賛成だったこの事例が2014年に生まれてから、追随している自治体が存在しない点はとても気になる。

 また、採用改革も有効であろう。こちらは羽田氏も「面白い」と興味を覚えた、奈良県生駒市の小紫雅史市長が進めた事例が分かりやすい。この箕面市と生駒市の2つの事例に着手するだけでも、自治体が世の中に貢献できる度合いは増すのではないか。

異動の最適化

 専門性の喪失を誘発する異動についても考えるべきだと感じている。二市一町の水道事業を統合し、岩手中部水道企業団を立ち上げた菊池明敏氏の言葉が脳裏をよぎる。統合した最も大きなメリットは『職員が覚悟を決めて水道の専門性を高めていくこと』だという。

 ここで、羽田氏のコメントを思い出してほしい。

例えば、人事の仕事を2年3年関わっただけでは、身につくスキルに限界もあると思います。しかも、毎回素人が異動で来るとしたら、受け入れる各組織の成果が出しづらい環境にはなりますよね

 羽田氏がいうところの『内発的動機付け』を、菊池氏は期せずして『職員が覚悟を決めて』という表現に置き換えて説明されているのではないか。

 LIFULL社が行っている「希望無しでは職種変更を行わない」というのは、今までの文化があり、かつ、多種多様な部署や役割のある地方自治体では簡単ではないかもしれない。しかし、現時点で身につけている専門性の、幾分かが生かせる範囲内で異動をしてもらえるようにすることは、本当に出来ないことなのだろうか。

 もちろん、例外はあってもよい。幹部候補となるエース職員であれば将来を見越して、大胆な異動も必要かもしれない。恐らく、そういう人達はそもそも適応能力が高く、部署を越えても成果を出すような人材であるから、異動による成果ロスも少ない。俗にいう、スーパー公務員と言われるような方々は、持ち前の課題発見能力と課題解決能力によって、どの部署に行っても成果を出せる可能性が高い。

 今は個人の能力一つで多大な影響力を与えられるようになった。物事が複雑化し、価値観が多様化する中、専門性はより重要視されることになる。異動の目的が「ジェネラリスト育成」と語られることがあるが、そもそも、ジェネラリストとは何か、また、ジェネラリストというのはなぜ必要なのかと向き合った時に、どのような論理が成り立つのかは興味深い。全否定するわけではないが、納得感のある解を聞いたことは未だない。

職場環境は徹底して作られるべき

 冒頭の記事にあった通り、自治体の人事採用も苦戦を強いられるようになって来た。

 一方で、民間企業はテレワークの導入や副業の解禁など、テクノロジーの進化や社員のライフスタイルの変化に合わせて、社員の働き方の満足度を向上させていくことに余念がない。そうしなければ優秀な人材を採れなくなっていくのが目に見えているからだ。

 官民において求められる人材が同質化することによって、人材獲得競争は激化していく。自治体にも新しい人事の仕組みへの挑戦が求められるのではないだろうか。そうでなければ、優秀な人材は自治体を離れる。まずは今の職員の方の満足度を高め、パフォーマンスを上げる。並行して、自治体が満足度の高い職場だという評価が広まる。それによって優秀な人材が自治体に集まってくるという好循環が生まれることを期待したい。

 人々の根源的な幸せに関わる地方自治体は大きな役割と価値がある。もちろん、そこで働く職員も価値そのものである。そんな彼らに対して、より働きやすい環境が供されることを願う。やはり、日々、努力されている自治体職員の方々を見ていると、もっと仕組みと文化を整えるべきではないか、そんなことを思うのである。

見落としてはいけないブラック企業と地方自治体の違い

 もう一つ、やや刺激的な表現を付け加えておく。過去にインタビューした方で「自治体は部署によって残業100時間をゆうに超えるブラック企業のような労働環境がある」と話していた方がいた。残業時間と言う一点においては確かにブラック企業と言える瞬間もあるかもしれない。ただし、私が自治体とブラック企業の関係において最も違いを覚えるのは、ブラック企業は成果を出した人が圧倒的に評価されるという点だ。年齢や年次を問わず地位も報酬も与えられ、ブラック企業で成果を出す多くの人達にとって、「ブラック企業はブラックでは無い」という事実も存在する。
 もちろん、ブラック企業を称賛しているわけではない。ただし、事実としてブラック企業は分かりやすく成果を求め、成果によって評価する。同様に成果へのコミットが強いのがプロスポーツの世界である。もし、プロスポーツの世界において、活躍しても報われない制度が存在したり、活躍すると組織内で嫌がらせを受けたり、足を引っ張られるようなことがあるとすると、そんなチームは決して強くなれないのではないか。挙句には、活躍する力のある選手はチームを去るだろう。組織文化というのは当たり前に存在し、誰しもが慣れてしまうものである。次回のインタビュー記事では改善について話をお聞きした。組織文化という目に見えづらいモノにも改善の波が来ても良いのかもしれない。

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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

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