インタビュー

地方自治体もワクワクできるビジョンを

羽田幸広1

羽田幸広(はだゆきひろ)
株式会社LIFULL 執行役員人事本部長。1976年生まれ。上智大学卒業。人材関連企業を経て2005年にネクスト(現LIFULL)入社。人事責任者として人事部を立ち上げ、企業文化、採用、人材育成、人事制度の基礎づくりに尽力。著書に『日本一働きたい会社のつくりかた』がある。

―不動産・住宅情報の総合サイト『LIFULL HOME'S』で有名な、株式会社LIFULLは社是に『利他主義』を掲げ、そのビジョンの浸透に力を入れている稀有な企業である。同社はモチベーションの高い企業を表彰する「ベストモチベーションカンパニーアワード」で全参加企業中1位、Great Place to Work Institute Japanが世界約50ヵ国に行う調査、「働きがいのある会社」のベストカンパニーに7年連続で選出。また、「働きがいのある会社」女性部門では第3位に選ばれている。
 2005年から人事の責任者としてこの結果を導いたのは、同社の執行役員人事本部長を務める羽田幸広氏である。『ビジョン』『モチベーション』『採用』『異動』『評価』『育成』などについて同社の事例を伺うと共に、地方自治体の人事について考えてみたいと思う。

組織が大きくなるに連れて意識がバラバラになった

加藤(インタビューアー):御社の社是や経営理念は、創業のときからあったのでしょうか?

羽田氏:1997年に創業していますが、2005年の4月にビジョンカードというものが作られたんですね。それまでは言語化されたビジョンはなかったのですが、会社が成長して30人くらいになった段階でいろんな人が入ってきたそうです。

LIFULL社 ビジョンカード

現在のビジョンカード 社是に”利他主義”を掲げる

 当時は、“ど”ベンチャーだったので短期的な業績を重視する人もいたりして、結構バラバラな雰囲気があり、辞めていく人もいたと。それを目の当たりにした社長の井上が、ビジョン共有するために言語化したいと言って、作ることになったそうです。

 自治体ではビジョンのようなものを浸透させるような動きは無いのでしょうか?

加藤:以前に、自治体が業務や制度の改善を進めるためのセミナーに参加しました。その時に聞いた話によると、首長が変わると短期政策はガラっと変わる印象がありますが、まちの総合計画のような長期政策はそのまま手付かずであったりする。また、上司から部下へ組織の目的や役割、業務の優先度などの説明もあまりされないということでした。それによって、何を中心に日々仕事をするかという指針が、職員の俗人的な意識に委ねられているようなところがありそうでした。

目指すべき姿をトップが伝えた

加藤:ビジョンを掲げている会社は世の中に沢山ありますが、それが浸透している会社はそこまで多くないと思います。御社はどうやってビジョンを浸透させたのでしょうか。

羽田氏:最初の頃は弊社の主力事業『HOME’S』の存在感が大きく、不動産業界を変革するという話をしていました。しかし、やがて住まいだけでなく、暮らし全体にスコープが広がって来た時に、経営陣から従業員へビジョンを伝えていくようにしました。トップが何を目指すべきか、しつこく伝えることはとても有効だったと思います。

加藤:浸透してくるまでにターニングポイントはありましたか?

羽田氏: 2011年にザッポス社(米国企業、徹底した顧客サービスで有名になり、業績を伸ばした。靴を販売するウェブサイトを運営)に海外研修で行った時、ビジョンの浸透度が全く違うと気づきました。そこで、2012年に社内でビジョンプロジェクトというものを開始しました。そこでは全社共通の経営理念だけではなくて、日々の自分の業務と経営理念をつなげるため、各事業部にもビジョンを作ってもらう取り組みを行いました。それによって、社員に理解してもらいたかったことは、社員全ての仕事が会社の目指すビジョンの実現に繋がっているということです。

 その後、2013年からビジョンについて役員から語っていく、伝えていくという「役員の心得」という取り組みを始めました。役員がビジョンと一貫性のある戦略を作って、それに基づいて事業や組織を運営することを約束する五か条を掲げて、実際にできているかどうかを社員がアンケートで答える。結果の悪い人は社長から厳しい指導を受ける(笑)。温度差があった経営陣もその一貫性を意識し始めてから、理念とか事業ビジョンに沿った戦術を立てるようになっていきました。

「役員の心得」五か条

  • ビジョンと一貫性のある戦略を立案し、わかりやすく説明します
  • ビジョンを実現したいと心から思う社員だけをマネジャーに登用します
  • ビジョンとの一貫性のある指示を出します
  • ビジョンを常に語ります
  • ミドルマネジメントが上記を本気で実践するようフォローします

組織が生き残ることを目的にしてはならない

加藤:会社の運営にビジョンがどう寄与していると考えていますか?

羽田氏:会社の運営に寄与するためにビジョンがあるというよりも、ビジョンは組織の存在理由なので、ビジョンがなければ組織はないと考えています。
 自分が将来、地方自治体に入りたいのか、警視庁に入りたいのか、外務省に入りたいのかを考える時に、組織の目的、その組織が何を目指している組織なのかを踏まえてどこに入りたいのか考えますよね。

 しかし、組織は長期間存在し続けると、存在すること自体が目的となり、組織が組成された目的と、それを実現するために組織が生き残るという手段が逆転してしまうことが話をややこしくしていると思うんです。そうなると、ビジョンを目指すことよりも、組織が生き残るために儲けること考えてしまうようになってしまいがちです。そうならないように、組織が組成された目的を忘れないように、組織のビジョンを浸透させる努力が必要なのだと思います。

全部のことに注力することはできない

加藤:地方自治体は扱う領域がとても広いです。自治体で働くとしたら、どういうビジョンをどうやって落とし込むべきだと思いますか?

羽田氏:まったく勉強していないので完全な素人考えですが、自分が自治体で働くとすると、最終的にはその地域に住むすべての人が幸せだと思って生きていくというのが理想なんじゃないかと思います。ただ、人が幸せだと感じる出来事は多岐にわたります。

 なので段階を切って、たとえば、まずはどのように財源を確保するのかを考えたり、本当に困っている生活保護が必要な人とか障害を持っている人が摩擦なく暮らせるように注力していく段階があったり、そのうえで、「次にこれをやっていこう」、とフェーズを分けた方が全ての人をより早く幸せにできる気もします。

 ビジョンは目指す方向性を定める一方で、やらないことも決めるわけですよね。リソースが限られていることを考えると、一気に「全部やります」ではなくて、その地域で「まずどういう人にどうやって幸せになってほしいのか」とやることを絞るのも必要な気もします。もちろん、みんなすぐに幸せになりたいわけですし、同時並行で進めていかなければならない理由があるのもわかりますが。

ワクワクできるビジョン

羽田氏:世界では『野心的な変革目標』と言われるビジョンを掲げる会社が増えています。例えば、グーグルであれば会社設立時から「世界中の情報を整理する」と言っていたそうですが、そういうビジョンにはすごくグッときますよね。

 市民から見ると、各自治体は似たようなことをやっているけど、「うちは特にここをやるよ」と言うのは大事かもしれない。「みんなを幸せにしたい」というのは誰しも思っているんだけど、そこで分かりやすく惹きつけるビジョンを掲げて、「みんなの生活がこう変わっていく」と言ってもらえると、一市民としてワクワクする気がします。

※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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